これからのピアノ音楽に関して、明るい未来を期待したくなるような記事を見つけた。ピアノの演奏(奏法など)については、まだまだ飛躍的に進化する余地があるそうだ。
そう語るのはソニーコンピュータサイエンス研究所でピアノ演奏と脳の動きを研究している医学博士の古屋晋一氏。クラシック音楽関連書籍では「異例のヒット」となっている『ピアニストの脳を科学する: 超絶技巧のメカニズム』の著者でもある。
記事(↓)は日本クラシックソムリエ協会代表理事、田中泰氏によるインタビュー。
✏️ピアノ演奏に残された「飛躍的な進化」の余地
「身体の使い方」が進化のカギを握っている
古屋晋一博士の専門分野は「演奏科学」(古屋氏命名)で、「どのような練習をしたら効率的か」というのが主なテーマ。「科学の応用によって日本人の演奏技術を進化させること。そしてピアニストの腕の故障やジストニアをなくすこと」が目標だそうだ。
音楽の研究には、他に「音楽知覚認知科学」「音楽療法」というのがあるとのこと。他にはないの?とも思ったが、きっとサブテーマのようなものがあるのだろう。
「演奏科学」に関する話で、ちょっと面白かったのはヨーロッパ(ドイツ)とアメリカのアプローチの違い。
ヨーロッパは医学的な分野が進んでいる。例えばハノーファーの音大には学内に音楽家のための専門外来(クリニック)があったり、音楽生理学が必修科目になっていたりする。でも、それは故障した後の「治療」が中心なので「後手」に回っていると言える。
一方、アメリカでは「予防の教育」が進んでいて、演奏における身体の使い方や姿勢などがしっかり教育されている。つまり「先手」である。
ただ、残念なのは「音楽」とのつながりが薄いこと。「どんな音色や響きを出すか」という音楽的なアプローチはヨーロッパの方が進んでいるそうだ。
古屋氏は両方を融合した研究を目指しているという。つまり、先手としての「身体教育」で、故障の予防だけでなく、音楽表現のために身体をどう使うのがいいかということが研究のテーマになる。
私が一番興味を惹かれたのは「音楽における表現の可能性はまだまだ残っている」という話。新しい演奏技術の開拓が可能で、その進化によって新しいピアノ音楽が出てくる ♪
古屋氏は「過去のすばらしいアーティストたちの演奏を聴くと、もうこれ以上の表現はできないのかなと思われがちです。たとえばホロヴィッツに勝てるピアニストはもう出てこないのでは、とか…」「(でも)僕は出てくると思っています」と仰っている。
私も、過去の巨匠たちを超えるピアニストはこれからも出てくる、と信じている一人なのでこの言葉は嬉しい。しかも科学的な裏付けがある(ありそう?)。
「若いピアニストを見ていると、ものすごく音楽的に才能があるにもかかわらず、身体の使い方が適切でないと思われる方が時折見られます」
「時間をかけた反復練習ではまったくできなかったことが、わずか5分でできるようになります。練習量で超えられなかった壁がテクノロジーの力によって一瞬で超えられる」
なんだかワクワクする話である。ついでに、素人でも練習量によらずに上手くなる「テクノロジー」もぜひ開発してほしいものだ…(^^;)。
ちなみに、過去の大ピアニストたちの中で、「身体の使い方という意味では、アルトゥール・ルービンシュタインがいちばんきれい」だそうだ。座っている姿勢から違うらしい。
一度、映像を確認してみたいと思う。
一方、グレン・グールドの弾き姿については、「身体の使い方があんなに悪いのにあそこまでの演奏ができているのですから、(もしグールドにアドバイスする機会が持てたとしたら)もっとすごいことができたと思います」とのこと。
古屋氏は「最終的には、ショパン・コンクールの優勝者といったピアノのスーパースターを日本から輩出することが目標」とも言われているが、本当にそんな日が来たらどんなにか素晴らしいだろうと思う。
たぶん「テクノロジー」だけではどうしようもない「壁」があるような気もする。
ご参考:《読書メモ:ピアニストの脳を科学する》
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