2018年8月25日土曜日

ドビュッシーはワインを美味にするか?

タイトルに惹かれて『ドビュッシーはワインを美味にするか?』という本を図書館で借りた。ドビュッシーの「レントより遅く」を練習していた時期でもあったので…。



『ドビュッシーはワインを美味にするか?』
ジョン・パウエル著(早川書房 2017/11/15)


よく見ると、副題に「音楽の心理学」とある。著者のジョン・パウエルは「ノッティンガム大学とルレオ大学(スウェーデン)で物理学を、シェフィールド大学で音楽音響学を教える」という学者さん。でも、ギターとジョークとビールが好きなオジサンのようだ。

『響きの科学―名曲の秘密から絶対音感まで』という本も書いている人だ。


で、「ドビュッシーを聴きながらワインを飲むと一層ワインが美味しくなる」とか「赤ワインには〈ラ・ヴァルス〉がいい…」とかいった内容を期待していた私としては、ちょっとはぐらかされた気分でもあったのだが…勝手に誤解したのはコチラだし…(^^;)。

…などと思いながら読んだのだが、音楽と科学とか脳との組み合わせが好きな私としては、読み終わってみればとても満足した本であった。

「音楽と人間の感情」「薬としての音楽」「あなたには音楽の才能があるか?」「メロディって何?」等々、話題が多岐にわたっていて、とても全部はご紹介できない…。

…ので、一番面白いと思った「音楽と感情」についてメモ的に書いてみようと思う。


まず、「音楽が感情を生み出す7つの心理的メカニズム(脳の仕組み)」。なぜ音楽で感情が生まれるか?を解き明かそうとしている。

一つ目は「脳幹反射」という、自然界の危険な音などに対する人間の脳のきわめて基礎的な反応がある。同じような反応は、音楽を聴いているときにも起きる。例えば「ジャズのスタンダード曲の中の予期せぬサクソフォーンの物悲しい叫び」など…。

次に「リズム同調」。これは音楽の拍子に合わせて心拍数が上下すること。脳は、その心拍数に見合う感情を実際に経験していると勘違いをする。テンポの速いダンス音楽を聴くと興奮して元気になる…など。

これは呼吸数に対しても起きることがあるが、その場合フレーズなど少し「息の長い」ものに対する反応となるようだ。

そして「評価的条件付け」。例えば、好きな番組でいつも流れる音楽を、他の場面で聴いたときにも幸せな気持ちになるなど…。「パブロフの犬」と同じ?

情動感染」というのはちょっと分かりにくいのだが、この本によると「音楽がどんな感情を表現しているのかを人が突き止め、その感情を自分の中に自ら受け容れようとすること」らしい…(^^;)?「一種の共感」とも書いてある。

それから、人は音楽を聴くときに風景などの「視覚イメージ」を思い描こうとするらしく、そのイメージに関連する感情が音楽と結びつけられてより深い感情となるようだ…。

ある音楽は、その曲にまつわる特定の記憶と感情を喚起することがある。「二人の思い出の曲」など…。これは「エピソード記憶」と呼ばれるもの。

最後の「音楽的期待」というのは、ある程度音楽を聴き込んでいる人にみられるもの。

経験豊かな聴き手は、音楽を聴きながら無意識のうちに「次の一手」を予測している。その「次はこう来るだろう…」という予測が当たると満足感、外れるとちょっとした驚きや興奮を感じたりする…。


こうしてみると、反射や同調のような生理的なものから、それまでの音楽的経験によるものまで幅広い要素が関わっていることが分かる。

では、こういうメカニズムを前提として、「音楽家はどうやって聴き手の感情ボタンを押す」のか? それについても、後の方の別の章に書いてある。

ただ、楽器をやったことのある人にとっては、それほど目新しいものは出てこない。

登場するのは、フレージング、強勢、ルバート、わざとタイミングをずらす、音量と音色、レガートとスタッカート、など。


その中でいくつか面白いと思った箇所を抜き書きしておく(太字は私がつけたもの)。

表現豊かな演奏の核となるのはニュアンスだ。ニュアンスとは、ときにはほとんど感知できないほどかすかに響きの要素を操作すること。アタック(音の立ち上がり)、タイミング、ピッチ、音量、音色が、音楽の響きを…活き活きと人間らしいものに変えてくれる


ラフマニノフによるロマンティックな前奏曲は、過剰なほどのフレージングにも耐えることができる。ところが、バッハの楽曲でフレーズをあまりに強調しすぎると、嘘っぽさとアマチュア感が丸出しになってしまう


…譜面はいわばスピーチ原稿のようなもので、音楽家には優れた演説者や俳優に似た技術が求められる


ところで、本のタイトルにあった「ワイン」の話であるが、実は少しだけ登場している。

ワイン売り場にドイツワインとフランスワインを同じように並べて、売り場に流す音楽を変える実験をやった。

ドイツの音楽を流すとドイツワインはフランスワインの2倍売れた。フランスの音楽を流すとフランスワインはドイツワインの5倍!売れた。フランス音楽の方が効果が高い理由は書いてない…。

他にも、音楽によってワインの味の感じ方にも影響が出る、という実験の話もあるのだが、長くなるのでこの辺にしておく…(^^)…。



  にほんブログ村 クラシックブログ ピアノへ 

0 件のコメント: