昨日、梅雨空の中(といっても幸いにして雨は降らず)ルカくんとギドン・クレーメルのリサイタルを聴きに行った。
私にとっては、去年のチャイコフスキー・コンクールでいきなりファンになり、今年の初めに来日することを知ってすぐにチケットを買い、…という待ちに待った日であった。
サントリーホール前の AUX BACCHANALES(オーバカナル)というお店で軽食をとった後、ワクワクしながらホールに向かう。座席に座って、もらったパンフレットに一応目を通す。
Lucas Debargue の表記が「実際の発音に近づけるために…」という理由で「リュカ・ドゥバルグ」になっている。…ことに少し違和感を感じながら開演時間を待つ。私の中ではやっぱり「ルカくん」…。
意外にも空席が目立つ状態に少しびっくり。やはり、日本ではまだ無名ということか(ルカくんが)…とは思ったが、でもギドン・クレーメルはヴァイオリンの巨匠。曲目が地味だからなのか…?
それはさておき、演奏である。結論を先に言うと「期待通り&期待以上」という満足感の高いリサイタルであった。期待通りの「夜のガスパール」と、期待以上の2つのヴァイオリン・ソナタ。
最初の曲、ラヴェルのヴァイオリン・ソナタの出だしは、思ったより静かに何気なく始まった。ちょっとピアノ(ルカくん)が遠慮しているのかな、と感じだのだが、2楽章からは、ジャズっぽいノリもあり、いい感じになった。
久しぶりに聴くナマのヴァイオリンも味わい深いいい音色。「1641年製のニコロ・アマティ」らしいが、もちろんクレーメルさんの腕だろう。とても楽しく聴かせてもらった。
で、実は「ガスパール」は微妙?な感じだった。いや、期待通りにとても良かったのだが、最初にチャイコンで聴いたときの印象が強すぎたせいか、どこかでさらなる驚きを期待していたようなのだ。
私の横で冷静に?聴いていたカミさんの感想は、チャイコンのときより落ち着いていて楽しんで弾いている印象で、演奏も細かい音まではっきり聴こえて、素晴らしかった、とのこと。
でも、ナマで聴くピアノの音はやはり格別であったし、ルカくんが感じている音楽の大きなうねりが伝わってくるような体全体の動き(激しく細かい打鍵の動きとは別の、しかし絶妙にシンクロした…)を見るのはとても心地よかった。
そして圧巻だったのが、最後のフランクのヴァイオリン・ソナタ。いや、これは「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」という名前の方がふさわしいと思える名演だった。
巨匠ギドン・クレーメルと互角にがっぷり四つに組んで、アンサンブルというより、二人で一つの音楽を創り上げているという印象。ルカくんがリードしているように感じる場面もいくつもあった。
おそらく、ルカくんの中では「伴奏」しているという意識はまったくなく、ヴァイオリンも自分で奏でているような感覚で弾いているのではないか、と思った。
曲自体もいいのだろうが、ピアノの音が実に美しかった。p(小さい音)の部分でもしっかりメロディーやキーとなる音が艶やかに響いて、そのいくつかの音に本当に「惹きつけられる」感じ。
ピアノのソロ・パートになると、f(フォルテ)で思う存分歌い響かせる。それに呼応するかのように、クレーメルのヴァイオリンが力強い音の旋律を乗せてくる。2つの楽器以上の音響がホールを満たす。
30分ほどの曲があっという間に終わった感じ。もっと聴いていたい…。
帰りの電車の中では、ルカくんの印象の話題になった。
「あんなにほっそりして背が高かったっけ?」「チャイコンのときのオタクの印象はなく好青年に感じた」「音楽に対する姿勢が真摯…」などなどが、カミさんの印象。
私はといえば、彼の、音楽を感じる豊かな感性とそれを表現しきる技術とセンスを、改めて感じたリサイタルであった。ピアニストというより「音楽家」。これからが楽しみな若者である。
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