「現代のピアノソナタ」探索シリーズ(シリーズにまでなるかどうか?)第1弾は、フランスの作曲家、ニコラ・バクリという人。
ニコラ・バクリ(Nicolas Bacri)は1961年11月23日パリ生まれ、1983年に「ローマ大賞」を獲得した「フランスで最も嘱望される作曲家」とのこと。
「ローマ大賞」って、あのラヴェルが何回も落選した有名な賞?1983年にあったの?…と思って調べたら、元祖「ローマ賞」は1968年に廃止されたが、1971年から「奨学金給付生の選定」という形でなかば復活しているらしい。(Wikipedia による)
上記写真は "Nicolas Bacri : Piano Music" というCDのブックレットからお借りしたもの。右がバクリ、左はピアニストのエリアンヌ・レイエ(Eliane Reyes、ベルギー、1977〜)。
下記サイトに簡単な紹介と主要作品リストがある。
✏️ニコラ・バクリ(Wikipedia)
✏️バクリ, ニコラ 1961 Bacri, Nicolas(PTNA)
バクリの作風は一言で言うのが難しいようだ。彼の "Notes étrangères" という本では、自分自身の音楽について以下のように言っているらしい。(「∵」=「なぜならば」)
私の音楽は…
ネオ・クラシカルではなくクラシカルである。
∵時を超越した "Classicism" の側面(表現の厳密さ)を持っているから。
ネオ・ロマンティックではなくロマンティックである。
∵時を超越した "Romanticism" の側面(表現の濃密さ)を持っているから。
モダニストである。
∵時を超越した "Modernism" の側面(表現の領域の拡大)を持っているから。
ポストモダンである。
∵時を超越した "Postmodernism" の側面(表現技術の混合)を持っているから。
よく分からないが、あえてまとめると、
音楽表現において、クラシカルな厳密さ、ロマン派の濃密さ、モダニズムやポストモダニズムがやったような表現技術の多様化やその組み合わせを取り込んでいる。
…ということだろうか? 現代の音楽のあり方というのは、過去の音楽とは違うものを創り出すということではなく、過去の音楽のすべての積み重ねの上に、すべてを包含した形で新しいものを創り出す、みたいなことなのかもしれない。
なんとなく、ラウタヴァーラの次の言葉を思い出した。
「数千年の西洋音楽の歴史全体を、現代の音楽家は一つの領域として捉えるべきだ」
で、バクリは「ピアノソナタ」をいくつか作曲しているが、主なものは次の2曲のようだ。「第1番」がなぜか見当たらない。
- ソナタ/ SONATE Op.105 n°2 [2007/(2008/2010)年] [12'00"]
- 衝動的なソナタ/ SONATA IMPETUOSA Op.122 n°3 [2011年] [12'00"]
YouTube では第2番しか見つからなかった。(第2番の方が有名ということ?)
11分ほどの曲。続けて弾かれる3つの楽章から構成されている。
1: Adagio doloroso
2: Scherzo (Vivace non troppo)
3: Allegro moderato alla fuga
CD の解説文によると、曲全体の統一感は、第1楽章の2つのテーマがその後もいろんな箇所で形を変えながら使われていることから来ているとのこと。私自身は、2〜3回聴いた限りでは、それに気づくことはできなかったが…。
個人的な好みでいうと、嫌いではない(「現代音楽」的な嫌味などは感じない)が、すぐに「いいなぁ〜」と思うような曲ではない。ちょっと暗い感じ("doloroso":悲しげに)がそう感じさせるのかもしれない。あえて言えば、スケルツォ部分のテンポの速いところはわりと好みではあるが…。
ちなみに、このソナタは2007年にブリュッセルで作曲され、献呈された Julien Quentin というピアニストが初演している。その後2008年・2010年に改版され、最終版はエリアンヌ・レイエにより初演された。
YouTube にあったその他の曲も聴いてみたが、わりといいなと思ったのはこの(↓)「プレリュードとフーガ」である。ややとりとめない印象もあるが、対位法的なところが気に入った理由かもしれない。
それと「季節(Les Saisons)」の4曲(秋・冬・春・夏)も、やや甘すぎる(ムード音楽的?)かも知れないが、なかなかいい感じの小品である。
おまけ:バクリのピアノ作品集が NAXOS レーベルから出ている。(ピアノ:エリアンヌ・レイエ)
(バクリ:ピアノ作品集)
収録曲は下記。
- 前奏曲とフーガ Op. 91
- ピアノ・ソナタ第2番 Op. 105
- Diletto classico, Op. 100: No. 1. Suite baroque
- Diletto classico, Op. 100: No. 2. Sonatina classica
- Diletto classico, Op. 100: No. 3. Arioso barocco e fuga monodica a due voci
- 2つの抒情的スケッチ Op. 103
- 小前奏曲
- 芸術の幼年期 Op. 69 No. 1
- 十二音によるパルティータ変奏曲 Op. 69 No. 3
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