昨日、高橋アキさんのリサイタル「武満徹 ピアノ独奏曲 演奏会」を聴きに行った。
今の時期にしては暖かいいいお天気の中、用賀駅から途中砧公園を通って約20分。開場の40分くらい前に到着した。
ロビーの椅子に座って、10人くらい並んだら列に並ぼうかと思って(全席自由席)待っていた。で、そろそろいいかと思って並びに行ったら、なんと!見えないところに20人以上並んでいた…(^^;)。
会場は扇形みたいで、要(かなめ)に当たるところに一段高いステージがあるのだが、ピアノはその前に置いてある。143席なので、サロンコンサートみたいで、いい感じ…♪
…なのだが、演奏が始まるといくつか気になることがあった。音響は悪くないのだが、外の音が少し聞こえるようだ。きれいなピアノの響きに聴き入っているときにカラスの声がかすかに聞こえてきたりする…。
それと、空調の風(たぶん)が楽譜にあたって、落ちそうになったりページが戻りそうになったり…。高橋アキさんには気の毒だったが、聴いているこちらもちょっと気になった。
で、演奏の方であるが…。「コロナ」の内部奏法も含めてピアノの多様な「音」を楽しめた。武満徹のピアノ曲をまとめて聴けただけでも貴重な体験だったと思う。
生演奏でしか伝わらないだろう音の響きを感じることができた。様々なタッチやアタック、それによる倍音や共鳴する弦や余韻や…。
武満徹はそういう「響き」を大切にした作曲家であることを、改めて感じ、高橋アキさんの『パルランド 私のピアノ人生』という本に出てくる武満徹さんの言葉を思い出した。
「最初の音楽的なことやマテリアルについては、ある程度は五線譜の上で考えますよ。けれども、その後はヴァイオリンならヴァイオリンの響きでもって考えたいし、それが遠くから聞こえるとか、近くで聞こえるとか、そういうふうに考えていくんですよ。」
そして、高橋アキさんの演奏にも、「一つのピアノの音にすべてを込める…」ような姿勢を感じた。ピアノの音の響きで、ピアノにしか作れない音楽を作り出す…ような。
でも、やはり「現代音楽」は私にとって難しい。「無条件にいいなぁ〜♪」と思えるものではないし、「分かった感じ」もしない。
YouTube で聴くよりは何倍も魅力的であったことは事実だが、例えばリュカ・ドゥバルグのモーツァルトのソナタを聴いた時のような感動はなかった。
一つには、カミさんも言っていたが、どの曲も同じように、「武満節」のように聴こえてしまう。違うといえば、もちろん違うのだが…。
トークのときに池辺晋一郎さんが言っていた、「彼の音楽は変わって行くのだけど、そこにあるのは相変わらず『武満』なんだ」みたいなことと相通じるのか?
アキさんも、たしか「武満さんは今度こそ今までと全く違った曲を書くといいながら、出来上がってみるとやっぱり『武満さん』なのね」みたいなことを言っておられた。もちろん、いい意味で、だと思う。
まぁ、ピアノ独奏曲だけで、武満徹を見てはいけないのは重々承知の上ではあるが…。
帰りの電車の中で演奏を思い出しながら思ったことがある。
武満作品の「響き」にはたしかに魅力的なところがたくさんあるのだが、振り返ってみるとその「響き」という素材だけをいくつか並べて渡された、という気分がしないでもない。
その素材をもう少し大きく組み合わせて、さらに大きな「建造物」にして欲しかったような気もする。やや、西洋音楽的発想かもしれないし、西洋とは違う日本の美意識が反映されたものが武満作品と言えるかも知れないのだが…。
気に入った曲をみると、音が多いことと、どちらかというとテンポが早いという共通点があるようだ。例えば「雨の樹 素描」や「閉じた眼」など。
そういう意味でも、アンコールの「ゴールデンスランバー」が一番気に入った曲だったかも知れない。ビートルズ・ナンバーのピアノ編曲版である。
ちなみに、最近(10月)楽譜が発売されたようだ。アキさんは自筆譜のコピーで演奏されていた(これが風で落ちそうになった…)。
それから、高橋アキさんは、意外にきゃしゃな手をされていて、その指からあの力強く繊細な音が出てくるのには驚いた。「クラシック」のピアノ曲(バッハとかベートーヴェンとかドビュッシーとか…)も聴いてみたいものだと思った。
最後の、池辺晋一郎さんとのトークは楽しかった。時間が押していたので少し短くなったようだが、もっといろんな話を聞きたかったと思う。
武満さんの生きた時代の音楽界・作曲界の「熱気」を話しておられた池辺さん自身もまだ「熱い」ようだった。「自分自身は歳なので…若い人を見つけてけしかけさせよう」とおっしゃっていた。期待したい!♪
参考:演奏曲目→《武満徹ピアノ作品に関するメモ・音源…》
- ロマンス [1948-1949]
- 遮られない休息 [1952/1959]
- ピアノディスタンス [1961]
- フォー・アウェイ [1973]
- 閉じた眼 ― 瀧口修造の追憶に ― [1979]
- 雨の樹 素描 [1982]
- ピアニストのためのコロナ [1962]
- こどものためのピアノ小品[1978]
- リタニ ― マイケル・ヴァイナーの追憶に ― [1950/1989]
- 閉じた眼II [1989]
- 雨の樹素描II ― オリヴィエ・メシアンの追憶に ― [1992]
- アンコール:ピアノのための《ゴールデン・スランバー》
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