ゲルハルト・マンテル (著), 久保田 慶一 (翻訳)
音楽之友社 (2011/11/12)
10.しくみを知って演奏しよう
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音楽を理解するということは、意識的にせよ無意識的にせよ、しくみを理解することです。しくみを構成する各部分はある種の論理性あるいは必然性によってしっかりと互いに結びつけられており、聴者はこれらを独自の方法で関連づけるのです。しくみは、連続、類似、変化、対比、発展、変奏など、さまざまな形となって現れます。
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演奏者であるならば、うまくできた要因をまず言葉で説明するなり、少なくとも記憶にとどめておくべきです。…モーツァルト…「聴衆を泣かせても、僕は泣いたりしません。」
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多くの演奏家が成長できないのは、自分の演奏をいつも感情的に聴いて感情に影響されているからです。…演奏はとにかく冷静に客観的に観察されなくてはなりません。
…
演奏というのは音楽のしくみを聴こえるようにすることです。作曲家はどうしてこのように書いたのかを示すことです。従って説得力のある演奏というのは、いつもふたつの要素で成り立っています。ひとつめは作曲家の書いた通りに演奏するだけ…、さらには…自分なりに解釈すること…。
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フレーズは簡単に言うと、次の4つの部分からできています。
・開始 ・展開 ・頂点 ・終止
…またフレーズの強弱は基本的に曲線を描きます。…上昇はゆるやかですが下降は急になります。従って曲線の頂点はフレーズの中央より時間的には後にきます。
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コンマ=ちょっとだけ止まる程度のわずかな区切り
ピリオド=強弱の変化が伴う、はっきりとした区切り
セミコロン=暫定的な終止で、このあとに前の楽想が再び展開される
コロン=はっきりとした締めくくり
感嘆符=たとえば、音が中断されて休符がくる場合
疑問符=聴者に続きを想像させるためのもので、強弱やテンポを少し変化させる
11.特徴をつけて演奏しよう
121 音楽の曲線
音楽は曲線のように流れます。しかし私たちが今使っている楽譜はこの曲線をあまり考慮していません。
122 細部の強調
聴者が期待することだけを考えて、個々の音や音型を強調しすぎてしまいますと、もちろん陳腐の誹りも免れません。
123 強弱による枠づけ
ある一定の範囲でクレッシェンドしてディミヌエンドすることで、その部分をひとまとまりにすることです。
一般的にここでの強弱は放物線のように変化します。(※真ん中を過ぎたところに頂点)
124 ルバートとアゴーギクによる枠づけ
強弱による枠づけでは非対称の放物線が理想でした。しかし緩急による枠づけでは多少様子が異なり、緩急の変化は多くの場合、対称形になるのです。
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たしかに音楽はある音を目的にして進行するのですが、聴者も目的となる音をはっきりと予感しているので、それをあえて強調するのは、多くの場合でいささか平凡の誹りも免れません。
…目的音を遅らせたり、小さくしたり、ゆっくりとさせたり、…
127 アーティキュレーションとフレージングの関係
すぐれた朗読家は言葉のアーティキュレーションをコミュニケーションの手段としています。また言葉のアーティキュレーションは独自のフィードバックをします。明瞭に発音された言葉は、語られた内容そのものにも影響を与えるのです。
…発話の質の高さが、語られた内容の質を知らないうちに高めているのです。
音楽でも同じことが言えます。音楽を明確にアーティキュレートすること、演奏が明晰であること、音の明瞭な立ち上がりが演奏の質を高め、そのことがまた音楽の流れによい影響を与えるのです。
129 突然の変化
…ピアノでも鋭いアクセントをつけるには、音楽や筋肉を突然に変化させなくてはならないのです。
アクセントをつけたらその後は、筋肉の緊張をできるだけ速やかに解かなくてはなりません。
12.変化をつけて演奏しよう
音楽は、音の絶えず変化する印象の連続です。音楽の重要なパラメーターが変化しないと、すぐさま慣れの状態が生じます。
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いつも一定のテンポで練習していますと、テクニック的にもあまりいい影響を与えません。…
変化をつけて練習しますと型はできませんが、脳内の指示系統はよくなります。最近の研究によれば、変化をつけて練習する方が、何もしない練習(※同じ繰り返し)よりも効果があるそうです。
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