《鍵盤音楽史:現代》 33人目の作曲家は、フレデリック・ジェフスキー(Frederic Rzewski, 米、1938-2021)。
現代アメリカを代表する作曲家&ピアニスト。代表作「『不屈の民』変奏曲」や「ノースアメリカンバラード」は、すでに現代ピアノ曲の古典と言っていいほど多くのピアニストによって演奏されている。
私が最初にジェフスキーの作品を聴いたのは 2016年。ピアニスト探索をしていてイゴール・レヴィットに出会い、その CD『変奏曲の世界(バッハ、ベートーヴェン、ジェフスキ)』で「『不屈の民』変奏曲」を聴いたとき。
「三大変奏曲」の一つとして、「ゴルトベルク」「ディアベリ」と肩を並べる変奏曲があることを初めて知り、聴いてみてその素晴らしさに驚いた記憶がある。
フレデリック・ジェフスキは1938年、ポーランド系の両親のもとに、米国マサチューセッツ州ウェストフィールドで生まれた。ハーヴァード大学とプリンストン大学で学んだのち、1960年にイタリアに留学してルイジ・ダラピッコラに師事した。
同時に、現代ピアノ音楽の演奏者としての活動を開始した。シュトックハウゼンの難曲「ピアノ曲X」の初演と初録音を手がけて注目されたこともある。
1966年、ローマでアルヴィン・カランやアラン・ブライアントら、当地で活動するアメリカの作曲家とともに「ムジカ・エレットロニカ・ヴィーヴァ」MEVを結成し、電子音響を使った集団即興演奏に乗り出した。
1977年からはベルギーのリエージュにある王立音楽学校で作曲教授を務めたほか、多くの大学で教鞭をとった。
1960年代初頭以来、ジェフスキーは国際的な現代音楽シーンの主要人物であり、その数多くの作品は前衛音楽(セリエル、クラスターなど)、ミニマル音楽からジャズやフォークソングなど多様な要素・技術を駆使した個性的なものとなっている。
例えば「ノースアメリカンバラード」においては、アメリカでよく知られた歌を素材にしながら、「バッハのコラール前奏曲をモデルとして使った」と本人が語っている。
"I took as a model the chorale preludes of Bach, who in his contrapuntal writing consistently derives motivic configurations from the basic tune. In each piece I built up contrapuntal textures in a similar way, using classical techniques like augmentation, diminution, transposition, and compression, always keeping the profile of the tune on some level"
ジェフスキーのピアノ作品は非常に多いので、主なもの(と思われるもの)を下記に列挙する。出典は✏️List of compositions by Frederic Rzewski(Wikipedia /英語)であるが、参考のために、そのピアノ作品の部分を文末にコピペしておく。
なお、ジェフスキーは "copyleft" の賛同者で、多くの楽譜(読みやすい手書き)が IMSLP(↓)にアップされている。
- 36 Variations on 'The People United Will Never Be Defeated!' (1975)
- Four Pieces (1977)
- Squares (1978)
- North American Ballads (1978–79)
- Dreadful Memories
- Which Side are You on?
- Down by the Riverside
- Winnsboro Cotton Mill Blues, also for two pianos (1980)
- The Housewife's Lament, (originally for harpsichord rewritten for piano) (1980)
- Mayn Yingele (1988):変奏曲
- Fantasia (1989)
- Ludes (1990–91)
- Sonata (1991)
- De Profundis (1991–92)
- A Life (1992)
- Night Crossing with Fisherman, for two pianos (1994)
- Fougues (1994)
- The Road (1995–2003)
- Turns (1995)
- Tracks (1996)
- Tramps (1997)
- Stops (1998)
- A Few (1999)
- Travelling with Children (1999)
- Final Preparations (1999–2002)
- The Big Day Arrives (2002–03)
- Second Hand, for piano left hand (2005)
- Nanosonatas (2006-10)
- Etude (2010)
- Dreams, Part I (2014)
- Dreams, Part II (2015)
ピアノ協奏曲としては次の 3つがある。
- A Long Time Man, for piano and orchestra (1979)
- Piano Concerto, for piano and orchestra (2013)
- A Dog's Life, for piano and orchestra (2014)
YouTube には色んな音源があるが、ジェフスキー自身の演奏で 1999年までの作品を集大成した CD(↓)のプレイリストが充実していると思われる。
元の CD はこれ(↓)。
✏️Rzewski Plays Rzewski: Piano Works, 1975 - 1999 / ジェフスキー・プレイズ・ジェフスキー ~ ピアノ作品集 1975-1999(Warner Music Japan)
収録作品は下記。
- 4 North American Ballads
- The Housewife's Lament
- Mayn Yingele(変奏曲)
- A Life
- Fougues No.1-25
- Fantasia
- Piano Sonata
- The Road Mile No. 1-32
- The People United will never be Defeated
- De Profundis
「『不屈の民』変奏曲」は、ウルスラ・オッペンス(この曲をジェフスキーに委嘱したピアニスト)、イゴール・レヴィット、マルカンドレ・アムラン、高橋悠治など、多くのピアニストが演奏・録音している。アムランを聴いてみたが、さすがの演奏(↓)。
エチュードも 1曲ある。手書きの楽譜が表示されるが、"For Nic Hodges" と書かれている。
