その第1章「初期の鍵盤音楽」の最初のところに、その時代の鍵盤音楽の「形式」についてまとめた箇所があり、とても分かりやすかったのでメモの形で残しておこうと思う。
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この本は、複数の著者が各章ごとに書き分けていて、第1章の担当はハワード・ファーガソン(Howard Ferguson, 1908 - 1999)というイギリスの作曲家、音楽学者である。
「形式」の話のあとに、ヨーロッパの各国ごとの作曲家や楽曲の解説があって、最近聴いた W.バードや J.ブルなどの名前も出てくるので、親しみが持てる…(^^)♪
以下、「形式」の部分を簡単にまとめてみる。
初期(ルネサンス〜バロック前期)の鍵盤音楽には、大きくは二つの系列がある。何らかの意味で声楽曲から分かれたものと、純粋に器楽的なもの、つまり最初から楽器で演奏することを想定されたものである。
以下に分類したもののうち、1. 〜 4. が前者(声楽曲由来)、5. 〜 9. が後者(純粋器楽曲)である。
- 単旋律聖歌に基づいた曲
- 合唱曲・讃美歌に基づいた曲
- モテット・タイプの作品から生じた曲
=リチェルカーレ、カンツォン、ファンタジア、カプリチオ、フーガ - 民族(世俗)音楽の編曲
- プレリュードとトッカータ
- 舞曲
=パヴァーヌとガイヤルド、パッサメッツォとサルタレロ、アルマンドとクーラント - 表題(特徴)音楽
- 変奏曲
=民族音楽等の変奏、「ウト、レ、ミ」型、基礎低音型(シャコンヌ、パッサカリア) - ソナタ
1. は、グレゴリオ聖歌(Gregorian Chant)などの単旋聖歌=単旋律聖歌(Plain Chant)を定旋律(カントゥス・フィルムス、cantus firmus)として、これに対する対旋律を自由に、あるいは模倣的に置いて対位法を構成したもの。
2. はルーテル派の賛美歌などをもとにして(定旋律にして)作られたもの。1. が散文的な作品になるのに対し、韻文(韻を踏んでまとめられた詩)の特徴を持った作品となる。
3. のモテット・タイプの作品から生じた形式は、初期の鍵盤音楽のもっとも重要なものの一つである。
これには、深遠で真摯な雰囲気を持つ「リチェルカーレ」、フランスの世俗シャンソンから派生した軽い感じの「カンツォン」、即興的で自由な「ファンタジア」「カプリチオ」、そして18世紀フーガの前身となる「フーガ」(カノンを含む)などが含まれる。
4. の民族音楽(世俗歌曲)をもとにした器楽曲は、おおむね原曲をたどるものと、1〜2種類の編曲を含むものがある。
5. のプレリュードとトッカータは緊密に関連している。
「プレリュード」はもともと「短い即興曲」であり、リュート奏者が楽器の調子を確認するため、あるいはオルガン奏者が合唱隊に音高を与えるために弾かれたものである。
「トッカータ」はそれがより長くより派手に変化していったものと考えられる。もともと鍵盤楽曲であり、演奏者と楽器の種々の可能性を示すために、いくつかの対照的な部分から構成される楽曲であった。
6. の舞曲は、舞踊のための伴奏が器楽曲として独立していったものである。
最初は「パヴァーヌとガイヤルド」(二人で踊る三拍子の曲)、「パッサメッツォとサルタレロ」(3/4、6/8、6/4 拍子の曲)、「アルマンドとクーラント」といった、ゆっくりした曲と速い曲の組み合わせで作られることが多かった。
その後、他の舞曲も組み合わせられるようになり「組曲」となっていく。基本的な曲は、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグなど。
7. の表題(特徴)音楽というのは、音楽によってある雰囲気や出来事、人物などを表そうとするもの。とくにフランスに多く見られ、イギリスには少ない。
とはいえ、例えばイギリスのジョン・ブルにも、"English Toy"、"Why Aske You" とか "Doctor Bull's Goodnight" といった表題音楽と思われる曲も存在する。
8. の変奏曲も重要な形式である。
舞曲や民族音楽をもとにした変奏曲では、旋律全体が主題として、そのまま繰り返し使われたり、変化させられたりする。
「ウト、レ、ミ」(ド、レ、ミ)型の変奏曲は、六音音階の一部を上げたり下げたりすることによって作られる。ジョン・ブルの「ウト、レ、ミ、ファ、ソ、ラ」(Fitzwilliam Virginal Book No.51)が有名。
もう一つの変奏曲の型として「基礎低音」(低音主題)がある。バッソ・オスティナート(basso ostinato:執拗低音、固執低音)と呼ばれる主題が低音部で繰り返され、その上に常に変化する(変奏される)上声部が乗る形となる。
主な「基礎低音」形式として「シャコンヌ」「パッサカリア」がある。
9. の「ソナタ」は古典派のソナタとは異なり、「カンタータ」(歌われる曲)に対する「音による曲」を表す言葉であった。
ところで、「舞曲」のところに面白いことが書いてあった。今でいう「コード進行」の流行があったようなのだ。
つまり、舞曲には「ある特定の和声の型」が頻繁に現れていて、それがヨーロッパ中に広まった。その「コード進行」には名前がつけられていた。
例えば、「パッサメッツォ・アンティコ」というのは、イ短調のコードネームで書くと次のようになる。
Am | G | Am | E || C | G | Am-E | Am ||
有名な曲「グリーンスリーブス」では、この各小節が 2回ずつ繰り返されている。…とこの本には書かれているが、ネットでは、別の型ではないか?…といった議論もある。
他にも「ロマネスカ」「フォリア」「パッサメッツォ・モデルノ」といった「和声の型」があったようだ。
「パッサメッツォ・モデルノ」(↓)はイギリスでは「クアドラン」と呼ばれており、ジョン・ブルの 4/4拍子の「パヴァーヌとガイヤルド」にも見られるそうだ。
A | D | A | E || A | D | A-E | A ||
参考✏️パッサメッツォ(Wikipedia)
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