2018年6月24日日曜日

ピアノコンクールの審査員から先生を排除すべき理由…

《お世話になっている音楽ニュースブログ "Slipped Disc"♪》に面白い記事(↓①)があった。Slipped Disc の主催者、ノーマン・レブレヒト氏が イギリスの "the Spectator" に投稿した記事(↓②)の紹介だが、両方ともインパクトのあるタイトル…。

✏️①Why competitions must get rid of teachers
「なぜコンクールは先生たちを排除すべきか」

✏️②You vote for my pupil, I’ll vote for yours – the truth about music competitions
「私の生徒に票を入れて、私はあなたの生徒に入れるから…音楽コンクールの真実」


2015年第9回浜松国際ピアノコンクールの審査員席

音楽コンクールで審査員の生徒が入賞という話はときどき聞くが、どうも「ときどき」のレベルではなく、蔓延していると言ってもいいような状況だという記事…。

ちなみに、上の写真は浜松国際ピアノコンクールのサイトからお借りしたものだが、レブレヒト氏の記事や本ブログ記事とは関係ありません。審査員席の風景の一例として…。

以下、②の記事の内容を大まかに紹介してみようと思う。私の英文読解力や知識の限界による誤訳もあるかも知れないので、だいたいこんな記事…ということで…(^^;)。


5月に行われたダブリン国際ピアノコンクールでは韓国の22歳、Sae Yoon Chon が優勝したのだが、彼は審査委員長の生徒であった。

同じ5月に「BBCヤング・ミュージシャン」というコンクールで優勝したのは16歳のローレン・チャン(Lauren Zhang)。彼女は間違いなく将来を嘱望される若き才能である。

でも、ローレン・チャンのような才能が発掘される例はわずかしかなく、ダブリンの勝者 Sae Yoon Chon の場合はたぶんそうじゃない。

なお、ダブリンの件では、ノーマン・レブレヒト氏は相当お怒りだったようで再三記事を書いている(↓)。

✏️In Dublin, half the piano finalists are students of the jury 2018/5/28

✏️Dublin competition is won by chairman's student 2018/5/30


ちなみに「BBCヤング・ミュージシャン」のローレン・チャンについては、ねもねも舎のブログ(↓)で紹介されていた。一度聴いてみようと思っている。

✏️BBCヤング・ミュージシャンは16歳のローレン・チャンが優勝


ダブリンは珍しいケースではない。年間 300以上のコンクールが行われているが、信用に足るものは 5つにも満たない。BBCヤング・ミュージシャン、ショパンコンクール、最近のチャイコフスキーコンクールくらい…。

審査員同士の会話:「私の生徒に票を入れて、私はあなたの生徒に入れるから」…。

こんな話もある。ドイツの音楽院のある先生はリゾートでの1週間の有給休暇?をオファーされる。やることは1日4時間の演奏を聴いて、招待者である教授の生徒を選ぶだけ…。

見返りに、教授はその先生の生徒を4位入賞とする。先生側のメリットも大きい。国際コンクールの入賞者を出した先生の収入は増え、将来入賞の可能性を持つ生徒も増える…。


そういう話は残念ながら後を絶たない。

ヴァイオリンのコンクールでは、若き Vadim Repin や Maxim Vengerov を教えた Zakhar Bron という人がいる。彼が審査員を務めたコンクールでは、ほとんど彼の生徒がトップを占めている。きわめつけは、彼の師匠を記念したコンクール the Boris Goldstein competition。そこでは 6人の入賞者のうち、5人が彼の生徒だった。

最近のヴァン・クライバーン国際コンクールでは、 9人のコンテスタントが 4人の審査員の生徒であった。

The Bonn Telekom Beethoven piano competition では審査委員長の生徒が優勝。同じような例は、ブダペストの Bartok Competition、先週行われた Carl Flesch などでも。

ある若いピアニストは、ダブリンの審査員の顔ぶれを見て応募しないことを決めたと言っていた。あまりに多くの審査員が自分の持ち馬(生徒)を持っていたからだ。で、セミファイナリスト 12人中 7人、ファイナリスト 4人中 2人が審査員の生徒という結果。


いくつかの抗議もある。指揮者 Fabio Luisi は今年の Paganini Competition を辞退している。彼の審査員に教授たちが加えられたからという理由で。

それでも潮目は変わりつつある。

ショパンコンクールでは審査委員を過去の勝者に限るという "the gold standard" を決めた。前回のコンクールでは、アルゲリッチとユンディ・リという全く傾向の異なる二人が同じピアニスト チョ・ソンジンを選んでいる。

チャイコフスキーコンクールも、かつては政治家などの干渉でひどい状態だったが、ヴァレリー・ゲルギエフが審査員の採点を公開するという決断により改善している。

(私のコメント)これについては若干の疑問符がつく。そのゲルギエフが前回2015年のコンクールの結果をひっくり返したというギワク(↓)があるから…。

《2015年のチャイコン優勝者はロシア人じゃなかった!ギワク?》


そして次はリーズ国際ピアノコンクールである。1963年にピアノ教師によって創設されたが、その年はその教師の生徒が 1位になっている。

リーズでは 2015年のコンクールのあと、ポール・ルイスが新しい芸術監督に就任し、2016年に「新ヴィジョン」が発表され(↓)、先生が審査員になることが禁止された。

《リーズ国際ピアノコンクール、復活なるか?ー新ヴィジョン発表!》

これで、コンテスタントたちは "fair play" が約束された地、Leeds へ向かうことができることになった。音楽の将来のためにも、成功を祈りたい。


…と、なかなか辛口の記事であるが、これが本当であれば(たぶん本当だろう…)ピアノ界も、若きピアニストたちにとっては大変な世界である。

9月のリーズ国際ピアノコンクールの行方については、こういう視点からも注目したいと思う。もちろん「お気に入り」ピアニストが見つかることにも期待したい…(^^)♪


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