2017年3月15日水曜日

ベートーヴェンのメトロノーム記号

先週の記事《ベートーヴェン:ソナタ13番、指使いが定まらない…》で書いた、「♩.=108=112」と2つの数字が並んでいるメトロノーム記号であるが、ネットで調べた範囲では見つからなかった。

結論としては、「♩.=108 or 112」か「♩.=108〜112」と理解するしかないと思った。


Vintage Seth Thomas Clocks Metronome de Maelzel


…が、あとで説明するが、この数字もかなり怪しい気もしている。一説によると、ベートーヴェンの時代のメトロノーム、つまりメルツェルさんが発明したばかりの機械はあまり正確ではなかったようなのだ。

さらに、この数字はベートーヴェンが書き入れたものではない…。

ちなみに上の写真は、いろいろ調べているうちに見つけたもので、「メルツェルのメトロノーム」として $50 で売られていたもの。


ベートーヴェンとメトロノーム

ベートーヴェンとメトロノームの話は有名なのであちこちで紹介されているが、簡単にまとめると…。

メルツェル(J.N. Mälzel)がメトロノームを発明したのはベートーヴェン(1770-1827)が46歳ころの1816年。ピアノソナタでいうと28番を書いた年にあたる。

メルツェルは新しい発明品をしきりに売り込み、ベートーヴェンも興味を持った。その結果、それまでに完成していた8つの交響曲の出版楽譜にメトロノーム記号が書き込まれることになる。


しかし、その後、ベートーヴェンは機械的な速度表記に疑問を持つような発言もしており、ほとんど使用していない。

例えばピアノソナタで言えば、ベートーヴェン自身がメトロノームを書き込んだのは、1819年に作曲した29番「ハンマークラヴィーア」だけである。

しかも、この時代のメトロノームはあまり正確なものではなかったようで、記載されたテンポはほとんど「不適切」と考えられている。


ピアノソナタ第13番 第1楽章のテンポ

IMSLPで見ることができる楽譜のテンポを見てみるとこんな感じ(↓)だ。「編集者:冒頭 Andante のテンポ、Allegro 部分のテンポ」を示した。

  • Alfredo Casella : ♩=80、♩.=108=112
  • Sigmund Lebert : ♩=84、♩.=84
  • Frederic Lamand : ♩=72、♩.=100


次に、Allegro 部分をいろんなピアニストが実際にどんなテンポで弾いているか調べてみた。結果は下記の通り(速い順)。

ピアニスト名の後ろの数字は「Allegroの開始時刻 -かかった秒数 /ソナタ全体の演奏時間」。かかった秒数はAllegroパートの最後の小節(34小節目)はフェルマータなので除いてある。

  • ♩.=104 ポリーニ 2:47- 38s /15:16
  • ♩.=104 アンナ・ヴィニツカヤ 3:04- 38s /15:23
  • ♩.=97 バレンボイム 3:12- 41s /16:47
  • ♩.=94 ブレンデル 2:31- 42s /15:20
  • ♩.=92 ケンプ 2:36- 43s /15:57 
  • ♩.=92 クラウディオ・アラウ 3:29- 43s /17:20
  • ♩.=88 グールド 4:19- 45s /22:00


これを見ると、私がたまたま使った楽譜の「♩.=108=112」はとんでもなく速いテンポということになる。

グールドは、Andante 部分も含めてかなりゆっくりで独特な解釈(勝手に?装飾音符を追加したり…)の演奏なので、私ごときには参考にならないが、ゆっくり弾くことだけは真似してもいいかな?と思っている…。

ちなみに、私の場合、上記 IMSLP の一番遅い「♩.=84」でもまだ速すぎて無理。たぶん「自分が弾ける一番速いテンポ」("Allegro possibile" ?)に落ち着く可能性が高い…(^^;)。


おまけ:最近のメトロノーム

メトロノームについていろいろ調べていると、最近のものは思わぬ機能がついていたりしてびっくりした。

例えば、セイコーのEPM5100 という機種には、リモコンが付いているし、出力端子付きなのでイヤホンで聞いたり、スピーカーなどに繋いで大きな音を出すこともできる。

さらに、いろんなリズム(↓)が出せるようだ…。私の苦手な付点音符なども刻んでくれる(^^)♪






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