"The Road" は「独奏ピアノのための長編小説」と作曲家本人が言っているように、演奏時間10時間以上の長大な作品。1995年から2003年にかけて作曲された。
ピアノ以外に朗読や足音や拍手など色んな音が使われていて、なかなか面白いのだが、すべてを聴き通すのは簡単ではなさそうだ。とりあえず、最初と最後の曲を聴いた…。
ピアノ協奏曲も 1曲聴いてみた。…が、よく分からない…(^^;)。ピアノはジェフスキー本人、Ilan Volkov 指揮 BBC Scottish Symphony Orchestra の演奏。
1曲くらい弾ける曲がないか?…と思って探したら "Nanosonata" というものを見つけた。
これは、日本の工学者(&アマチュア・ピアニスト)、新田英之氏がジェフスキーに対する謝辞を述べた論文を送ったのに対して、ジェフスキーが献呈したのが始まりのようだ。
✏️Nanosonatas(Wikipedia /英語)に、"technically somewhat demanding, but would not require the scientist to practise too much" と書かれていたので、期待して IMSLP を見たのだが、私にはちょっと無理なようだ…(^^;)。
新田英之氏の演奏が YouTube にあった。あと、シャイ・ウォスネルがスカルラッティのソナタと Nanosonata No.12 を弾いている動画もあった ♪
ジェフスキーはこの "Nanosonata" という形式が気に入ったようで、その後 56曲まで作曲している。その多くは家族や親しい友人に献呈されている。56曲の中には弾ける曲もあるかも知れないので、そのうち探索してみることにしたい ♪
✏️フレデリック・ジェフスキー(Wikipedia)
✏️Frederic Rzewski(Wikipedia /英語)
✏️List of compositions by Frederic Rzewski(Wikipedia /英語)
✏️ジェフスキー≪「不屈の民」変奏曲≫における テーマと 36 の変奏曲の分析と考察(新潟県立大学 石井玲子 /PDF)
✏️フレデリック・ジェフスキー「ノース・アメリカン・バラード」における楽曲分析と演奏解釈(新潟県立大学学術リポジトリ /PDFダウンロード可)
●フレデリック・ジェフスキー ピアノ作品一覧表
- Chain of Thought (1953)
- Tabakrauch (1954)
- Preludes (1957)
- Poem (1958)
- Introduction and Sonata, for two pianos (1959)
- Study I (1961)
- Study II (1961)
- Falling Music (1971)
- No Place to Go but around (1974)
- 36 Variations on 'The People United Will Never Be Defeated!' (1975)
- Four Pieces (1977)
- Squares (1978)
- North American Ballads (1978–79)
- Dreadful Memories
- Which Side are You on?
- Down by the Riverside
- Winnsboro Cotton Mill Blues, also for two pianos (1980)
- The Housewife's Lament, (originally for harpsichord rewritten for piano) (1980)
- A Machine, for two pianos (1984)
- Eggs (1986)
- Steptangle (1986)
- The Turtle and the Crane (1988)
- Mayn Yingele (1988)
- To His Coy Mistress, for singing or speaking pianist (1988)
- Fantasia (1989)
- Bumps (1990)
- Ludes (1990–91)
- Sonata (1991)
- De Profundis (1991–92)
- Andante con Moto (1992)
- A Life (1992)
- Night Crossing with Fisherman, for two pianos (1994)
- Fougues (1994)
- It Makes A Long Time Man Feel Bad, Ballade No.5 (1997, revised 2004, adapted from A Long Time Man)
- Michael Bakunin, Rentier, for speaking pianist (2000)
- When the Wind Blows, for two pianos (1996-2002)
- The Road (1995–2003)
- Turns (1995)
- Tracks (1996)
- Tramps (1997)
- Stops (1998)
- A Few (1999)
- Travelling with Children (1999)
- Final Preparations (1999–2002)
- The Big Day Arrives (2002–03)
- Johnny Has Gone for a Soldier (2003)
- Cadenza (2003), for Piano Concerto No.4, Op.58 by Beethoven
- Dust (2003)
- Spells (2004)
- Second Hand, for piano left hand (2005)
- Rubinstein in Berlin, for speaking pianist (2008)
- 10 War Songs (2008)
- Flowers 1, for speaking pianist (2009)
- Nanosonatas (2006-10)
- Etude (2010)
- 3 Piano Pieces (2011)
- Dear Diary, for speaking pianist (2014)
- Winter Nights (2014)
- Dreams, Part I (2014)
- Dreams, Part II (2015)
- Songs of Insurrection (2016)
- Saints and Sinners (2016)
- Ages (2017)
- 8 Nocturnes (2017)
- 6 Movements (2019)
- America: A Poem (2020)
- The Naked Truth (2021)
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