2014年10月17日金曜日

「ロシア・ピアニズムの贈り物」ノート4:「身体が生みだす響き」

出典:『ロシア・ピアニズムの贈り物』
   (原田 英代 著、みすず書房、2014年7月)

※数字はページNo.
--------------------------------------------------

第五章 朗読と音楽のコーポレーション

※朗読
※2007年から行っている朗読と音楽を組み合わせたプログラムの紹介

245
音楽は作曲家や演奏家の意図にかかわらず、聴き手のおかれている立場、精神状態、心理状態によって大きく左右されるものであることにあらためて気づく。

--------------------------------------------------

第六章 身体が生みだす響き


〔1 身体の使い方〕
251「中心点」
ピアノは鍵盤に向かって…軸は前にずれていく。だが、静かに背中側に意識を移していくと、身体の真ん中を通っている中心線にフォーカスできるようになる。

腰を入れて姿勢を正す(力んで「くの字」に食い込む)のではなく、臍を背中側に寄せながらよい姿勢をとるのが基本である。そうすると、まず肩の力がスーッと抜ける。メルジャーノフは、演奏中は胃に身体の重心をもってくると言っていたが、まさにそのとおりのことが起こる。(臍を背中に寄せるような感じをもつと、…丹田にまで重心がおりてくる)

そして、腰から下に向かって伸ばしていきながら重みを下に落としていくと、音が充実し、豊かな大きな響きが出る。…フォルテを出すときは、腰から音を出す…

252「バランス」
前後のバランスは音色の変化にたいへん役に立つ。(特に弱音で必要)

例えば、低音で弱く、しかしミステリオーゾで深い音を出したい場合、手からエネルギーをピアノに向かって流しながら、それと同じほど、あるいはそれ以上のエネルギーを後ろ向きに感じてみるとよい。すると、鍵盤を押し込む速度を安定してコントロールすることができる。

松浦豊明から、鍵盤を押し込む速度と指にかかる重量との多様性を要求され、私は七転八倒した。…こんなことは頭で考えただけでは到底できない。感性のなせる技だ。

254〜(左右のバランス)(上下のバランス)(足の役割)(膝で支える)(骨の上に骨をのせる)(方は傘のように)(腹の部分に入り江の空間を作る)(力を抜くには→皮膚の力を抜く)(肘の柔軟性)

〔2 手の使い方〕
259(第三関節の大切さと弊害)
(第三関節の)《山》ができてきたら、今度は第三関節の裏側を鍵盤に吸い付かせるように楽にしてやると、レガートが弾きやすくなる。もちろん山崩れになってはいけない。

259(椀型の手)
メルジャーノフは「胸の力を使うのだ」と言っていたが、それはこの椀型の手があって初めて可能なことなのである。

260(指の腹で弾く)
指先の肉付きのよいところで弾くと豊かな音になる。そのため、指をほぼまっすぐ伸ばして弾くことも習得するとよい。

260(手首の角度)
手は鍵盤に垂直に置くのが最も自然であるが、少し右や左にねじってやると簡単に解決することがある。(弾きにくい音型や和音が)

260(手を傾ける)
演奏中ほんのわずかに小指側に倒すだけで弾きやすくなることがある。それをショパンは推奨していた。(ピアノを弾くポジションはじつは不自然に90度内転している)

261(指先の感覚)
指の第一関節は音の核をつくりだす大事な部分である。音質の性格の決め手となる。

〔3 奏法について〕
261(歌う音を出す奏法)
(レガート奏法で)鍵盤を押さえ込んでつながって弾けていれば、歌っていると錯覚してしまうのである。…問題は、たっぷり歌おうとして鍵盤を押しすぎてしまい、打鍵後も押し続けていることにある。

ショパンの使った形容に「ビロードのような手で鍵盤をこねる」というのがある。…留意しなければならないのは、手のひら側の力を抜くことだ。柔らかいバターを塗るような感覚でもいいかもしれない。そうすると打鍵というより、鍵盤に吸い込まれるような感覚が生まれる。打鍵後は、指に鍵盤を押し下げているだけの力があれば十分である。(響きを止めてしまうから)

旋律の中に長い音符がある場合、打鍵はより慎重に行わなければならない。(強いアタックをした音の消え方のほうが速い)

262(いかにして重量奏法を習得したか)
メルジャーノフから、6年目で「身についた」と言われ、15年で「よくなってきた」と

重量奏法は手首の柔軟性を百パーセント利用できて初めて成果を発揮するものであり、手首の解放が大きな鍵を握っているといえる。この場合、手首はつねに上下運動をするのであるが、動かそうとして動かすのではない。結果として上下振動するかのように習得されなければならない。…(会津の郷土玩具である)《赤べこ》のように自然に、永続的に心地よく動く手首を身につけることがポイントである。

腕の重みを使おうとして、腕に重みを感じているようでは、それは音に還元されず、腕にエネルギーが滞っているわけであるから、それは間違っていると思ってよい。…腕や肩、身体全体を使いながら感覚的には身体が軽くなっているのが一番なのである。

重量奏法は必ず指が鍵盤に触れていることが大切な条件となる。…触れている心地よい感覚を保つ…

〔4 響かせる感覚〕
266
…ハンマーは上向きに動いて音が出る。これを感じると、不思議と音が変わってくるのである。…ハンマーが心地よく跳ね上がるように力を伝達するのがよい。

〔5 自分の身体との対話〕
266
人間一人一人は体型が違うし、体癖が違うため、最終的には自分の身体と対話しながら奏法を見つけていくしかない。ポイントはメルジャーノフが言ったとおりだ。
「もしも心地よく演奏ができないなら、その奏法は間違っているんだよ」

--------------------------------------------------


  にほんブログ村 クラシックブログ ピアノへ