2021年2月28日日曜日

現代音楽作曲家のピアノ曲の作り方:薮田翔一氏の場合

現代ピアノ曲を探しているときに、ちょっと面白い記事を見つけた。どんな準備をして、どういう手順で曲を作るかというのを、作曲家本人が簡単に解説したものだ。

何だか、理工系の論文作りに似てなくもない…(^^;)?




見つけたのはこの記事(↓)。作曲家、薮田翔一氏の公式サイトに載っていたもの。

✏️曲を作る前に準備する事(現代音楽入門)


薮田翔一という名前は初めて聞いたのだが、2014年の第3回高松国際ピアノコンクールのときに委嘱されて、課題曲「瀬戸内海 Seto Inland Sea」を作った人のようだ。

✏️薮田翔一プロフィール の「概要」をコピペしておく。

「短い音の集積」をテーマにした楽曲を数多く発表しており、世界最高峰の音楽コンクールである「ジュネーブ国際音楽コンクール作曲部門」にて日本人初となる1位入賞。その考え抜かれた楽曲の構築美は高く評価され、「ウィーンコンチェルトハウス100周年作曲賞最優秀作品賞」なども受賞している。


以下、記事の内容をご紹介しながら、感想などを少し書いてみたい。


まず、作曲家のタイプを「音が天から聴こえてくるタイプ」いわゆる“天才作曲家”と、「試行錯誤を繰り返して作曲をするタイプ」(努力型)に分けていて、この記事は後者の場合についての説明になる。

「天才型」作曲家に「準備」が必要ないかどうかは、よく分からないが…。たぶん、何らかのインプットやインスピレーションの元は必要なんだと思う。

この記事には、努力型の作曲家が、例えばピアノソロ曲を書く場合、どんなことを準備するのかが書いてある。


まず、「最初に必要なものは“ピアノ曲に対する深い知識”です」とあって、まぁ、それはそうだろうと思いながら続きを読んでちょっと驚いた。知識の「深さ」が凄いのだ。

「理想を言うならば」という前置きはあるものの、ここに書いてあること(↓)を本当に真面目にやると大変なことになりそうだ…(^^;)

「過去に作曲されたピアノ曲の全て」を知った上で、さらにそれは「どういったタイプの曲」で、「どのような奏法が使用されたか?」など、一曲一曲を徹底的に分析した上で解析しておく必要があります。

まぁ、「主要なピアノ曲の全て」くらいが「落とし所」なのかな…?


で、その理由を述べたところ(↓)が興味深い。

これは、現代音楽という音楽のジャンル上、「クラシック音楽の歴史を踏まえた上で、新たな“音楽”・“奏法”・“価値”を持った曲を作らなければいけない」といった“使命”が作曲家に付きまとってくるためです。


うすうす感じてはいたが、やはり「現代音楽」を作っていこうという人たちは、何か新しいもの(音楽・奏法・価値)を生み出さなくてはいけないという「使命感」(プレッシャー?)を持っておられるようだ。

ただ、個人的な素人的な疑問として前から思っているのは、「新しい音楽の価値」というのは、音楽を作るための技法とか奏法とかにしかないのだろうか?…ということ。

音楽や音響の美しさとかそこに表現される感性・感情のようなものより、言葉で説明できる「理屈」や「手法」みたいなものが優先されてはいないだろうか?


いずれにしても、現代音楽作曲家が一つのピアノ曲を作るに当たっては「徹底的な調査・研究」が必要となる。それが「第一歩」と書いてある…(^^;)。

そして、「新しい」ピアノ曲を生み出すための悩みもちょっとだけ書いてある。現代音楽というジャンルにおいてピアノ曲を作曲することは並大抵のことではない。なぜならば…

…既に数え切れないほどの「ピアノソロ曲」が世界には存在した上で、“名曲”と呼ばれる楽曲も数多く有り、それに加えてピアノ曲は“クラシックの大作曲家達”が、長年に渡り“あらゆる奏法”を研究しつくしてきたためです。

これは何となく分かるような気がする。


そして、「こうした苦悩を乗り越え、何か作曲の材料となるものを見つけ、そこに“深さ”や“豊かさ”織り込む事ができる事を確信できた」ところで、準備段階の後半へ。


続いては「バラバラ散らばっている作曲材料」を頭の中で組み立てていく作業に入っていきます。 作曲は“構成が命”とも言われており、作曲段階に至る前に「大まかな道筋を模索した上で“組み立て”」を行っていなければ、そこに音楽的な“深み”や“味”を加えていく事ができません。

この試行錯誤を経て「全体像が“ハッキリ”と目の前に見えた」ところでやっと「作曲の準備」が終わることになる。


…いやぁ、作曲家という仕事も大変だ…。

ところで、最初に書いた「理工系の論文作り」の話であるが…。

学生のときに卒論などの論文をわずかではあるが書いたことがある。論文は、その分野のそれまでの研究成果などをすべて(主なものだけでも…)調べて、新しさがあるかどうかを検証する必要がある。そして、論文に書くことに新規性や価値があるかなど確認するわけだ。

そして、実験結果のデータなどの材料をそろえ、それを構成していく。…といったプロセスや考え方が、何だか現代音楽作曲家の作業と似ているなぁ…と思った次第…(^^;)。


…で、せっかくなので、薮田翔一氏の作品(ピアノ曲)を聴いてみることにした。

まずは、第3回高松国際ピアノコンクールの課題曲「瀬戸内海」。これは、コンクールで「委嘱作品演奏賞」を受賞したアンドレー・シチコによる演奏が下記ページにある。

✏️作曲集一覧/ 瀬戸内海 Seto Inland Sea


その他、ピアノソロ曲は数曲しか見つからなかった。本人の YouTubeチャンネルでいくつか聴けるが、いずれも小曲で、まぁ、ちょっと面白いかな?…という位の印象。



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