《鍵盤音楽史:現代》 30人目の作曲家は、ヴァレンティン・シルヴェストロフ(Valentin Silvestrov, ウクライナ, 1937-)。
ロシアによる侵略戦争のためにキエフから脱出した…というニュースで初めて知ったウクライナの作曲家。近年のピアノ小品集はどれも美しい ♪
5年前に初来日しており、そのとき80歳記念のコンサートを行っている。上の写真はそのときの Webサイト(↓)のもの。「カリスマ中のカリスマ作曲家」という紹介がある。
ヴァレンティン・シルヴェストロフは1937年キエフ生まれ。15歳で音楽の個人指導を受けた後、1955〜1958年にキエフ音楽大学夜間学部に学び、1958〜1964年にキエフ音楽院にてボリス・リャトシンスキーに作曲を、レフ・レヴツキーに和声法と対位法を師事。
デビュー時は前衛的な作風によって著名で、1960年代に『キエフ・アバンギャルド』に加わって活動する。当時、作品が演奏されることは非常に稀であった。
ところが、1970年代以後急速に回顧派に転向し、伝統的な調性や旋法も用いながらも、劇的な響きと情緒的な響きのテクスチュアを繊細に織り成す独自の作風を築き上げた。
例えば、代表作の一つ「交響曲 第5番」(1980~1982)はマーラーのような後期ロマン派音楽の「コーダ」などと言われることもある。
主要な出版作品には8つの交響曲、ピアノと管弦楽のための詩曲、数々のオーケストラ曲、3つの弦楽四重奏曲、ピアノ五重奏曲、3つのピアノ・ソナタ、数々のピアノ曲、カンタータ、歌曲などが含まれる。
「転向」後の作風や、音楽に対する考え方については、このインタビュー記事(↓)が分かりやすいと思う。
少しだけ要約すると…。
「現代音楽」が目指していた「新しいものを求めること」はすでにピークに達している。調性音楽、無調音楽、あるいは太古に存在した古い音楽なども含めて、それらをまとめて「普通」と捉えた方がよい。
その「普通」の中に神秘性を求めることが重要で、いま必要なのは「静寂」の力である。彼の作品に対して使われる「祈り」「抒情性」や "peace and consolation" といった言葉とも共通すると思われる。
音楽の重要な要素「最後の砦」はメロディー。それと合わせて「休符とか空間の作り方」も。私の音楽は「空間がメロディの周りを伴奏している」感じ…。風の声を呼吸のように入れている作品もある。
ピアノを含む作品は下記の通り。出典は Wikipedia(日&英)。
- ピアノ曲《ソナチネ》 (1960年, 改訂1965年)
- Piano Quintet (1961)
- Triada for piano (1961)
- ピアノと管弦楽のための「モノディア」"Monodia" (1965年)
- フルートとティンパニ、ピアノ、弦楽合奏のための「交響曲 第2番」 (1965年)
- ピアノ三重奏のための「ドラマ」 (1970年-1971年)
- チェロとピアノのための「瞑想曲」(1972年)
- ピアノのための小品集「キッチュな音楽」"Kitsch-Music" (1977年)
- チェロとピアノのための「後奏曲」 "Postludium" (1982年)
- ピアノと管弦楽のための「後奏曲」 "Postludium" (1984年)
- ピアノと管弦楽のための交響詩「超音楽」"Metamusic" (1992年)
- ピアノと弦楽合奏のための「墓碑銘」 "Epitaph" (1999年)
- ピアノのためのバガテル op.1-5 (2005年-2006年)
- 5 New Pieces for Violin and Piano (2009)
- ウクライナへの祈り ”Player for Ukraine” (2014年, 改定2022年)
ピアノソロの作品は小品集が多く、かなりの量になるので下記記事にまとめた。(一部、上の一覧表とも重複している)
解説記事によると、これらの小品集は 2003年から2017年の間に 30時間分のピアノ小品を作曲し、それを 2〜10曲のサイクルにまとめたもの。これらは続けて演奏することで "a long chain of musical moments" を形成することを意図しているそうだ。
※追記@2023/06/03:2023年 3月に、シルヴェストロフの 60年来の親友ボリス・ベルマンが弾く『ピアノ作品集』(2CD)がリリースされた。このアルバムには、戦火を逃れたベルリンで作曲された「3つの小品」(2022年 3月)の世界初録音も含まれている。
また、上で紹介した Mikiki のインタビュー記事では、シルヴェストロフはこんなこと(↓)も言っている。
「私のピアノの小品、バガテル集はみんなアタッカでつながっていますが、それを冗談半分でバガテルの交響曲と呼んでいます。ピアノ・ソロ用の交響曲と言ってもいいかもしれません」
交響曲は音楽の古典的形式の一番重要なジャンルのひとつで、そのキーとなるのは「統一性」。そして、「新しい統一性を作っていくのが作曲家の役割」とも…。
YouTube で聴いた主な音源は下記。
ピアノ:Peter Bannister
ピアノ:Tomasz Kamieniak
♪ Silvestrov: Piano Music(プレイリスト)
ピアノ:Elisaveta Blumina
それから、3曲のピアノソナタも聴いてみたが、わりと気に入ったのはピアノソナタ第1番のみ。あとの 2曲は「現代音楽」的過ぎて私にはちょっと…(^^;)。
ピアノ:Jenny Lin
最後に、ウクライナの戦争が一刻も早く終わることを祈りながら…。ため息のようなフルートの特殊奏法が印象的な「ウクライナの祈り」(オーケストラ版)。
なお、ウクライナの第二の国歌とも言われる「ウクライナの祈り(讃美歌)」は、ミコラ・リセンコという人が作曲したもの。
主な参考記事は下記。
✏️ヴァレンティン・シルヴェストロフ(Wikipedia)
✏️Valentyn Silvestrov(Wikipedia /英語)
✏️ヴァレンティン・シルヴェストロフ(NAXOS /英語)
✏️ヴァレンティン・シルヴェストロフ、避難先のベルリンでピアノ新作を作曲、録音(MCS Young Artists)
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