先日《シドニー国際ピアノコンクール、カウントダウン》の記事で、公式サイト(2020)がよくできていて、ライブストリーミングもあり、なかなか充実していることを書いた。
去年、このコンクールの音楽監督に就任した Piers Lane(オーストラリアのピアニスト ↓)という人が頑張って、かなり変えたらしい。
変革の動機は「なぜシドニー国際コンクールの勝者から(第2の)アルゲリッチが出てこないか?」という、まぁ、よくありそうなものだ。
で、Lane 氏が主な理由として考えたのが、グローバルな露出とコンクール後の支援(follow through)の不足であった。それを改善するために色々やったらしいのだ。
グローバルな露出という意味では、やはりネットへのライブストリーミング配信が大きいと思う。ただ、アーカイブが見当たらないのがちょっと残念である。時間帯が合わない場合とか、あとでもう一度聴きたいときに不便だ。
コンクール後の支援という意味では、有名な指揮者であるヴァレリー・ゲルギエフ(Valery Gergiev)を "artistic patron" に迎え入れたことが大きかったのだと思う。
優勝者には、賞金 $50,000 に加えて、ゲルギエフのマリインスキー国際ピアノフェスティバルでの演奏や、オーストラリアやヨーロッパでの演奏契約、ロンドン・フィルとの共演、ハイペリオン・レコードでのCD録音、キャリア支援、等々盛りだくさんの支援が用意されている。
その他にも、他のコンクールと違いを出して、コンクールの魅力をアップするいくつかの努力をしたそうだ。
例えば、9人の審査員も、プロの?審査員や先生方を避けて、現役のコンサート・ピアニストが中心となっている。審査のやり方も新しくしたらしい。
コンペチターが弾くピアノも、Steinway、YAMAHA、KAWAI、FAZIOLI の全種類を弾くことになっている。セミファイナルに進めなかった人は、結果的に2種類ということになるが…。
ピアニストの実際の演奏活動では、ホール備え付けのピアノを弾かざるをえないことも多いので、それと同じ条件?ということらしい。面白い試みだと思う。
なによりも大きいのはレパートリー(課題曲)ではないだろうか。Lane 氏は「コンペチターにとって挑戦的、聴衆にとって魅力的なものにしたかった」「『スタインウェイでラフマニノフを弾く』というお決まりのパターンを変えたかった」と言っている。
3つのソロ・リサイタル、室内楽、2つの協奏曲というステージ構成になっているが、リサイタルのプログラムは、ほぼ自由に組み立てることができる。制約は、複数の作曲家とオーストラリアの作曲家の作品を入れることだけ。
室内楽は、5つのヴァイオリン・ソナタと6つのピアノ五重奏曲から、それぞれ一つずつ用意しておき、コンクールではそのどちらを演奏するか指定されることになる。
協奏曲は、18世紀の作品(バッハ、ベートーヴェン、ハイドン、モーツァルト)から1曲、19/20世紀の20作品から1曲を選んで演奏する。
19/20世紀の作品リストには、バーバー、ドホナーニ、フンメル、メトネル、ウィリアムソン(オーストラリア)など、あまり聴く機会のない作曲家のものも含まれている。
まぁ、ラフマニノフの2番とかプロコフィエフの3番も入っているので、珍しい曲を選ぶ人はほとんどいないだろうが…。
ちなみに、セミファイナリスト12人の選曲を見てみると、ラフマニノフとプロコが4人ずつ、あとはブラームスが2人、サンサーンスとベートーヴェンが1人ずつである。Lane 氏の期待は外れたようだ。
それでも、これまで聴いたソロ・リサイタルは、そこそこ面白いプログラムもあったし、Carl Vine(審査員の一人)などオーストラリアの作曲家の作品も楽しめたので、それなりの効果はあったのかも知れない。
…と、相当頑張っているようには見えるが、やっと「容れ物」が整っただけ、という印象は否めない。
整えられた環境で、どれだけレベルの高いピアニストが参加してくれるか、そこで「おっ!これは!」と思わせる演奏をしてくれるか、が「第2のアルゲリッチ」へのカギを握る、ということだろう。
Lane 氏もこう(↓)言っている。
“You can’t make a career for somebody but you can give them wonderful opportunities.”
(我々はピアニストにキャリアを作ってあげることはできないが、素晴らしい機会を用意することはできる)
まぁ、4年後に期待することにしよう♪ …と、まだコンクールは終わっていないが…(^^;)/。
【関連記事】
《シドニー国際ピアノコンクールの優勝はアンドレイ・ググニン♪》
《オーストラリアの作曲家?:シドニー国際ピアノコンクール》
0 件のコメント:
コメントを投稿