ルカ・ドゥバルグ(Lucas Dubarge)のロング・インタビューの続きである。今回は、彼の音楽の方向性、曲の好みなどに関する部分を概観してみたい。
新しいアイデアを見つけシェアしたい
現代に生きる自分にしかできない音楽(のアイデア)を、作品の中に見つけ出し、それを演奏(解釈)という形で(聴衆と)シェアしたい。…というのが、ルカ・ドゥバルグというピアニストの思いではないか、とインタビュー記事を読んで思った。
彼は、音楽作品を作曲家より上に置く。作品は時を超えて、演奏家の手によって新たな命を吹き込まれる、と考えている。たとえば、次のように言う。
現在ほど良いモーツァルトの演奏はかつてなかったと思います。50年前にも(クララ・ハスキルはいましたが…)、19世紀にもなかったはずです。いまや、細心の心配りによってダイヤモンドのような輝きが一つ一つの音符に注がれています。
そして、次の発言には諸手を挙げて賛成したい。
他方で、ショパンとリストの音楽については、我々は飽和点に達していると思います。いまや井戸は空っぽ。何か新しいものを引き出すリニューアルが求められています。
クラシック音楽が型にはまった「古典芸能」に陥らないためにも、このことは非常に大事なことだと思う。
こんなリサイタルをやりたい
チャイコフスキー・コンクールの第2ラウンドの選曲、メトネルのソナタとラヴェルのガスパール。これが、彼の目指す一つのリサイタルの形のようだ。つまり、あまり演奏されない曲と有名な曲との組み合わせ。
どんな曲を考えているのか、ルカ・ドゥバルグの発言からいくつか拾ってみると…。
スカルラッティのソナタをやりたい。スカルラッティは好きな3人の作曲家の一人です。あまり弾かれないソナタを考えています。
ベートーヴェンの最初の7つのソナタもレコーディングしたいと思っています。シューベルトも魅力的です。SofronitzkyのD960の演奏(→これか?)を聴いたのですが、素晴らしいものでした。
シマノフスキーのソナタ第2番は弾かなくてはと思ってます。彼も好きな作曲家の一人です。あまり弾かれないのですが、リヒテルは弾いてます。スクリアビンを弾くとすればソナタ第8番です。
他にも、Samuel Maykaper(サムイル・マイカパル:ロシア、子供向け作品、great piano sonata in Cm)、Liadov、Balakirev(B♭mソナタ)、Medtner(全ソナタの録音をしたい)、など…。
幅広い志向と、あまり演奏されない曲に興味を持っているところは、期待したいところだ。ピアノ音楽の新しい魅力をぜひ届けてほしい。
その他の好きな作曲家など
現代音楽やピアノ音楽以外については…。
シェーンベルクは好きな作曲家の一人だけど、ベルクとウェーベルンは今ひとつ…。シェーンベルクのピアノ作品は好きです。荒っぽくて( harsh )冷たいという人もいるけど、そうは思わない。シェーンベルクには情熱があります。
でも、シェーンベルクで一番好きなのは弦楽四重奏曲で途中からソプラノが加わるやつ。素晴らしい!すごい作曲家で、バッハのようなプレリュードとフーガを書ける数少ない作曲家の一人。
メシアンは…あまりいいと思ったことはない。
オペラは十分に聴いたとは言えない、交響曲的なものはそんなに好きではない、むしろ室内楽が好み。室内楽作曲家のRoslavets(ニコライ・ロスラヴェッツ:ロシア、1881〜1944)は天才だと思う。
ちなみに、次の発言はやはりそうなのか…とこちらもがっかり。
ピアニストの友人と話していてがっかりすることがあるんだ。彼らはショパンのスケルツォ以降のピアノ音楽さえ知らないんだ。(ましてや、ピアノ以外の作品なんて…)
尊敬するピアニスト
尊敬するピアニストは?と聞かれての答え。
ギレリス、リヒテル、ホロヴィッツ、彼らの解釈(演奏)の温かさは極上です。グールドも尊敬しています。演奏家としてだけでなく、哲学者としても。彼は、mental capacity や levels of consciousness(精神の器、意識のレベル)を拡大する方法を見つけた。一種の僧侶、賢人です。ポゴレリッチも好きです。フランス人では Marcelle Meyer (マルセル・メイエ:1897-1958)。他にも、ツィメルマン、ソコロフ、ベレゾフスキー、…。
ちなみに、アルゲリッチは?の質問に "Untouchable!" (?)と一言。
(とりあえず以上・完)
※興味ある方は下記記事(大まかな日本語のメモ)をどうぞ。
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