「日本の現代ピアノ曲を探す」シリーズ、今回は少し雰囲気の違う曲。吉村弘という作曲家の「STATIC」という曲で、「現代ピアノ音楽」というにはやや抵抗がある。癒し系?(この言葉はあまり好きではないが…)のような、やや捉えどころのない、しかしどこか懐かしい感じのする心静まる曲である。
それもそのはず、調べてみると「日本の環境音楽の第一人者」であった。この曲は『静けさの本』という CD-BOOK の中に入っている。
〔PTNAでの紹介文より〕
『静けさの本』は、吉村氏の作品の中では珍しく、演奏用の楽譜が存在するピアノ作品集です。もともとは1980年代に住宅メーカーの依頼で作られたCD音楽でしたが、2003年に吉村氏本人による直筆譜とエッセイが加えられ、CD-BOOKとして再版されました。
演奏は、フランスでサティのピアノ曲を学ばれた柴野さつきさんです。家にピアノがなく、ピアノは憧れの楽器であったという吉村氏。その音の魅力を綴った文章は、当たり前のようにピアノに慣れ親しんできた私たちには、とても新鮮ですね。
ちなみに「環境音楽」とは、「公園や美術館、駅や空港でふと耳にする、何気ない音楽」であり、「周辺の音の環境にマッチするように、綿密に計算されて」作曲された音楽のこと。(上記のPTNAの紹介ページから引用)
吉村弘氏は、「環境としての音楽」「空気に近い音楽」を目指し、自然の移ろいに寄り添った「エンバイラメンタルな音楽」を創り続けた作曲家ということだが、残念ながら2003年に63歳で亡くなっている。公共空間のサウンド・デザインの他にも、シンセサイザーを多用したCDが10枚ほどあるようだ。
「静けさの本」は11曲からなっている。YouTube では上の「STATIC」以外に次の2つを見つけることができたが、私の一番の好みは「STATIC」である。
「日本の現代ピアノ曲を探す」旅もそろそろ終わりに近づいている。正直に言うと、少し疲れた。たくさん聴いたせいもあるが、それだけではない。
「現代音楽」であることを目指しすぎているのではないのか、と思ってしまう。シェーンベルクの時代のようなパターンをつなぎ合わせただけの曲だったり、変にもったいぶったような音と間(休止)を繰り返したり、人を驚かすだけの大音響の不協和音を連ねたり、…。
シェーンベルクが活躍したのは20世紀のはじめの頃、普通の言葉でいえば「現代音楽」ではなく、100年近く前の「古典」なのだけど…。
もちろん、その中にもいい曲はいくつか見つかったので、すべてがそうとは言えないが、芸術が本来めざすべき「美」のようなものとか、「いい音(音楽の流れ)」とかを感じる曲はそんなに多くなかった。表現すべきものとか、表現した結果(の音楽)に対する意識が希薄なのではないだろうか?
…とあまり偉そうなことを言ってもしょうがない。
こちらは、一人の聴き手(ピアノ音楽が好きな素人)として、聴いて楽しめればいいのだから。「新しい音楽」を創り出す必要がある作曲家の先生たちは大変なのだ、きっと。
ともあれ、ここに来てこの「静けさの本: STATIC」という曲に出会えたのは、私にとって、ひとつの救いであるように感じられた。
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