『ピアニストの脳を科学する: 超絶技巧のメカニズム』(古屋晋一著 春秋社)
1.超絶技巧は脳から生まれる
- ピアニストは省エネの達人:同じ動きでも活動する神経細胞は普通の人より少ない
- 指を動かすための神経細胞が増えている:小脳のサイズが+5% →練習によって増える(11歳までの増加率が大きいが大人も増える)
- イメージトレーニングでも神経細胞の働きが向上(実技との組合せが効果的)
2.左右の独立性
- 脳梁を通って命令がもれるため左右でつられる
- ピアニストは左右別の動きと、左右同じ動きで神経の活動に差異がない
- 左右同じ動きを安定して行うため、ピアニストは脳梁が大きくなっている
3.ピアニストはピアノの音を聴くだけで、指を動かす神経細胞が活動する
- 音に身体が反応する回路、指の動き(や視覚)によって音が想起される回路がある
- これまでに弾いた聴いたパターンの蓄積が効いている
4.ピアニストには「ミスを予知し修正する」能力がある
5.多彩な響きは高度な演奏技術と「良い耳」によって生み出される
- 音楽家は、音を聴いたときに働く聴覚野の神経細胞の数が多く、働きが優れている(反応の大きさと、処理の速さ)
- 「脳の柔らかい」時期(~7歳?)にたくさん良い音楽を聴くことが有効 →成人後のトレーニングも有効かも…
- 「良い耳」を育てるもう一つの条件:楽器を演奏する=身体を動かす
- 指先の触感もピアニストの方が繊細
- 言語話し言葉のニュアンスや感情を聞き取る力、ピアニストが優れている(雑音の中で話し声を聞き取る能力も高い)
6.暗譜
- ピアニストは情報を蓄える脳(海馬)が大きい
- 視覚野の神経細胞も動員している(絵として…)
- 複数の音をひとつにまとめて圧縮している(パターン化)
- 運動野が大きく、指を動かす順番としても覚えている
7.初見のための3つの能力
- 短期記憶、周辺視野、指使いの選択(+左手の器用さ)
8.ピアニストの省エネ術(脱力)
- ピアニストは「1分間に1800打鍵」(パガニーニ練習曲6番の11変奏)
- 速筋より遅筋が発達している(短距離走ではなくマラソン)
- 無駄な時間に仕事をしない
- 鍵盤が底に着いてから力を加えている時間が短い
- 長音を抑える力も小さい(アマの1/3)
- フォームの工夫:15指のトレモロで2や3の指の上がりが少ない
- 重力の利用
- 初心者は上腕三頭筋(伸ばす筋肉、後ろ)をより収縮させる
- プロは上腕二頭筋(曲げる筋肉、前)を弛緩させることで、重力による腕の落下を利用している&その「程度」のコントロールも
- しなりを利用(慣性力遠心力)
- 肩の筋肉を強く収縮させることで上腕の動きにブレーキをかけ、
- 肘から先を加速させる「しなり」の力を増す(肩から指先までをムチのようにしならせる)
- 鍵盤から受ける力を逃がす(アマより33%も軽減)
- 徐々に指を立てながら、受ける力を逃がしながら鍵盤を押さえる
- 肩で動きを作る(指先に近いほど力を入れない活動しない)
- 手首の筋肉を固めすぎず、クッションとして使う(アマは伸ばす縮める筋肉の同時収縮によって固めがち)
- イメージしてから打鍵する(と余分な力が入らない)
9.運動技能 巧みな指
- ピアニストはスピードを上げてもリズムも乱れず弾き方も変わらない
- プロは「予測」して準備しながら(0.5秒前とか)話すように弾く →「話す」ときの「調音結合」(次に発音する音に応じてあらかじめ口の動き方を変える)
- ピアニストが技術を維持するために必要な練習時間は3時間45分/日
10.感動を生み出す演奏
- 「音や音楽の表情を多彩に変化させる身体運動技能」
- ハンマーのしなりが変わることによって音色が変わる:タッチノイズ(指と鍵盤の接触音)が混じると硬い音に
- テンポのゆらぎが減るほど演奏の情感が乏しく機械的に感じる(ただし「音楽のルールに則った」ゆらぎが必要)
- 音量のゆらぎではあまり変わらない
- 聴いて感動する→脳の「報酬系」が活発になる(快感、ドーパミン)
- 「来るぞ来るぞ」という予測予感+「来た!」ときの2回(サビやクライマックスの前で少し遅くするピアニスト)
- BGMより本気で聴いたときのほうが褒美が大きい
- 怖い音楽や不協和音を聴いて嫌な感じ(生命の恐怖を感じたときと同じ刺激)
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