2014年3月25日火曜日

本「壁画洞窟の音」(土取利行)

めずらしくピアノ関連以外の本を読んだ。旧石器時代の音楽に関する話である。

土取(つちとり)利行という人(音楽家、パーカッショニスト)の書いた『壁画洞窟の音』という本である。サブタイトルには「旧石器時代・音楽の源流をゆく」とある。面白かった。




この手の本はふだんはあまり読まない。たぶん少し前に読んだ本(『音楽と人間と宇宙』に書いてあった、「4万年前に、高度な楽器(5つの指穴がついた骨製のフルート)が作られていたという話」が頭の片隅に残っていたせいだろう。
『たまには壮大なことを考えてみる?「音楽と人間と宇宙」』

興味のあった部分のみ簡単に書いてみたい。


■洞窟の音

洞窟は当然ながら「反響音」があり、古代人はこの音に人間を超越したものを感じていたと思われる。壁画の描かれている場所が、音響・反響的にみても特別な場所であることが多い。例えば、断続的に発する声や音が、反響音との作用で対話のようなやりとりに聞こえたりする。

そこで使われた楽器としては、弓、石筍などの石、骨笛などが考えられる。

暗い洞窟の中で、炎の明かりの中で、声や石を打つ音や笛の音の反響は、想像を絶する効果音となっていたはずである。おそらく、何かの祭事(祈り・占い)が行われていたのだろう。


■古代の鍵盤楽器:リトフォン(石琴)

驚いたことに、旧石器時代に石を並べたシロフォンのような楽器があったかも知れないそうだ。楽器ではないという説もあるが、石筍を叩いていた古代人が持ち運べる楽器として「石琴」を作ったと想像するのも面白い。

この本の筆者は、日本の「サヌカイト」という自然石を使った演奏もしている。石の音とは思えぬ美しさである。→サヌカイト青の山/土取利行(YouTube)


■「認知的流動性」と「全体的発話からの分化」

第6章「芸術のビッグバン」という話が興味深い。認知考古学者のスティーヴン・ミズンという人が唱えた「音楽起源説」の紹介である。

ひとつは、知能の進化過程の話である。

比較的早い時期から、人間は次の三つの領域の知能を持っていた。社会的なコミュニケーション能力(社会的知能)、動植物・天候などに関する理解力(博物的知能)、そして人工物を作ったり取り扱ったりする能力(技術的知能)である。

最初のうちはこの三つは個別にしか機能していなかったらしく、その効果・成果は限定的なものであった。ところが、この三つがつながることによって人間の知能は大きく拡張される。例えば、獲物ごとに異なる道具を工夫して作り、それを社会に広めることにより社会全体を豊かにするなどの発展が可能になったという。この領域をつなぐ働きを「認知的流動性」と呼んでいる。

この認知的流動性による知能・心の進化が、芸術の誕生と発展、すなわち「芸術のビッグバン」にもつながったということである。

もうひとつは、音楽や言語の分化の話である。

最初、コミュニケーションや表現の方法は「全体的」なものであった。つまり、身振り・踊り・リズム・メロディー・音色などさまざまな要素を組み合わせてひとつのメッセージを表していた。そこには単語も文法もなかった。

それがのちに、言語や音楽や舞踊に分化していったというのだ。その分化を促したのも「認知的流動性」らしいのだが、この辺になると私自身の理解能力を超えているので説明は省略する…。


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