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プログラムはベートーヴェンの3つのピアノソナタ。第8番「悲愴」、第17番「テンペスト」、そしてベートーヴェン最後のソナタ第32番。
「テンペスト」は当初、シューベルトの「3つのピアノ曲」D946 の予定だったが、途中曲目変更された。聴き終わってみると、オール・ベートーヴェンのプログラムからは、ピリスさんの気持ちに沿った「必然性」のようなものが伝わってきた。
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今回のリサイタルはあまりにも「感じる」ところが大きくて、記事が書けない…書くとしたら「素晴らしかった!感動した!…以上」しかないなぁ…というのが帰りの電車の中での正直な感想であった…。
で、一晩寝て、感じたことを少しでも残しておきたいと思って、自分の文章表現力の拙さを嘆きながらこの記事を書いている。
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最初に正直に告白しておくと、聴く前は「ピリス さんのベートーヴェン」にはあまり期待していなかった。やはり、シューベルトとかバッハとかモーツァルトを聴きたい、と思っていた。もちろん、これは大きな間違いであった…(^^;)。
「悲愴」の最初の和音が鳴り、続いてゆったりした音楽が流れ始めた途端、そんなことはどこかに吹っ飛び、「本物」感が伝わってきた。
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前半はまだ冷静に?聴いていた。「悲愴」の第1楽章が終わると、会場の咳がやたら大きいなぁと思っていたり、お気に入りの第2楽章もピリス さんが弾くと本当に美しいなぁと感じたりしていた。
ちょっと気持ちがざわっとしたのは第3楽章から。ここはひたすら疾走する楽章だと思っていたのだが、なんだか違う。テンポは速いのだが、とても柔らかく起伏に富んでいて音楽的に豊か…そんな新鮮な印象。とても良かった。
その感じは次の「テンペスト」でも続く。こちらもとくにいいと思ったのは第3楽章。聴き慣れているはずのメロディーがとても新鮮で、引き込まれた。
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そして圧巻の第32番。最初から名演奏を予感させる音が鳴り響く。
聴くのに集中していて、気がついたら、ピリス さんが鍵盤に覆いかぶさるように身じろぎもせず、時間が止まった感じがして、曲の終わりに気がついた…そんな感じ。
いつまでも曲が終わってほしくなかった。もっともっと聴いていたかった…。
感想文としてまとまりそうもないので、聴きながら頭をよぎった思いをいくつか拾い集めてみると…。
- ピリス さんの思いが込められている、それも全身全霊を傾けた…
- ピアノの音が鳴りきっている以上に、ピアノを超えた音がしている(どうやったらこんな音・響きが出せるのだろう?)
- 耳の聞こえないベートーヴェンの頭の中で鳴っていた音が今ここに再現されている
- 素晴らしい音楽が生み出されていく、その場所と時間に身を浸せる幸せ
そして、最後に思ったのはなぜか「物事はすべていつか終わるときがくる」ということ。
ピリス さん最後の来日かもしれないということ、そして曲が終わったときの印象的な姿などからそんなことを思ったのだろう。
そんな気持ちになっていたせいか、アンコール曲の「6つのバガテル 第5番」(ベートーヴェン)が別れの歌に聴こえて仕方なかった。"Farewell, and thank you" …
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おまけのラッキー。帰りの六本木一丁目駅で、なんと藤田真央くんを見かけた…(^^)♪
うちのカミさんが気がついて、見るとキーシンのサインの入ったバッグを背負った童顔のリアル真央くんがいたのだ。で、普通の子のように券売機で切符を買っていた…。
ピリス さんの演奏を一緒に聴いていたのだろうと思うと、何だか嬉しくなった ♪
※キーシンのサインの写真はこちら
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