2024年9月28日土曜日

シューベルトのピアノソナタ、全体像を把握したい…21曲中10曲は未完?

モーツァルトのピアノ協奏曲全曲を聴き終えて、次はシューベルトのピアノソナタを聴くことにした。「後期ソナタ」以外はほとんど聴いたことがないので、全21曲を順番に…。

ところが、シューベルトのソナタは「未完」のものが多いことを思い出し、例えば楽譜や CD の「全集」というのはどうなっているのだろう?「未完」のものはどうなっているのだろう?…という疑問が湧いてきた。以下、その調査結果 ♪




シューベルトのピアノソナタの全体像を知りたくて調べていたら、ピアニスト、佐藤卓史さんのサイト「シューベルティアーデ電子版」でよくまとまっている資料を見つけた ♪



以下、この資料を中心に「シューベルトのピアノソナタ概要」を私なりにまとめた。


シューベルト(1797 - 1828)のピアノソナタを作曲時期で分けると下記の 3つになる。

①第 1〜13番:1815〜1819
②第14〜18番:1823〜1826
③第19〜21番:1828


①の時期は未完成作品が多く、完成したものは第 4・7・9・13番の 4曲のみ。その理由については、自身が演奏して友人に聴かせるくらいの発表機会しかなかったため、完全な楽譜を作る必要がなかったのでは?…と佐藤卓史さんは推測している。

もう一つの可能性は、各楽章がバラバラの作品として伝わっているのではないか?という説。実際、第18番のように 4つの曲として出版された例もある。この説に基づいて「復元」?する試みも行われている。


①と②の間の約 3年間、シューベルトはオペラなどの舞台作品の創作に没頭し、結果的には挫折し健康を害する。

②の前年 1822年に書かれた「さすらい人幻想曲」D 760 で、新たな書法と構造への試みを行い、その成果がその後のソナタ制作に反映されることになる。

②の時期のソナタは第15番 D 840「レリーク」を除いてすべて完結しており、規模・内容ともに格段に充実したものとなっている。


そして、2つの「即興曲集」D 899、D 935(1827)を経て、③のシューベルト最後の年(1828)につながり、有名な 3つの「後期ソナタ」が書かれることになる。

この 3作品を出版してフンメルに捧げるというのがシューベルトの希望であったが、実際に出版されたのは死後 11年経った 1839年のこと。すでにフンメルが他界していたため、出版社(ディアベリ社)の意向でシューマンに捧げられた。


下表にシューベルトのピアノソナタの概要をまとめてみた。「未完」ソナタの「楽章補完」状況が分かるようにしてある。「楽譜」の変遷については後述。

丸付き数字①〜は完成楽章、カッコ付き数字⑴〜は未完成楽章、白抜き数字❷〜は他作品からの「補完」。完結作品には行全体に緑色の網掛けを施した。

なお「No.」(ソナタ番号)の振り方については複数の方法があるようだが、現在最も一般的と思われる数字にしてある。佐藤氏の資料では第7〜12番がこの表と異なっている。


No. D番号 調 作曲年 楽章構成 備考
1 157E1815①②③⑷mv.4欠落
2 279C1815①②③❹
3 459E1816①②❸❹❺*1
4 537Am1817①②③
5 557A♭1817①②③⑷mv.4欠落?
6 566Em1817①❷❸❹
7 568E♭1817①②③④別稿 D 567
8 571F#m1817⑴❷❸❹
9 575B1817①②③④
10 613C1818⑴❷⑶
11 625Fm1818⑴❷③⑷
12 655C#m1819
13 664A1819①②③
14 784Am1823①②③
15 840C1825①②⑶⑷レリーク
16 845Am1825①②③④
17 850D1825①②③④
18 894G1826①②③④幻想 *2
19 958Cm1828①②③④
20 959A1828①②③④
21 960B♭1828①②③④

*1 第3番は1843年に「5つのピアノ曲」として出版された
*2 第18番は幻想曲、アンダンテ、メヌエット、アレグレットとして出版された


【楽譜の変遷 3段階】

①第1段階:「旧全集」ブライトコプフ版 1888, 1897年
②第2段階:「ヘンレ原典版」1976年 パウル・バドゥラ=スコダ校訂
③第3段階:「新全集」ベーレンライター版 1996〜2003年


佐藤氏の資料は(従って上の表も)②の「ヘンレ原典版」に基づいている。

②では、欠落した楽章を(その楽章として書かれたかも知れない)他の作品で補完する「楽章連結」(上の表の ❷〜など)を行っている。

また、校訂を担当したパウル・バドゥラ=スコダはすべての未完ソナタに補筆を施して「演奏できる」仕様に仕立て上げ、さらに自らピアニストとして録音を行い、このフォーマットによるソナタ像を世界に広めた。

