ドイツのピアニズムの本質は「伝統・格式・重厚・造形・理論・構築感」「楽譜や基本に忠実に、姿勢を崩さず」…
『ピアニストの系譜』
(真嶋 雄大 著、音楽之友社 2011/10/5)
読書メモ1:ドイツのピアニズム
本の紹介・目次は→《本「ピアニストの系譜」》
ドイツ系のピアニストというと、少し前にはヴィルヘルム・ケンプ、ヴィルヘルム・バックハウス、ヴァルター・ギーゼキングなどがいたが、他にあまり思い当たらない。Wikipediaでみると、ゲルハルト・オピッツ、アリス=紗良・オットの名前が出てくる。
個人的にはティル・フェルナー(オーストリア)が好みである。その先生のアルフレート・ブレンデルはオーストリアで活躍したが出身はチェコである。
この本には、現在活躍しているピアニストの一人としてラルス・フォークトの名前があがっている。この人は最近知ったばかりだが、第一印象としてはなかなかいい感じだ。
たまたま、NHKの「クラシック音楽館」でパーヴォ・ヤルヴィ指揮のドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団と共演したブラームスのピアノ協奏曲第1番を聴いたのだが、これがとても印象的な演奏だった。オーケストラが小編成で非常にキレのいい演奏をするのだが、ラルス・フォークトはまるで室内楽を奏でるかのように、ピッタリと息のあった一体感のある演奏をしていた。
さて、本の方に戻ろう。
ドイツのピアニズムの本質は「伝統・格式・重厚・造形・理論・構築感」といったキーワードで表され、「楽譜や基本に忠実に、…姿勢を崩さず…」というのが原則である。…と説明されている。まあ、そんなイメージだとは思うが、そう簡単には括れないのだろうとも思う。
系譜の最初に登場するのがカール・チェルニーである。10歳からベートーヴェンの弟子になり、ピアノ協奏曲第5番《皇帝》のウィーン初演を行っている。その弟子の一人がフランツ・リスト。
「…リストの奏法は重量奏法と呼ばれるものであり、肩から指先に至る腕全体の重みを集中して鍵盤にかけるというものである」というわけで、ドイツのピアニズムの源流にはリストの重量奏法があるようである。ただ、リストはロシアにも大きな影響をもたらしており、今では重量奏法といえばロシアが本流のように思える。
リストの流れは、エドヴィン・フィッシャーやクラウディオ・アラウに引き継がれるが、フィッシャーは「ドイツ・ピアニズムの最高峰と称され、バッハやベートーヴェン演奏に崇高な精神的深さを与え」たとのこと。
フィッシャーはベルリン音楽大学で、イェルク・デームス、アルフレート・ブレンデル、ダニエル・バレンボイムなどを教えている。
なお、ドイツ・ピアニズムの系譜に田中希代子(1932-1996)という人がいて、その先生はレオニード・クロイツァー(1884-1953、日本でも大活躍)だそうだ。クロイツァーは「チェルニー→テオドール・レシェティッキ→アンナ・エシポア→クロイツァー」という系譜の人だ。
これ以外にも、非常に多くのピアニストが登場するのだが、知らない人の方が圧倒的に多い。現役のピアニストは、機会があれば聴いてみたいと思う。
巻末のピアニストの系譜が面白い。ドイツのページにはモーツァルトやベートーヴェンから始まって、アルゲリッチやバレンボイム、ティル・フェルナーなど現在も活躍するピアニストの師弟関係が一目で分かるようになっている。伝統の重みを感じる。