連載「大人のピアノ練習法」
(1) 鍛える:筋肉と神経
小さい子供がピアノを習う場合、時間をかけて少しずつ練習する中で、指や手に必要な筋肉は自然に鍛えられる。大人になってからピアノを始める場合は、子どもと同じやり方では、なかなか効果が期待できないのではないだろうか。
ピアノを弾くという動作以外のことを長年やってきた大人の手・指は、ピアノを弾くことに適していないことは容易に想像できる。また、子どものように1年・2年という時間をかけて、というわけにはいかない場合が多い。すぐにある程度弾けるようになりたい、というのが大人のピアノ学習者の気持ちだと思われる。
そこで、ピアノのための指の「筋トレ」をお薦めする。ただし、筋骨隆々を目指すわけではなく、どちらかというとイチローのような、しなやかな筋肉を目指す必要がある。
基本的な考え方は、次の3点である。
①脱力しながら、指の第3関節(指の根元)で支える力をつける
②とくに弱い4と5の指(薬指、小指)を鍛える
③力とともに動かすことを意識する
最初に注意点。筋肉が痛くなったり、疲れたりするほどはやらないこと。むしろ、すきま時間を使って「ときどき少しずつ」、ただし毎日、気長にやったほうがよいと思われる。
やり方はいろいろ考えられるので、①~③を意識して、各人にあった方法を工夫して戴ければいいのだが、いくつかの例をご紹介する。
(1) 指立て伏せ
腕立て伏せを指だけの支えでやる。
普通にやるときついので、膝をつくか、立って壁に向かって行う。
(2) 机でピアノ
机の端などで、ピアノを弾く指の形を作り、第3関節で支える。
この状態で手首を柔らかく上下し、支える感覚を確認する。
(3) 歩きながら
すきま時間を利用してできる方法。
左右の5本の指を指先で合わせて、両手をボール状にする。
この状態で両方から力をかけて押す。
いわゆる「アイソメトリックス」による筋トレ。
これらの前後に、指のストレッチとか、じゃんけんのグーとパーを高速で繰り返す運動を行うとさらによい。
なお、動かすことには、筋肉だけではなく、指を動かすための神経細胞を強化するという目的もある。
「ピアニストの脳を科学する」(古屋晋一 著、春秋社)という本に、次のような興味ある内容が書いてある。(参考記事:《読書メモ:ピアニストの脳を科学する》)
ピアニストの脳を調べると、指を動かすための神経細胞の増大が見られる。普通の人と比較すると、小脳のサイズが5%多くなっている。この神経細胞は練習によって増える。その増加率は、11歳までが顕著であるが、成人してからも訓練によって増える。
つまり、動かすための神経細胞は11歳までにたくさん練習した方が効率的に増えるのだが、大人でも、増加率は低くなるが増加はする、ということである。
この研究結果を信じて、暇を見つけては指のトレーニングに励んでみては?
次は 「(2)鍛える:柔軟性とスピード」
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