《鍵盤音楽史:現代》 11人目の作曲家は、アンリ・デュティユー(Henri Dutilleux, 仏, 1916-2013)。
定年後、ピアノの独習を開始した頃(2013年)に、ピアニストやピアノ曲を勉強しようとしていて、出会った作曲家の一人がデュティユーだった。
アンリ・デュティユーは、フランスのアンジェで、画家や音楽家を輩出した芸術家の家系に生まれる。16歳でパリ国立音楽院に入学し、アンリ・ビュッセールに作曲、フィリップ・ゴベールに指揮、等を学ぶ。1938年にカンタータ「王の指輪」でローマ大賞を受賞。
1942年、パリ・オペラ座の合唱指揮者に任命され、1945~1963年、フランス国立放送教会に勤務、音楽ディレクター等を務める。1961年から、エコールノルマル音楽院で教鞭を執り、1970年、パリ音楽院に客員教授として招かれた。
メシアン、ブーレーズと並んで現代フランス音楽を代表する作曲家である。また、ドビュッシー、ラヴェルらの跡を継ぐ、きわめてフランス的な作曲家とも言われることもある。
…のだが、本人は「前衛」とも「フランス音楽の伝統」とも一定の距離を置き、独自の音響世界を探究し続けた。微妙なその作風は「前衛の古典」と呼ばれることもあるようだ。
デュティユーは、パリ音楽院の同期生であったピアニスト、ジュヌヴィエーヴ・ジョワと1946年に結婚している。ピアノソナタは彼女のために作曲されたもの。
ちなみに、ジュヌヴィエーヴ・ジョワさんは日本でもよく知られたピアニストのようだ。
安川加壽子さんは、パリ音楽院の和声学で同級生だったそうで、1952年にはジュヌヴィエーヴ・ジョワさんとのデュオリサイタル(東京文化会館)を行っている。このときの「スカラムーシュ」(ミヨー)の日本初演は一大センセーションを巻き起こしたそうだ。
✏️国際的な視野に立って〜安川加壽子記念コンクール(青柳いづみこ)
✏️日本人とピアノデュオ(上)(PTNA)
デュティユーの代表作としては、交響曲第1番、交響曲第2番「ル・ドゥーブル」、管弦楽曲「メタボール」、チェロ協奏曲「遥かなる遠い国へ」、そしてピアノソナタなどが挙げられることが多い。
それほど多くの作品を残している訳ではないが、現代作曲家のなかでは演奏機会に恵まれる作品が最も多い作曲家の一人と言われている。
その理由は、「前衛の古典」と呼ばれる作風にもあると思われるが、もう一つは著名な演奏家たちのために書かれた作品が多いことがありそうだ。
チェロ協奏曲「はるかなる遠い世界...」(1967-1970)と、チェロ独奏曲「ザッハーの名による3つのストロフ」(1976/1982)はロストロポーヴィチのために、ヴァイオリン協奏曲「夢の樹」(1979-1985)はアイザック・スターンのために、ヴァイオリン協奏曲「同じひとつの和音による」(2001)はアンネ=ゾフィー・ムター、ソプラノと管弦楽のための「時 大時計」(2006-2009)はルネ・フレミングのために、それぞれ書かれている。
ピアノ作品はそれほど多くはない。規模の大きいものは、残念ながら「ピアノソナタ」だけである。しかし、小品の中にも様々な魅力を持ったものが多い。
「波のまにまに」の 6曲は、デュティユーが音楽ディレクターを担当していたラジオ番組のために書かれたもののようだ。そのためか、メロディアスで聴きやすい曲が多い。
同じ時期の「田園詩(Bergerie)」もいい感じの曲だ ♪
それに比べると、「響き」や「3つの前奏曲」はちょっと前衛的というか「現代音楽」の香りがする。「ブラックバード」はメシアンの「鳥」を思い出させる…(^^)♪
その中で、ピアノソナタは聴き応えもあり、ちょうどいい感じの「現代音楽」感があり、「前衛の古典」という言い方も何となくあっているような気もしてくる ♪
ピアノ作品を年代順に並べてみた。PTNAピアノ曲事典とWikipedia(英文) をベースにしている。ピアノソナタ以外は小品、あるいはその組み合わせである。
- 波のまにまに(Au gre des ondes):1946
- 子守歌の前奏曲
- クラケット
- 即興
- 常動曲
- バッハへのオマージュ
- エチュード
- 田園詩(Bergerie):1947
- 全ての道は、ローマに通ず:1947
- ピアノソナタ:1948
- ブラックバード:1950
- 響き:1965
- 響の形:1970(2Pf)
- 3つの前奏曲:1973-1988
- 影と沈黙から:1973
- 同じ1つの和音により:1977
- 対比の遊び:1988
- 眠りを誘うそよ風(Petit air à dormir debout):1981
- 扇状の小前奏曲:?
デュティユーの「ピアノ作品集」(CD)としては、アンヌ・ケフェレックさんのもの(↓)がおすすめだと思う。リリースは 1996年となっているが、録音は1993年かな?
若い頃(といっても 40代…)のケフェレックさんはこんな感じだったんだ…(^^;)。
ピアノ:アンヌ・ケフェレック(Anne Queffélec)
収録曲は下記。
- ピアノソナタ
- 3つの前奏曲
- 全ての道は、ローマに通ず(Tous les chemins)
- 田園詩(Bergerie)
- ブラックバード
- 響き(Resonances)
- 響きの形(Figures de resonances)2Pf
- 波のまにまに(Au gre des ondes)
「響きの形」(2Pf)はクリスチャン・イヴァルディ(Christian Ivaldi)とのデュオ。
YouTube では、複数のピアニストの音源を聴いたが、上の CD のケフェレックさんの演奏が一番私の好みに合っていたので、そのプレイリスト(↓)だけ挙げておく。
おまけ。アンリ・デュティユーの父方の曽祖父は画家のコンスタン・デュティユー(Constant Dutilleux、1807-1865)。ドラクロワやコローとも親交があった人のようだ。
デュティユーは1999年、この曽祖父の作品(↓)および彼によるドラクロワのコレクションや手紙類を、ルーヴル美術館およびフランス国立図書館に寄付している。
また、母方の祖父もジュリアン・コズルという作曲家で、ストラスブール音楽院の教授を務め、フォーレと親交があり、またアルベール・ルーセルの教師でもあった。
フォンテーヌブローのブナ林 |
主な参考記事は下記。
✏️アンリ・デュティユー(Wikipedia)
✏️Henri Dutilleux(Wikipedia/ 英文)
✏️アンリ・デュティユー(高松宮殿下記念世界文化賞 1994年受賞)
✏️デュティユー 1916-2013(PTNAピアノ曲事典)
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