2013年5月22日水曜日

感動を生み出す演奏(ピアニストの脳を科学する)

昨日(《「脱力」を科学する》)の続きである。『ピアニストの脳を科学する』の最後の章に「感動を生み出す演奏」についての科学的データによる解説がある。

「いい音楽」「いい演奏」についてずっと気になっている私にとって、とても参考になることがいくつかあった。


『ピアニストの脳を科学する: 超絶技巧のメカニズム』(古屋晋一著 春秋社)



まず、「音色」の話である。私の長年の疑問がやっと解決した。「プロのピアニストが弾いた音と私が弾いた音とは、単音では違いがあるのか?」という疑問である。もちろん、同じピアノで同じ音を弾いた場合である。

昔、科学雑誌か何かで、「ピアニストが弾いた音と猫が鍵盤の上を歩いたときの音は、物理的には同じである」という記事を読んだことがある。それ以来、上の疑問を持ち続けていた。


この本によると、物理的にも音に違いが出る、というのが答えである。

その理由の一つが「タッチ」によるハンマーの「しなり」の違いであるらしい。しなり具合によって弦への当たり方が変わり、結果として音色に違いが出るようなのである。

では、しなりの違いはどうして出るのかというと、キーにかかる力のピークの違いによるらしい。打鍵の先頭にピークがある場合と後ろの方にピークがある場合とでは、「しなり」方が違うようだ。何とも微妙な話である。


もう一つの要因は「タッチノイズ」である。指と鍵盤の接触音である。これが混じると硬い音になる、という測定結果があるらしい。したがって、鍵盤を押すより叩いた方が硬い音になる、という直感的な感覚は正しいと言える。


次に演奏の「表情」「情感」の話である。同じ曲に対して、電子的に音量やテンポを変化させたときの聴き手の感じ方を調査した結果である。

一番効果があった(表情が豊かに感じられた)のは、テンポのゆらぎであるという結果になった。もちろん、「音楽のルールに則った」テンポのゆらぎである。音量のゆらぎは思ったほど効果がない、とのことである。これはちょっと意外であった。いずれにしても、この技は使えるかもしれない。


最後は、聴き手の「感動」の話である。いい音楽を聴いて感動すると、脳の「報酬系」が活発になる(脳が快感を感じ、ドーパミンが分泌される)という、よく聞く話。

ただ、この「報酬」は2回あるようだ。「来るぞ来るぞ」という予測・予感のときと「来た!」というときの2回。サビやクライマックスの前で少しテンポを落とすピアニストは、無意識にこの効果の最大化を狙っているのかもしれない。(これも「技」として使える?)

ちなみに、この「報酬」効果は、BGM的に聞くときよりも本気で聴いたときの方が大きくなる、とのこと。

また、逆に怖い音楽や不協和音を聴いて感じる嫌悪感は、生命の恐怖を感じたときと同じ刺激であるらしい。私が「現代音楽」を好きになれない理由もこの辺りにあるのかもしれない。



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