2015年2月23日月曜日

フランス・ピアニズム:ピアニストの系譜(3)

フランスでは、音楽をどのように楽しめるかとか、生かせるかということで、インスピレーションが大切にされる。例えば、ラヴェルについては、何よりも欲しいのが音色のイメージ。また、ドビュッシーでは撫でるような柔らかなタッチが必要である。


 『ピアニストの系譜』
 (真嶋 雄大 著、音楽之友社 2011/10/5)

  読書メモ3:フランスのピアニズム

  本の紹介・目次は→《本「ピアニストの系譜」》


フランス・ピアニズムの系譜の中で、最初に重要なのはアントワーヌ・フランソワ・マルモンテル(1816-98)という人である。パリ音楽院の教授を務めた人で、ショパンとも親しく交流し、チャイコフスキーから《ドゥムカ》を献呈されてもいる。

マルモンテルの弟子には、ドビュッシー、ビゼー、アルベニスなどがいるが、ピアニストとして活躍し後進を育てたのは、ルイ=ジョゼフ・ディエメとマルグリット・ロンである。

マルグリット・ロンはロン・ティボー国際コンクールの創設者の一人であり、ラヴェル等とも交友のあった人である。サンソン・フランソワ、園田高弘などを育てている。フランソワの唯一の弟子といわれるのがブルーノ・リグットである。

一方のディエメも多くの弟子を育てている。その中で重要なのが、アルフレッド・コルトー、イヴ・ナット、ラザール・レヴィの3人だ。

伝説の巨人と呼ばれるアルフレッド・コルトーは、パリ音楽院で、ショパン最後の弟子の一人であるエミール・ドゥコンブの指導も受けている。

コルトーの多くの弟子の中には、クララ・ハスキル、ディヌ・リパッティ、ヴラド・ペルルミュテール、今なお第一線で活躍中のエリック・ハイドシェック(1936〜)などがいる。また、遠山慶子、原智恵子もコルトーの教えを受けている。

イヴ・ナットからはピエール・バルビゼを経てエレーヌ・グリモーとフィリップ・ジュジアーノにつながっているが、この2人はペルルミュテールの孫弟子でもある。フランスのピアノ界は他の国よりも複数の先生につく傾向が強いようだ。

イヴ・ナットの流れからは、井口基成、ミシェル・ベロフ、アブデル・ラーマン・エル・バシャなどが出ている。

ラザール・レヴィの弟子には、クララ・ハスキル、安川加寿子、田中希代子、松浦豊明などが名を連ねている。また、孫弟子として、ジャン・ユボーの弟子のアンヌ・ケフェレック(2015年のラ・フォル・ジュルネにも来日予定)、シブリアン・カツァリス、エリック・ル・サージュと、イヴォンヌ・ロリオの弟子のピエール=ロラン・エマール(昨年バッハの「平均律クラヴィーア曲集第1巻」全曲演奏で高い評価を受けた)とミシェル・ベロフがいる。

イヴォンヌ・ロリオはオリヴィエ・メシアン夫人でもあり、メシアンの多くの曲を初演している。その弟子のエマールはピエール・ブーレーズに認められ、1973年のメシアン・コンクールで優勝している。

そして、フランスには、パリで活躍したショパンの流れをくむ壮大な系譜も存在する。カロル・ミクリやジョルジュ・マティアスを経て、ゲンリヒ・ネイガウスやチャールズ・ローゼン、アルトゥール・ルービンシュタインなどに連なっている。アルベルト・シュヴァイツァーもその中の一人である。

チャールズ・ローゼンは『ピアノ・ノート』という名著の作者でもある。内容については《読書メモ》を参照されたい。

フランスの系譜のピアニストで、聴いてみたいと思ったのはミシェル・ベロフ(1950〜)とその弟子のニコラ・アンゲリッシュ(1970〜)という人。ベロフの先生のロリオにも師事しており、アルド・チッコリーニやマリア・ジョアン・ピリスにも薫陶を受けたようだ。ラ・フォル・ジュルネで日本にも来たことがあるらしい。

最後に、フランスのピアニズムについて、パスカル・ドゥヴァイヨンが語った言葉から抜き出してみる。

「例えば、ラヴェルについては、何よりもイメージです。どういう音色が欲しいのか意識することを教えられます。そして、ラヴェル特有の透明感や澄んだ音を探していくのです。…すごく明晰な音楽作りを要求されます。」

「また、ドビュッシーは撫でるような柔らかなタッチが必要です。ハーフタッチというのではなく、押すような。ドビュッシーは水彩画、ラヴェルは石版画みたいな感じでしょうか。」

「ドイツで重要視されるのは構成や分析…。フランスでは、音楽をどのように楽しめるかとか、生かせるかということで、インスピレーションが大切にされます。私はその両方のバランスをうまくとりたいと思っています。」


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