『ピアニストの脳を科学する: 超絶技巧のメカニズム』(古屋晋一著 春秋社)
全体的に言えることは、プロはアマチュアに比べて「省エネ」に徹している、ということである。無駄な時間に仕事をしない、無駄に力を加えない、のである。
例えば、打鍵のとき、鍵盤が底に着いてから力を加えている時間がアマチュアより短いとか、押さえ続けるときに加える力もアマチュアの1/3であることが、測定の結果わかったそうだ。他にも、例えば1指と5指のトレモロで2指・3指の上がりが少ないという結果も出ている。使わない指に余分な力を入れない、ということだ。
重力の利用においても、プロは巧妙である。腕を使った打鍵において、初心者は上腕三頭筋(伸ばす筋肉、後ろ側)をより収縮させるのに対し、プロは上腕二頭筋(曲げる筋肉、前)を弛緩させることで、重力による腕の落下を利用しているそうだ。
重力の利用と言えば、それはそうだろうとも思う。だが、落下スピードのコントロールということを考えると、力でブレーキをかけずに筋肉の緩め具合だけで調整するというのは並み大抵の技ではない。
さらに強い音が求められる場合は、筋力ではなく腕の「しなり」を利用するようだ。肩の筋肉を強く収縮させることで、肩から指先までをムチのようにしならせるらしい。
なお、重力利用の練習では、鍵盤のある音を狙わずに練習した方が効果的だと書いてある。野球の素振り練習でボールを使わないことと同じ理屈である。
その他にも、科学的な実験や観察から分かったことが紹介されている。
プロは、鍵盤から受ける力を逃がすのがうまい(アマより33%も軽減)とか、基本的に肩で動きを作る(指先に近いほど力を入れない・活動しない)とか、手首の筋肉を固めすぎず、クッションとして使っているとか。アマチュアの一人としては、どうやればそれが実現できるかを知りたいのだが…。
「アマチュアは伸ばす・縮める筋肉の同時収縮によって腕や手首を固めがち」という指摘はよく理解できる。問題は、それをどう回避するかである。
ちなみに、出したい音をイメージしてから打鍵すると余分な力が入らない、らしい…。
…といったことを頭の片隅に置いて、「脱力!脱力!」とおまじないを唱えながら練習に勤しむ毎日である。
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