2022年3月1日火曜日

🎹D.ブクステフーデ 1637-1707 若きバッハが400kmを歩いて会いに行った巨匠

《鍵盤音楽史:バッハ以前》の作曲家 13人目は、ディートリヒ・ブクステフーデ(Dieterich Buxtehude, 1637-1707)。

北ドイツ・オルガン楽派の最大の巨匠であり、バッハ以前のドイツを代表する音楽家の一人。若きバッハは晩年のブクステフーデに会いに行っており、大きな影響を受けた。




ディートリヒ・ブクステフーデは、スウェーデン(当時はデンマーク領)のヘルシンボリで生まれたと言われている。オルガニストの父親から手ほどきを受け、父親の跡を継いでヘルシンボリの聖マリア教会のオルガニストなどを務めたあと、1668年に北ドイツのリューベックの聖母マリア教会のオルガニストとなる。

ブクステフーデは、ヨハン・アダム・ラインケン、ヨハン・タイレ、クリストフ・ベルンハルト、マティアス・ヴェックマン、ヨハン・パッヘルベル等、当時のドイツの主要な音楽家と関係をもっていた。

また、弟子としてはニコラウス・ブルーンスが有名である。


ブクステフーデの作品は、ゲオルク・カールシュテットの『ディートリヒ・ブクステフーデの音楽作品の主題体系的目録』(1974)によって BuxWV 番号が付けられており、次のように分類されている。鍵盤用の作品は 120曲ほど。

  • 宗教声楽曲 114曲:BuxWV 1-114
  • 世俗声楽曲 11曲:BuxWV 115-124a 
  • オルガン自由曲 42曲:BuxWV 136-176, 225(注1)
  • オルガンコラール 48曲:BuxWV 177-224(注2)
  • クラヴィア曲 28曲:BuxWV 226-251, deest ×2(注3)
  • 室内楽曲(ソナタ)23曲:BuxWV 252-274(注4)

(注1)前奏曲、トッカータ、シャコンヌ、パッサカリア、カンツォーナ、フーガ等(うち足鍵盤をもたない16曲はチェンバロによる演奏も可)

(注2)コラール前奏曲、コラール変奏曲、コラール幻想曲

(注3)BuxWV 251(7つの組曲)は消失、deest(番号なし)の 2曲を含み組曲は 21曲、他は 6曲の変奏曲。組曲はアルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグという配列を基本とし、スティル・ブリゼ(Style brise:17世紀フランスのリュートの分散奏法)が多用される。

(注4)ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のためのソナタ集作品 1(1694)、作品 2(1696)が出版されている。


ブクステフーデの自由で即興的なプレリュードやトッカータは、17世紀北ドイツにおけるスティルス・ファンタスティクス(幻想様式、stylus fantasticus)の典型とされている。

「プレリュード(またはトッカータ)とフーガ」といった組合せの作品は多くはないが、J.S.バッハの有名な「トッカータとフーガニ短調 BWV565」などにも影響を与えている。

ちなみに、BWV565 のフーガ主題の前半はブクステフーデの「前奏曲とフーガ ニ短調 BuxWV 140」から取られているという説もある。


バッハのブクステフーデへの傾倒を裏付けるエピソードとして有名な話がある。

1705年、20歳のバッハが晩年(68歳)のブクステフーデに会うため、アルンシュタットからリューベックまで 400km ほどの道(東京〜京都の手前)を歩いて行ったという…。

当時、バッハはアルンシュタットの教会でオルガニストを務めていたので、4週間の休暇を取って行ったのだが、結局は 3ヶ月以上の滞在となったようだ。


以上、主な出典は下記。

ブクステフーデについては「代表曲」の情報がいくつか見つかった。

  • 「我らがイエスの四肢(Membra Jesu nostri)」BuxWV 75:宗教声楽曲(コンチェルト-アリア)の大作
  • 「アリア《ラ・カプリッチョーサ》と32の変奏曲」BuxWV 250:バッハの「ゴルトベルク変奏曲」につながるとも言われる変奏曲
  • 前奏曲とフーガ ニ短調 BuxWV 140:バッハが BWV565 で引用?
  • 前奏曲とフーガ 嬰ヘ短調 BuxWV 146
  • パッサカリア ニ短調 BuxWV 161:後にヨハネス・ブラームスが関心を寄せた
  • トッカータ ヘ長調 BuxWV 156
  • プレリュード、フーガとシャコンヌ ハ長調 BuxWV 137
  • コラール幻想曲「暁の星のいかに美しく」BuxWV 223

これを参考に、合わせて現代のピアニストが取り上げている作品を聴くことにした。


最初に、フランチェスコ・トリスターノのアルバム(2013年リリース)「ロング・ウォーク」"Long Walk /Francesco Tristano" を紹介したい。

これは、上で紹介したバッハが 400km を歩いて("Long Walk")ブクステフーデに会いに行った話にちなんで、ブクステフーデ、バッハ、トリスターノの作品を組み合わせたアルバム ♪




上の CD にはブクステフーデの作品は次の 5曲が選ばれている。バッハの「ゴルトベルク」からは「クオドリベット」と「アリア」。そして自作の 2曲。

  1. トッカータ BuxWV165
  2. カンツォーナ BuxWV168
  3. カンツォーナ BuxWV173
  4. シャコンヌ BuxWV160
  5. アリア《ラ・カプリッチョーサ》と32の変奏曲 BuxWV250

YouTube にあった変奏曲 BuxWV250 とカンツォーナ BuxWV168 はなかなかいい ♪




ピアノ編曲版でよかったのは、プロコフィエフが編曲した前奏曲とフーガ ニ短調 BuxWV 140。弾いてみたいと思ったが表示される楽譜を見ると、ちょっと無理そう…(^^;)。

弾いているのは Boris Berman(ボリス・ベルマン、1948-)。


ちなみに、元の曲はオルガンなのでかなり印象が違う。



代表曲と言われている他の曲も一通り聴いてみた。まずは鍵盤曲(オルガン)。コラール幻想曲「暁の星のいかに美しく」BuxWV 223 はなかなか美しい。



伴奏付きの宗教声楽曲「我らがイエスの四肢(Membra Jesu nostri)」BuxWV 75 も聴いてみた。ちょっといい感じではある。



それよりも、たまたま聴いた室内楽曲(ソナタ)の方が個人的には気に入った。軽快な感じで、やや BGM 的ではあるのだが聴いていて心地よい ♪



おまけ。これだけの巨匠なのに、なぜかちゃんとした肖像画がないようだ。

記事冒頭の絵(図)が、ブクステフーデを描いた唯一のものだと言われている。ネット記事には他の絵もいくつかあるのだが…よく分からない…(^^;)。

で、この絵は実はもっと大きな絵(↓)の一部である。




左端でヴィオラ・ダ・ガンバらしい楽器を弾いているのがブクステフーデ。その横でチェンバロを弾いているのは、同じ時代に活躍したオランダ出身の作曲家ヨハン・アダム・ラインケン(Johann Adam Reincken、1643-1722)。

1674年頃に描かれた "'A Musical Party"(Johannes Voorhout 作)という絵。

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