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『シャンドール ピアノ教本―身体・音・表現』 読書メモ
ジョルジ シャンドール 著、岡田 暁生 監訳(春秋社、2005/2/1)
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「訳者あとがき」から
「訳者あとがき」から、この本の成り立ち・位置づけについて述べている箇所を意訳しながら引用する。
「訳者あとがき」から
シャンドール ピアノ教本の成り立ち
「訳者あとがき」から、この本の成り立ち・位置づけについて述べている箇所を意訳しながら引用する。
監訳者(岡田 暁生 氏)は、「ピアノ音楽を、…それを弾く生身の人の身体(身体技法/パフォーマンス/技術/身体知)という視点から分析考察してみよう…」という考え方から、『ピアノを弾く身体』という本を出している(監修)。
そして、「『演奏する身体』について、ピアニストの立場から書かれたいい文献」を探しているときに、出会ったこの本であったという。
『シャンドール ピアノ教本』は「感情(エモーション)は動作(モーション)によって表現される」というテーゼから出発し、「『ピアノを弾く動作』について超一流のピアニストにのみ可能な、極めて具体的な知見」を示した本である。
シャンドールがこの本で目指したのは、「トータルな音楽書」であった。そして、そういったピアノ教本は19世紀前半までは珍しいものではなかったようだ。例えば、次のような本。
C.P.E.バッハ(1753年、バロック末期)の
『正しいクラヴィーア奏法 第一部』、『正しいクラヴィーア奏法 第二部』
テュルク(1789年、ウィーン古典派)の
『テュルククラヴィーア教本』
ベートーヴェン〜シューベルト時代の奏法の集大成として
- Carl Czerny, Vollständige theoretisch-practische Pianoforteschule op.500, Wien 1844.
- Johann Nepomuk Hummel, Ausführiche theoretisch-practische Anweisung zum Pianoforte-Spiel, Wien 1828.
ショパン、リストの時代の奏法をまとめた
- F.J.Fetis / J.Moscheles, Méthode des Méthodes de Piano, Paris 1840.
ところが、それ以降「同時代の演奏技術の集大成であると同時に音楽美学書であり音楽理論書でもある」ようなピアノ教本が出されなくなる。クッラクの『ピアノ演奏の美学』やブライトハウプトの『自然なピアノ演奏技術の基礎』といった本はあるが、技術偏重である。
『シャンドール ピアノ教本』は、久々に出た「トータルな音楽書」としてのピアノ教本であると言えるだろう。
シャンドール ピアノ教本の構成
「訳者あとがき」には「本書は、現代のピアノ奏法に関わるありとあらゆる事柄を網羅した、百科全書的な書物である」とある。
この本は3部構成になっている。第1部は基本的な考え方の概要、第2部が技術的なことの本編、第3部はピアノ音楽と演奏に関するさまざまな話題(表現、理論、美学、舞台での礼儀作法、等)。とくに第2部は「『近代奏法』の基礎技術があますところなく示される」重要な部分である。
目次は下記のようになっている。第2部「五つの基本動作」では、基本動作を実際の曲に当てはめた譜例がたくさん載っていて、参考になる。(といっても弾けそうもない曲ばかりだが…)
≪第1部≫ピアノ技術における基本要素
第1章:音楽・動作・感情
第2章:ピアノ
第3章:演奏する身体のメカニズム
≪第2部≫五つの基本動作
第4章:自由落下
第5章:五指運動と音階と分散和音
第6章:回転
第7章:スタッカート
第8章:突き
第9章:五つの基本動作のまとめ
≪第3部≫技術は音楽になる
第10章:五つの基本動作の確認と応用
第11章:独立と相互作用
第12章:ペダル
第13章:歌う音
第14章:練習について
第15章:暗譜
第16章:音楽の句読法
第17章:公開演奏
第18章:舞台マナー/癖と有り余るエネルギー