2015年11月26日木曜日

シューベルトのピアノの弾き方

シューベルトの弾き方の参考にしようと思って、いろいろと参考資料を探していたら、ちょっと面白い論文を見つけた。
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「シューベルトのピアノとピアノ演奏」(村田千尋)
※追記@2023/02/08:リンク切れ


東京音楽大学研究紀要の2006年12月版に掲載された論文で、著者は村田千尋氏。あとで調べたら、村田氏は東京音楽大学の教授で、『シューベルト (作曲家・人と作品)』という本の著者でもあった。(前に読んだかもしれない…)専門は「シューベルト、ライヒャルトを中心とした18・19世紀のドイツリート」とのこと。


内容としては、シューベルトが使ったピアノのことや、シューベルトがどんな演奏をしていたかについて書かれている。興味ある部分だけ、少しメモ書き程度に書き出してみたい。


シューベルトはピアノの達人というわけではなかったようだが、まわりの友人などからは「清潔な演奏 reines Spiel」という評価を受けていた。この論文によると、「清潔な演奏」の内容は二つのことが含まれるようである。

一つには、厳格なテンポを守るということ。それに関しては、周囲の友人や音楽家たちの言葉がいくつか残っている。例えば、後援者の一人であるゾンライトナーによると…。

「何にもまして彼はいつも、彼がはっきりリタルダンド、モレンド、アッチェレランドなどと譜面に指示している少数の場合を除き、きわめて厳格な同一のテンポを守っていました。」

「シューベ ルトは、…比較的自由な演奏を望むか許すかする場合には、必ず厳密に指示を記入している。…そうは言っても、シューベルトが彼のリートをただ機械的に歌ってもらいたがっていた、などと主張するつもりは全くない。」


つまり、楽譜に明示的に指示が書かれていない限り、イン・テンポが原則ということになる。


「清潔な演奏」のもう一つの内容は、音そのものの清潔さ、つまり激しい濁った音を出さないということ。これについても、例えば学友であったシュタードラーの次のような言葉が残っている。

「彼のピアノ作品を彼自身が弾くのを聞いたり見たりするのは、真の楽しみでした。美しいタッチで静かな手付きで、精神と感受性にあふれた透明な快い演奏をするのでした。」


また、シューベルトが用いたであろうウィーン式のピアノに関する当時の奏法に関する文献も、シューベルトの奏でた「透明な快い」音色を裏付けていると思われる。

「ウィーン式アクションの楽器はその特性に合わせて扱わなければならず、腕全体の重みで鍵盤を激しく突いたり叩いたりすることも鈍いタッチも許されない。」(フンメル)

「つつく」「叩く/叩き付ける」「投げつける」といっ た言葉は、当時の理論書でしばしば誤った弾き方を表す言葉として用いられており、シューベルトが用いていたウィーン式ピアノにはふさわしくなかった、とのこと。個人的には、現代ピアノでも「叩く/叩き付ける」ような音は好きではないが…。


そしてもう一つ、シューベルトが理想としていた演奏を表す言葉として「人の声のように歌う」とか「朗読する」というものがある。

シューベルトが両親に宛てて書いた手紙の中に、次のようなくだりがある。

「ある人たちは、僕の腕の下で鍵盤がまるで人の声のように歌っていたと請け合ってくれました。これが本当なら、とても嬉しいことです。」


また、ヴァイオリニストのシュレッサーはシューベルトの家でピアノ演奏を聴いた感想として、次のように述べている。

「シュ ーベルトの場合明らかに、彼の内面世界の感情表現が…はるかに技術的研鑽を上 回っていたのである。しかし彼が思い切った思考の飛翔に運ばれて、…力強いハ短調幻想曲やイ短調ソナタを朗読する時、誰が技術的研鑽のことなど考えようとするだろうか!」

「朗読という言葉を用いたのは, 理由がないわけではない。 私にはずっと以前から知っていたこれらの曲が、演劇の科白のように、心情の吐露のように、心の音楽の最も深い奥底から汲み取って理想的な優美の衣装に身を包んだものと聞こえたのであった。」


「ピアノによる歌」から一歩進んで「ピアノによる朗読」という考え方が示されている。


以上をまとめると次のように言えるだろう。

シューベルトが理想とした演奏は、

内面世界の感情表現を、歌うように、あるいは朗読するように、あくまでも澄み切った清潔な音色で、テンポをきちんと守って弾く「透明な快い演奏」である。


…と書いてみたが、そういう演奏に一歩でも近くにはどうすればよいのか?それが問題である。ヒントとしては「美しいタッチで静かな手付きで」「(鍵盤を)叩かず」といったあたりであろうか。

とりあえずは、今練習中の D946-2 の譜読みを終えてから、上に書いたようなことを思い出しながら、できる範囲でトライしてみようと思う。



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