現在、演奏の現場で最もよく使用され、信頼されている楽譜…と佐藤氏は述べている。

③の「ベーレンライター版」では「楽章連結」の試みに批判的であり、明らかな関連性が認められる場合を除いて「別作品」として扱うという厳格な方針が採られている。


まぁ、ピアノを趣味で練習し、好きな曲をネットで聴いて楽しむだけの素人にとって、学術的な議論にはあまり興味がないので、もし練習することになれば「ヘンレ原典版」(↓)を使うことを基本にしたいと思う…(^^)♪


No.13 イ長調 Op.120 D.664
No.16 イ短調 Op.42 D.845
No.14 イ短調 Op.143 D.784
No. 4 イ短調 Op.164 D.537
No.17 ニ長調 Op.53 D.850
No. 7 変ホ長調 Op.122 D.568
No. 9 ロ長調 Op.147 D.575


No.18 ト長調 Op.78 D.894「幻想」
No.19 ハ短調 D.958
No.20 イ長調 D.959
No.21 変ロ長調 D.960


No. 1 Sonate E-dur D 157
No. 2 Sonate C-dur D 279/346
No. 3 Sonate (5 Klavierstücke) E-dur D 459
No. 5 Sonate As-dur D 557
No. 6 Sonate e-moll D 566/506
No. 7 別稿 Sonate Des-dur D 567
No. 8 Sonate fis-moll D 571/604/570
No.10 Sonate C-dur D 613/ 612
No.11 Sonate f-moll D 625/505
No.15 Sonate (Reliquie) C-dur D 840
Anhang:Fruhere Fassung des 1. Satzes der Sonate E-dur D 157 D 154
Anhang:Fruhere Fassung des 3. Satzes der Sonate C-dur D 279 D 277A
No. 12 Anhang:Fragment cis-moll D 655
Anhang:Fragment e-moll D 769 A
Anhang:Kritischer Bericht


シューベルトのピアノソナタの全容(概要)は大体わかったので、引き続きシューベルトの「ピアノソナタ全集」を録音しているピアニストを調べようと思っている。

現時点で見つけたのは、パウル・バドゥラ=スコダ(ピリオド楽器)、エリーザベト・レオンスカヤ、アンドラーシュ・シフなど。

ちなみに、第1番 D 157 を聴き始めているが、レオンスカヤがなかなかいい ♪

※2024/09/29追記
《シューベルトのピアノソナタ「全集」を録音しているピアニストたち》


参考 1:シューベルトのピアノソナタ人気投票の結果(以前調べたもの)



参考 2:これまでに書いたシューベルト関連の記事。

《シューベルトのピアノ曲に関する記事まとめ》 2017年11月15日

《シューベルト:ピアノソナタ14番:出だし順調 ♪》 2017年1月9日

《シューベルトのピアノソナタ:予習》 2016年11月17日

《シューベルトのピアノ・ソナタ》 2015年1月13日

《村上春樹が語るシューベルトのピアノ・ソナタ》 2015年1月10日

《シューベルトを弾くとしたら…(選曲準備1)》 2014年7月15日


参考 3:佐藤卓史さんの記事(↓)の一部コピペ(自分の参照用)



第1番 ホ長調 D157 (作曲:1815年2月 出版:1888年)
 I. Allegro ma non troppo ホ長調
 II. Andante ホ短調
 III. Menuetto. Allegro vivace ホ長調

第2番 ハ長調 D279 (作曲:1815年9月 出版:1888年)
 I. Allegro moderato ハ長調
 II. Andante ヘ長調
 III. Menuetto. Allegro vivace イ短調
 IV. Allegretto ハ長調 D346

第3番 ホ長調 D459 (作曲:1816年8月 出版:1843年(「5つのピアノ曲」として))
 I. Allegro moderato ホ長調
 II. Allegro ホ長調 [自筆譜未完]
 III. Adagio ハ長調 D459A-1
 IV. Scherzo. Allegro イ長調 D459A-2
 V. Allegro patetico ホ長調 D459A-3

第4番 イ短調 D537 (作曲:1817年3月 出版:1852年(作品164))
 I. Allegro ma non troppo イ短調
 II. Allegretto quasi Andantino ホ長調
 III. Allegro vivace イ短調

第5番 変イ長調 D557 (作曲:1817年5月 出版:1888年)
 I. Allegro moderato 変イ長調
 II. Andante 変ホ長調
 III. Allegro 変ホ長調

