2014年3月11日火曜日

「芸術を創る脳」:Ⅳ.なぜ絵画は美しいのか

読書メモ 「芸術を創る脳」 美・言語・人間性をめぐる対話

Ⅳ.なぜ絵画は美しいのか(千住博)

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※作曲家・指揮者の曽我大介氏との対談。対談者プロフィールは下記参照。
 →お薦めの本「芸術を創る脳」:音楽・将棋・マジック・絵画

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●抜き書き(番号はページ)

191
酒井:千住さんは…「絵を描く悦び」では「大切なのは普通の人が見て、何で今までこれがなかったのだろうと思えるような、切り口の独創性」とお書きになってます。

192
千住:芸術とか美というものは、まさに「生きる」という大切な本能なのです。美とは、生きていくことに対するメッセージです。
…一つのきっかけは、コンピュータ上の仮想世界がもたらす悪影響でした。仮想世界で伝えられることは極めて限定的で、視覚情報や聴覚情報のごくわずかな一部にすぎません。空間の広がりや細部の質感、そして匂いなどは伝わらない。

194
千住:例えば、優れたワインは人間が生み出した芸術作品と言えるでしょう。…よいワインであれば、多くの人が美味しいと分かり、そのよさを味わうことができます。芸術とは民族や人種を超えて、思想や哲学も超えて、そのよさを誰もが享受できるものなのです。

194
千住:その一方で、文明が進むほどいろいろなものが分割され、さらに細分化されていきます。そして、分けなくていいものまでどんどん分けていって、「あなたは何人?」「あなたは何教?」などとどうでもいいことで分け始めてしまったのです。それが、互いの諍いの原因になっています。権力や領土だけでなく、人種や宗教までもが紛争の原因になってしまいました。

196
千住:実は、芸術はとても単純なことをやっているのです。「私はこう思う。皆さん、どうですか」と問いかけているのです。それは問いかけであって、答えではありません。芸術は、他人と仲よくやるための知恵なのです。(例:シェフが料理を作る 私はこれが美味しいと思う いかがでしょう?→感想の多様性→)
褒められれば芸術で、貶されれば芸術ではない、というものではありません。感想の多様性を、芸術家のわれわれも理解しなければなりません。…「分からない」という感想も大切なメッセージとして受け取らなければ。

197
千住:芸術は、一つ前の時代とつながっていればよくて、同時代の中では浮いてしまってもよいのです。同時代の潮流は、声の大きな人がミスリードしてしまっていることがありますから。歴史のふるいを通過してきた一つ前の時代とつながっていることで、その次に向かう可能性が生まれます。そのためには、人類が究めてきた芸術の道を一つの流れとして、しっかり勉強しておかなければなりません。

198
千住:デザインに個性は必要ないのです。同様に、絵画や芸術一般にも個性は必要ない。この点は多くの人が誤解しているところです。人びとに本当に必要とされるかどうかが大切なことです。

199
千住:…芸術では「生きる」ということに対して、どれほど真摯であるかが問われます
酒井:サイエンスでは「自然界」に対してどれほど真摯であるかが問われる

204
千住:秩序ある混沌(chaotic order)」(江崎玲於奈)
私はよく学生に、「物事を整理してしまわないように」と言っています。

210
千住:…写真家の才能というのは、カメラを常に持ち歩いていることなのだそうです。シャッターチャンスが訪れたときに、カメラがあるかどうかが大事なのです。チャンスを逃したときには、「しまった」と思うことが大切。

212
千住:美しい絵を描きたかったら、美しい人生を過ごせ」(有名な批評家の言葉)
美しい人生とは、活力のある日々、生きていてよかったという毎日を過ごすことで、その積み重ねです。

213
千住:文明が進めば進むほど、私たちは最も基本的なものを失ってしまっているのです。
酒井:人間の思考スピードは、歩いたり走ったりするくらいで限界という感じです。じっくり見て味わい、考えるという人間の脳の特性は変わりませんからね。
千住:文明を否定しているわけではない、…しかし、それは人生のごく一部に過ぎない
→思い出させるのが文化であり芸術家の役割

225
千住:美術というのは、「見えるものを忠実に再現して見せる」ものではありません。「見えないものをなんとかして見えるようにする」のが、ヴィジュアル・アート(視覚芸術)なのです。同じように、音楽は、「聞こえないものを、なんとかして聞こえるようにする」芸術です…作り手が最初にどんな想像力を持っているかが問われる…

228(2013年1月の書展、千葉蒼玄氏の「3.11 鎮魂と復活」を見て…)
千住:素晴らしさのあまり、私は言葉が出ません。ただただ、見ることによって昇華される気持ちがあります。
酒井:こうした素晴らしい作品を「前衛」という枠で語ろうとすることに、私は疑問を感じました。
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●感想など

4つの対談の中で、この千住博さんとの話が一番示唆に富み、なるほどとも思い、いろいろと考えさせられたものであった。まだ十分に消化できていないので、上の抜き書きを読んで戴ければと思う。とくに印象に残った言葉をいくつかあげておく。

* 芸術とか美というものは、まさに「生きる」という大切な本能
* 芸術は問いかけであって、答えではありません
* 芸術では「生きる」ということに対して、どれほど真摯であるかが問われます
* 美しい絵を描きたかったら、美しい人生を過ごせ
* 音楽は、「聞こえないものを、なんとかして聞こえるようにする」芸術です

全体としてなんとなく感じたことは、現代文明があまりに効率とか儲けとか現世ご利益とかに偏りすぎて壊れかけているのではないか、ということ。そして「文化や芸術」が科学や企業活動や政治などとも結びつくことで、解決への一歩を踏み出せるのではないか、ということである。(前回の対談でも感じたことであるが…)



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