長大で演奏の難易度が高いヴィルトゥオーソ・フーガの一つ。バッハが自身で演奏するために書いた可能性が高い。
フーガは BWV944 との共通点が多い無窮動的なアレグロ(〜プレスト)楽章となっている。「あまりに前奏曲的で、2つの楽章で効果的な対が形成できていない」という、『バッハの鍵盤音楽』の著者の指摘は聴き手としても頷けるところである。
バッハは後年、「フルート、ヴァイオリンとチェンバロのための三重協奏曲」BWV1044 の第1・第3楽章にこの前奏曲とフーガを使っている。第2楽章にはオルガンのための「トリオソナタ第3番 ニ短調」BWV527 の第2楽章の旋律が用いられている。
「三重協奏曲」では、最初に引用した「(フーガが)あまりに前奏曲的」という点は、緩徐楽章を挟むことと、第3楽章のフルートとヴァイオリンが 3連符の頭の音だけからなるゆったりした旋律を奏でることで解消されている。
弾いているピアニストはそんなに多くないが、最初に聴いたキット・アームストロング(Kit Armstrong、米、1992 - )の演奏が素晴らしく迫力もあって、とても印象に残った ♪
速いパッセージを、鍵盤を突くような独特の弾き方で…どうやっているんだろう?
あと、ジョアン・カルロス・マルティンス(João Carlos Martins、ブラジル、1940 - )もなかなかいい味を出している。
(BWV944:トラックNo. 9〜10)
そして、チェンバロでも素晴らしい演奏を見つけた。マルコ・メンコボーニ(Marco Mencoboni、伊、1961 - )という人の演奏。使われている楽器は Giulio Fratini 氏によって新しく作られたもののようだ。
前奏曲からフーガへ、ほとんど間を置かずに演奏している。「(フーガが)あまりに前奏曲的」という欠点を和らげる一つの解決法かも知れない…と思って聴いた。
マルコ・メンコボーニは指揮者、オルガニストでもあり、古楽界では音楽祭の芸術監督、指揮者、演奏家、講師などとして幅広く精力的に活躍している人のようだ。
チェンバロは有名なトン・コープマンやグスタフ・レオンハルトに学んでいる。1992年に自主レーベル「エ・ルーチェヴァン・レ・ステッレ」を設立、2012年にはアドリア海沿岸の若い音楽家たちを集めたバロック・オーケストラ「カナルグランデ」を結成している。
✏️マルコ・メンコボーニ(OMF)
- BWV904 幻想曲とフーガ イ短調
- BWV944 フーガ イ短調
- BWV894 前奏曲とフーガ イ短調
- BWV903 半音階的幻想曲とフーガ ニ短調
- BWV906 幻想曲とフーガ ハ短調
📘『バッハの鍵盤音楽』(小学館、2001年、デイヴィッド・シューレンバーグ 著)
✏️バッハ :前奏曲とフーガ イ短調 BWV 894(PTNAピアノ曲事典)
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