第6番 ホ短調 D566 (作曲:1817年6月)
 I. Moderato ホ短調 (出版:1888年)
 II. Allegretto ホ長調 (出版:1907年)
 III. Scherzo. Allegro vivace 変イ長調 (出版:1928年)
 IV. Rondo. Allegretto ホ長調 D506 (出版:1848年(「アダージョとロンド 作品145」として))

第7番の第1稿 変ニ長調 D567 (作曲:1817年6月 出版:1897年)
 I. Allegro moderato 変ニ長調
 II. Andante molto 嬰ハ短調
 III. Allegretto 変ニ長調 [未完]

第7番 変ホ長調 D568 (作曲:不明 出版:1829年(「作品122」))
 I. Allegro moderato 変ホ長調
 II. Andante molto ト短調
 III. Menuetto. Allegretto 変ホ長調
 IV. Allegro moderato 変ホ長調

第8番 嬰ヘ短調 D571 (作曲:1817年7月 出版:1897年)
 I. Allegro moderato 嬰ヘ短調 [未完]
 II. (Andantino) イ長調 D604
 III. Scherzo. Allegro vivace ニ長調 D570-2
 IV. Allegro D570-1 嬰ヘ短調 [未完]

第9番 ロ長調 D575 (作曲:1817年8月 出版:1846年(「作品147」))
 I. Allegro ma non troppo ロ長調
 II. Andante ホ長調
 III. Scherzo. Allegretto ト長調
 IV. Allegro giusto ロ長調

第10番 ハ長調 D613 (作曲:1818年4月 出版:1897年)
 I. Moderato ハ長調 [未完]
 II. Adagio ホ長調 D612 (出版:1869年)
 III. - ハ長調 [未完]

第11番 ヘ短調 D625 (作曲:1818年9月 出版:1897年)
 I. Allegro ヘ短調 [未完]
 II. Adagio 変ニ長調 D505 (出版:1848年(ホ長調に移調し「アダージョとロンド 作品145」として))
 III. Scherzo. Allegretto ホ長調
 IV. Allegro ヘ短調 [未完]

第12番 嬰ハ短調 D655 (作曲:1819年4月 出版:1897年)
 I. - 嬰ハ短調 [未完]

第13番 イ長調 D664 (作曲:1819年? 出版:1829年(「作品120」))
 I. Allegro moderato イ長調
 II. Andante ニ長調
 III. Allegro イ長調

断章 ホ短調 D769A (作曲:1823年春 出版:1958年)
 I. Allegro ホ短調 [未完]

第14番 イ短調 D784 (作曲:1823年2月 出版:1839年(「作品143」))
 I. Allegro giusto イ短調
 II. Andante ヘ長調
 III. Allegro vivace イ短調

第15番 ハ長調 D840(「レリーク」) (作曲:1825年4月 出版:1861年)
 I. Moderato ハ長調
 II. Andante ハ短調
 III. Menuetto. Allegro 変イ長調 [未完]
 IV. Rondo. Allegro ハ長調 [未完]

第16番 イ短調 D845 (作曲:1825年5月 出版:1826年(「作品42」))
 I. Moderato イ短調
 II. Andante, poco mosso ハ長調
 III. Scherzo. Allegro vivace イ短調
 IV. Rondo. Allegro vivace イ短調

第17番 ニ長調 D850 (作曲:1825年8月 出版:1826年(「作品53」))
 I. Allegro vivace ニ長調
 II. Con moto イ長調
 III. Scherzo. Allegro vivace ニ長調
 IV. Rondo. Allegro moderato ニ長調

第18番 ト長調 D894(「幻想」) (作曲:1826年10月 出版:1827年(「幻想曲、アンダンテ、メヌエットとアレグレット 作品78」として))
 I. Molto moderato e cantabile ト長調
 II. Andante ニ長調
 III. Menuetto. Allegro moderato ロ短調
 IV. Allegretto ト長調

第19番 ハ短調 D958 (作曲:1828年9月 出版:1838年)
 I. Allegro ハ短調
 II. Adagio 変イ長調
 III. Menuetto. Allegro ハ短調
 IV. Allegro ハ短調

第20番 イ短調 D959 (作曲:1828年9月 出版:1838年)
 I. Allegro イ長調
 II. Andantino 嬰ヘ短調
 III. Scherzo. Allegro vivace イ長調
 IV. Allegretto イ長調

第21番 変ロ長調 D960 (作曲:1828年9月 出版:1838年)
 I. Molto moderato 変ロ長調
 II. Andante sostenuto 嬰ハ短調
 III. Scherzo. Allegro vivace 変ロ長調
 IV. Allegro ma non troppo 変ロ長調



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