ところが、ネット上に参考になりそうな情報がほとんどない。仕方がないので、図書館からベートーヴェンのピアノソナタに関する本を2冊借りてきた。
(諸井 誠)
(横原 千史)
ただ、あまり有名でないソナタの、それも一つの楽章なので、情報量はそれほど多くない。諸井さんの本で1ページ半くらい、横原さんの本では11行しかなかった。それでも、いくつか参考になることはあった。
それと、YouTube にアンドラーシュ・シフのレクチャー動画(↓)があったのでこれも参考にした。第2楽章については全体で21分ほどのうち6分半ほど、演奏しながら解説(英語)をしている。
③ ♪ Beethoven Piano Sonata No. 3 in C major, Op. 2, No. 3
※追記@2023/09/13:再生できません…
形式と構成
形式については、①では「変則ロンド=ソナタ形式」、②では「二部形式、展開部のないソナタ形式」とある。シフ(③)はいくつかの変奏を含む「ABABA」と解説している。
言い方は違うが基本的には同じことを言っているようだ。主題は2つで、下記の A で始まる部分が第1主題(ロンド形式の「ルフラン」)、B に代表される部分が第2主題(ロンド形式の「対句(クープレ)」あるいは「第1エピソード」)である。
構成:ブロック分け
形式の名称はさておき「ABABA」として考えるとしても、練習する単位としては B の方が長すぎるので、音形の違いを元に細分化することにした。下記の数字は小節番号。→のあとは音形の特徴。
[提示部]
A: 1-10
B: 11-42
b: 11-18→高音部下行音形
c: 19-25→高音部ため息音形
d: 26-36→ベース ff
c': 37-42→高音部ため息音形
[再現部]
A: 43-54→A+ハ長調ゼクエンツ
B: 55-66
b': 55-58→bの前半部、高音部なし
c'': 59-66→高音部ため息音形 una corda
A: 67-76→オクターブ上&変奏
coda: 77-82→Aの回想
2つの主題に関する解説をなんとなくまとめてみると…。
A は「ゆったりとしたポエジーを感じさせる美しい歌」(②)、「短いクエスチョンの繰り返し(主和音→属和音)」(③)。そして、A の最後で主和音に解決するかに見せて、いきなり B のホ短調に移行する。
B は「右手のアルペジオ音形+左手のゆったりとしたバスと高音部の対話」(②)。高音部は下行音形(b)または「ため息音形(③)」(c)。
B 部分についてシフが面白いことを言っている。バッハの平均律、Book 1 の第1番、ハ長調のプレリュード等と似ているという指摘。オルガンによるプレリュードのようだと言うのだ。それと、フォルティッシモのベース音が続く部分(d)はシューベルトの「未完成」交響曲に類似のフレーズがあると指摘している。
その他、解釈の参考
全体に対する解説としていくつか参考になりそうなものを列挙してみる。
展開部(ロンド形式においては第2エピソード)が欠如するなど構造的に不安定感がある。(初期作品の特徴?)
Bの再現(ハ長調)直前に ff のゼクエンツ(ハ長調)が2小節挿入されるなど、調性的にも安定しておらず、変奏的あるいは即興的な展開の傾向がある。
最後の A 部分(67-76小節)は、オクターブ上で和声的に薄く、そのあと変奏が続き、明らかに終結的再現のニュアンスを持っている。
主調のハ長調に対し3度調のホ長調は珍しいが、これは、中期以降のソナタ形式で属調の代わりに3度調を使う響きの対比の感覚が先取りされている。
即興で聴衆を沸かせたヴィルトゥオーゾ・ピアニスト、ベートーヴェンの一面を見るような曲。幻想的かつ抒情的な、自由で陶酔型の浪漫性の種を宿している。
おまけ:「ターンのソナタ」
第3番のピアノソナタは「重音トリルのソナタ」とか「ターンのソナタ」と呼ばれることもあるそうだ。前者は言うまでもなく第1楽章の主題から来ている。後者は、各楽章の主題に「ターン」の音形が含まれるからだ。
第1楽章の「ホニホヘ」、第2楽章の「♯ト♯ヘ♯トイ」、第3楽章(スケルツォ)の「ト♯ヘトイ」、第4楽章(フィナーレ)の「ハロハニ」がターン音形である。
そのせいかどうか分からないが、第1楽章の冒頭と第2楽章の冒頭がなんとなく似ているような気がしていた。ともに「クエスチョン」的音形でもあるし…。
…ということで、何となく曲全体が把握できそうな気がしてきた。いつも引っかかる場所がどのブロックにあるのかも分かりやすくなったと思う。
あとは演奏に反映するだけ…(^^;)?
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