曲目は、本人希望でスカルラッティのソナタが冒頭に追加されて、5つのピアノソナタというプログラム(↓)になった。
スカルラッティ: ハ長調 K.132
モーツァルト:第8番 イ短調 K310
シューベルト:第14番 イ短調 Op.143 D784
シマノフスキ:第2番 イ長調 Op.21
プロコフィエフ:第3番 イ短調 Op.28「古いノートから」
アンコール
サティ:グノシェンヌ第1番
セロニアス・モンク:ラウンド・アバウト・ミッドナイト
感想は、一言で言うと「凄かった!」。「よかった」とか「素晴らしかった」を超えていた。"Sturm und Drang"(シュトゥルム・ウント・ドラング:疾風怒濤)が現代に蘇った ♪
感じたのは、音の塊とそのうねり、音楽の勢い、躍動感、生命力、推進力、エネルギー…。
終演後、ロビーで若者が興奮気味に口走っていた「ヤバい!」という言葉が妙に腑に落ちた。
チャイコフスキー・コンクールのメトネルとラヴェルを聴いて以来、彼がピアノから引き出す「音楽」にとても魅力を感じてきた。その魅力がスケールアップして、しかも「板についてきた」ような印象だ。
ルカくんの音楽性と演奏技術がより確かなものとなって、ピアノの可能性を存分に引き出している。間違いなく、彼は進化している。
最初のスカルラッティは聴いたことのない曲だったが、「あれっ?スカルラッティってこんな感じだっけ?」という印象。面白いけど、どう受け止めていいか分からないうちに曲が終わってしまった。
ところが、次のモーツァルトが始まってビックリ!
いきなりエンジン全開。これまでに聴いたことのないモーツァルトが展開されていく。「ソナタアルバム」に載っている「教材」としてのソナタとはまるで違う音楽だ。
しかし、活き活きとして生気にあふれて、実に魅力的なモーツァルトである。ルカくんによって、まさに新たな命を吹き込まれた音楽が全身に響いてくる。
人によっては「これはモーツァルトじゃない」と言うかも知れない。でも、そんなことはどうでもよい。音楽を楽しむってこういうことなんだと、少なくとも私は実感した ♪
そしてシューベルトのやや難解な?ソナタ。どう弾くのだろう?
これもまた、これまでに私が感じてきた(とりとめのない?)シューベルトとはまるで違う印象。少し早いテンポで、やや感情の起伏の激しいシューベルト。
十分に受け止められたとは思わないが、これはこれでアリだろうとは感じた。ややとんがった感じのする音楽は、もしかすると(この作品を書いた)26歳のシューベルトの心情に近いのかも知れないと思った。
少なくとも、退屈な演奏も多いシューベルトのソナタを、最後まで惹きつけて聴かせてくれたのは、それだけ音楽に魅力と力強さがあったからだと思う。
そして後半のシマノフスキ。第2番は、作者自身が「悪魔的に難しい」と語ったという技巧的な作品。事前に予習したが、なかなかつかみどころのない曲だ。これをルカくんがどう「料理」するのか、楽しみにしていた曲である。
結果的に、この日の演奏で一番「凄かった」のがおそらくこのシマノフスキ。モーツァルトで垣間見せた「ルカくんの音楽」が「これでもか!」というくらい、思う存分に繰り広げられる。心地よいほどの推進力で疾走していく。
聴いていても難しいこの曲を、彼はしっかりと「料理」したと思う。ルカくんなりの作品に仕上がってる。
惜しむらくは、少しテンポが速すぎて、最後のフーガの部分が聴いている方としてはちょっとついていけなかった感じ。もう少しテンポを落とした方が、全体的にも説得力が増したような気がした。
そして最後のプロコフィエフ。
シマノフスキまで聴いてきた耳に、プロコフィエフが、なんと穏やかに美しく響いたことだろう。プロコ作品の打楽器的な印象(先入観)からすると、まるで別の作曲家の作品を聴くようだった。
これもまた別の意味で、ルカくんによって新たな生命を吹き込まれた演奏になったと思う。よかった ♪
アンコールでは、サティもよかったが、個人的にはセロニアス・モンクの(たぶん)ジャズ・ナンバーがとても気に入った。こういう曲をそろえたルカくんのリサイタルも聴いてみたいものだ。
終わってみて、スカルラッティを最初に加えたのは、プログラムとしてとてもよかったと思った。全体の序章のような役割になったと思う。
それくらい、モーツァルトが「メインディッシュ」の一つになっていた。普通なら、この曲が「序章」になるのかも知れないが…。
この日のプログラムは、どの作品も実に活き活きと、エネルギッシュにこちらに迫ってきた。それは本当に心地よかった。
振り返ってみると、どの曲も「ルカ節」になっているという印象がないでもない。少しやり過ぎという部分もあるかもしれない。でも、面白かったし、魅力的であった。
まだ若いので、今は発展途上にあると思う。これから先、もっと表現方法の幅を広げていって、深みが増してきたときの演奏が楽しみである。今の時点で変にこじんまりと収まっていないことに将来性を感じさせてくれる。
それにしても、このリサイタルは、大げさにいうと、現代におけるピアノ演奏(会)のあり方の一つを示してくれているかも知れないと思う。
ルカくんにとっては、歴史的な大作曲家の作品であっても、その「楽譜」は新しい命を吹き込むべき、自分の音楽を表現するための容れ物に過ぎないのではないか…。
彼は、その作品を現代に響き渡る音としての「音楽」として蘇らせ、どれだけ音楽性あふれた魅力的なものにするか考えているのではないだろうか。
もちろん、作曲家たちをないがしろにしているわけではない。
むしろ、作曲家たちがイメージしたであろう「音楽」を、現代の楽器で、現代の進化した表現技術で、現代に生きる人間が表現するとしたらどうなるか…。そういうことをやろうとしているのではないかと思うのだ。
少し長くなったので、アレクサンデル・ガジェヴと遭遇した話などは別記事で…。では…(^^)♪
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