2024年12月29日日曜日

よく知っているピアノ曲の異色の名演奏 ♪ インヴェンション、きらきら星変奏曲など

今年は音楽鑑賞(ピアノ曲)が充実していたと思う。その中で、よく知っている曲の思わぬ名演奏にもいくつか出会った。

大袈裟に言えば「古い作品に新しい命を吹き込む」みたいな感じ…(^^)♪




私がピアニストの演奏に期待しているものの中に、「これまでにない解釈でハッとさせられたりワクワク感を味わえるような演奏」みたいなものがある。意外性・新鮮さ・美しさを兼ね備えたような魅力的な演奏…。

これに関しては、リュカ・ドゥバルグが 2015年のチャイコンで入賞したときのインタビュー(↓)の中に印象深い言葉がある。



「パフォーマーとしての使命・役割」を問われたときの言葉だ。一部を抜粋すると…。

「僕は大きな責任を持っていると感じています。interpreter として、膨大な数のピアノ・レパートリー、数千の傑作を持つことに」

(多くのinterpreter =ピアニストによって、演奏は進化してきた…)

「例えば、現在ほど良いモーツァルトの演奏はかつてなかったと思います。…いまや、細心の心配りによってダイヤモンドのような輝きが一つ一つの音符に注がれています」

「他方で、ショパンとリストの音楽については、我々は飽和点に達していると思います。いまや井戸は空っぽ。何か新しいものを引き出すリニューアルが求められています」


この「リニューアル」された演奏を聴きたいと、私は常々思っている。


…で、今年聴いた演奏の中で、「リニューアル」(レベルの差はあれ)と感じた演奏を四つほどご紹介したい。


1. シュ・シャオメイのインヴェンション


この演奏には本当にビックリした。

とくに奇を衒(てら)ったような弾き方はしておらず、ピアノならではのアーティキュレーションやデュナーミクで、ある意味「正統派」的な演奏をしている。なのに、そこから紡ぎ出される音楽が本当に素晴らしいのだ ♪

シュ・シャオメイのコメント(↓)にあるように、「高密度な音楽表現」のなせる技なのだろうと思う。「音楽性」に真正面から取り組んだ名演奏とも言える。

「(インヴェンションとシンフォニアは)シンプルな中にも高密度な音楽表現がなされており、それを表現するのは並々ならぬ音楽性が必要です」


聴いたのはこれ(↓)。



2. ゲルリンデ・オットーの平均律第2巻


ゲルリンデ・オットー(Gerlinde Otto)はドイツのハレ出身、ワイマール・フランツリスト音楽大学のベテラン教授で、国際ピアノコンクールの審査員などもしている人。

ピアニストとしてはそれほど活動してないのか、情報も少なく、録音もこの「平均律第2巻」だけかも知れない。

この演奏は、聴き始めてすぐに幸福感を感じるような美しいピアノの響きにハッとした。「バッハを弾くことの歓びに満ち溢れている」というコメントをした人がいたが、まったくその通りだと思う。

その人は「過剰な装飾音」に苦言を呈していたが、素晴らしい演奏の前では、私の場合はそれほど気にはならなかった。


下記がその CD。



3. 藤田真央くんの「きらきら星変奏曲」


真央くんがヴェルビエ音楽祭で弾いていた「きらきら星変奏曲」(Wolfgang Amadeus Mozart, Variations on "Ah! vous dirai-je, Maman," K. 265)は、聴き始めは「あ、こんなの弾くんだ…」と思っただけだったが…。

曲が進むにつれて、「オー」っと、こんなすごい名曲だったっけ…と思うほど惹きつけられていった ♪ 真央くんの真骨頂全開というか、思うままに自由自在にピアノを操っているように見えた。幸せなひと時を戴いた気分だった ♪

真央くんの進化も感じられた。元々とても美しい真央くんの音に「芯」がしっかり加わって、とくに弱音での音の輪郭と伸びが進化したと感じた。ダイナミックレンジも広くなって、演奏のスケール感も大きくなったと思う。

聴いたのは medici.tv のアーカイヴだが、今は premium 会員向けになっている。


4. Ji の「ゴルトベルク変奏曲」


《2024年:今年出会ったピアニスト ♪》でも取り上げたのだが、あまりにも強い印象だったのでもう一度ご紹介しておきたい。

「ゴルトベルク」は好きな作品の一つで、好みの演奏も多い。今年はバッハの鍵盤音楽を鑑賞する中でじっくり聴いて、何人ものピアニストの演奏を堪能した ♪


これで、ある程度自分自身の好みの傾向も分かったつもりになり、今後聴くときはこのピアニストたちの中から気分で選べばいいか…と思っていた。

…のだが、そこに突然割り込んで来たのが、この Ji という名前のピアニストだった。


言葉で説明するのは難しいので、興味のある方は YouTube の音源(or CD)を聴いて戴ければと思う。最初の「アリア」以外は「変化球」の連続とでも言えばいいのかな…(^^;)?

叩きつけるような装飾音符、部分的な編曲?などの色んな技(わざ)を「変幻自在」に繰り出してくる。でも、演奏は確かさを感じるし、妙に惹きつけられて面白い…と思う。

♪ Ji Yong Bach Goldberg BWV 988:アルバム





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