『作曲家から見たピアノ進化論』からの話題、第4弾である。先週の「第3弾」で終わる予定だったのだが、最後の方にちょっと面白いものがあったので…。
それは「現代ピアノ奏法」。通常の奏法ではなく、現代音楽で開発された新しい「奏法」である。例えば「プリペアド・ピアノ」。他にもいくつかあったのでご紹介したい。
ソステヌート・ペダル
これは「奏法」ではなく、楽器の構造の進化(機能の追加)である。が、作曲家や演奏家の、新しい音響への追求によって生まれ、結果としてピアノに新たな奏法を追加した。
ご存知の通り、ソステヌート・ペダルは、ペダルを踏んだときに押さえている音だけ伸ばす(ダンパーを浮かせる)もので、スタインウェイ社が初めて採用した。ドビュッシーの曲などでは効果的に使える(ようである…)。
現代曲の中には、最初から最後までこのペダルを踏み続けて、最初に無音で押さえた弦の共鳴(→次項参照)を利用する曲もあるようだ。また、ソステヌート・ペダルが開発される以前の曲にこのペダルを使うことは賛否両論があるらしい。チェンバロの曲を現代ピアノで弾くことと同じで、新しいよりよい音が生まれるなら使って構わないと思うのだが…。
ちなみに、右(ダンパー)ペダルが2つに分かれていて、その右半分を踏むと高音部だけ、左半分を踏むと低音部だけのダンパーが上がるようなピアノも、昔はあったらしい。
ハーモニクス
ハーモニクス奏法とは、いくつかの音(鍵盤)を音が出ないように押さえて(ダンパーを上げて)おいて、他の音(鍵盤)を弾くことで、その弦に共鳴させること。シェーンベルクが《ピアノのための3つの小品》で初めて使った奏法である。倍音関係にある音の方が共鳴しやすくなる。
無音で押さえられている音より低い音を弾くと、無音の音がかすかに鳴る。無音で押さえられている音より高い音を弾くと、弾いた音がこだまのように響く。…と説明してある。
この効果を積極的に活用したのがピエール・ブーレーズらしい。一度どこかで見た(聴いた)記憶があるが、そのときはたぶん日本人作曲家の作品だったような気がする。
プリペアド・ピアノ
これはジョン・ケージが始めた方法である。ピアノの内部弦に金属片・木片・ゴムなどを挟み込んで、ピアノの音質(や音高・強弱)を変えてしまうものである。これは「奏法」というより、楽器の「変更」かもしれない。
以前読んだ本によると、プリペア(いろんなものを挟み込む準備)の仕方の微妙な差によって音がまるで変わってしまうため、作曲家の意図した音を出すのは至難の技らしい。ピアノ自体によっても変わるそうだ。また、プリペアド・ピアノが(次の内部奏法も)禁止されているホールもあるようだ。ピアノの弦が痛む可能性があるので…。
私自身は、高校時代にこういうのが大好きな友人がいて、当時、放課後の音楽室で、ピアノの弦に鉛筆や消しゴムやネジなどを挟んで遊んだ記憶がある。面白かった ♪(音楽室のピアノが痛んだかも…)
内部奏法
これは、ジョン・ケージの師匠のヘンリー・カウエルが始めた奏法らしい。カウエルは「トーン・クラスター」という、拳や前腕で鍵盤を押す奏法を編み出した人でもあるようだ。
内部奏法には色々な方法がある。内部弦をはじく、グリッサンドする、いろんなもの(手やバチ)でたたく、弦を押さえて鍵盤を弾く(ミュート奏法)、弦以外の場所(フレームなど)を打楽器代わりにたたく、等々。他にも、弦楽器の弓で弾くようなことも見たことがある。
難しい現代音楽だけでなく、こんな楽しいこともできる。
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自動ピアノ、電子的手段による拡張
電子的な手段が登場する以前から、ロール紙を使った自動ピアノというものがあった。これも「奏法」というよりは、「外部装置によるピアノの拡張」といったものであろう。
自動ピアノは、演奏を記録・再生する道具であるが、作曲家は、人間にはほとんど演奏不可能な曲(音響・音型・速度・多重度…)を作りたいという要求から自動ピアノを利用することを思いついたようである。自動ピアノと人間の演奏家の連弾?というのもあったらしい。
電子的な「ピアノの拡張」は、自動ピアノの延長線上にある部分もあるが、それ以上に、電気的な変調とかコンピュータ処理など、新しい技術を取り入れて発展している。電子的処理・コンピュータ処理となった途端、可能性は大きく広がる。言い方を変えると「何でもあり」の世界だ。(良くも悪くも…)
身近なところで言えば「電子ピアノ」も同じカテゴリーに入ると思われる。キーの打鍵動作を検出して、それに合わせて、例えばスタインウェイのフルコンサート・ピアノの音を電子的に出しているわけだ。電子音なので、オルガンの音にもチェンバロの音にも、蛙の鳴き声にさえなる…。
…さて、この先、ピアノという楽器がどう進化していくのか、ピアノ「奏法」がどう発展していくのか、楽しみなような不安なような…。
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