JASRAC問題をきっかけに音楽の著作権の記事を2つほど書いた。
2つ目の記事で、「楽譜は1曲単位でネットからダウンロードして、iPad などで見るのが当たり前になってほしい」と書いたが、そろそろ「デジタル楽譜」が普及し始めるのではないかと期待している。
楽譜の電子化については、かなり以前からときどき話題にあがり、アプリやいくつかの製品も出ているが、今ひとつ主流にはなっていない。
例えばアプリでは、piaScore というのが割と有名(200万ダウンロードらしい)。iPad などにつないで練習できる The ONE Smart Piano という電子ピアノ(ピアニストのラン・ランも関わった)などもある(↓)。
でも欲しいのは、楽器屋さんで楽譜を買うように、ネットで簡単に探せて、中身を見ることができて、必要な楽曲だけを買うことができて、ダウンロードした楽譜は、どのデバイス(iPad、Androidタブレット、PC など)で見ることができる ♪というサービスだ。
で、今年が「デジタル楽譜元年」になるか?などと言ってみたのには理由がある。
一つは、有名な楽譜出版社であるヘンレ社の電子化への取り組み。もう一つは、今年発売予定の楽譜専用デバイス "GVIDO" である。
ヘンレ社の楽譜アプリ "Henle Library"
ヘンレ社が、自社の楽譜の電子化に取り組むこと、そのためのアプリ "Henle Library" を出すことを発表したのは、去年2016年の初め。最初の iPad 用アプリが出たのが2月である。
日本についても、今年1月17日のヘンレ社 Facebook には、
G.ヘンレ出版社から、「ヘンレ・ライブラリー」というタブレット用の楽譜アプリが新しく登場しました。クラシック音楽の演奏家、音大生、そして先生方にとって魅力的なツールがたくさん搭載されています。
という発表があって、日本人ピアニストが紹介している動画もあったりする。
去年10月3日のヘンレ社のブログ記事(↓)によると、
楽譜購入サイトも日本語化されたようだが、おそらくアプリからしか見れないのだろう。我が家の iPad(初代!)がついに動かなくなったので、残念ながら見ることができない…(^^;)。
ブログ記事によると、今は100以上のエディション?("over 100 editions")が利用できる状態で、2018年中にはすべてのヘンレ社の楽譜を電子化する予定ということだ。また、今年新たに出版される(紙の)楽譜については、同時にデジタル版も提供されるらしい。
機能的には、譜めくりとかメモの記入とか、紙の楽譜と同じようなことができるのはもちろんだが、デジタルならではの機能(メトロノーム、録音、スコアとパート譜の切り替え等)も色々ある。
面白いのは、プロの演奏家の指使いとか弦楽器のボウイングを表示できる点だ。現代のピアニストとかだけでなく、例えば、ワンダ・ランドフスカの指使い(そんなデータが残っていたんだ ♪)なども…。
ただ、どの楽譜(曲)がデジタル化されていて、どんな指使いが用意されているのかは、69ページもあるPDF("Henle Library: The Catalogue")を見るしかなさそうだ。(アプリからはちゃんと見えるのだろうが…)
例えばゴルトベルク変奏曲は Theopold(セオポールド)という人の運指付きというのが分かる。
Goldberg Variations BWV 988
Ed.: Steglich · Fing.: Theopold
HN 159 With fingering
HN 1159 Without fingering
ただ、このカタログは紙の楽譜すべてが載っていて(それはそれで便利かもしれないが)、その中でデジタル化されたものが緑色に塗られているだけなので、かなり見づらいものになっている。
楽譜専用デバイス "GVIDO"
昨年6月にテラダ・ミュージック・スコア株式会社から発表された「2画面電子ペーパー楽譜専用端末」が "GVIDO" である。スタイラスペン付きで書き込みもできる。
五線譜を考案したとされる Guido d’Arezzo(グイード・ダレッツォ)にちなんだ名前らしいので「グイード」と読むのだろう。
4月に正式発表、今年の中頃に発売の予定だそうだ。
値段は「13.3インチのE-INK画面が2枚なので」「iPad Pro 12.9インチ 2台より少し高め」と書いてある。iPad Pro が税別で、82,800円(32GB)〜116,800円(256GB)なので、まぁ20万円くらい?
「GVIDO クラウドサービス」というものも準備中で、ここに電子楽譜ストアがオープンする予定。楽譜データはPDFなので、手持ちのPDFや他から入手した楽譜も使える。
オプションとして「GVIDO フットペダル」というのもある。もちろん、画面上タッチでも譜めくりは可能。
…と書いてはみたが、電子書籍と同じで、「今年こそ元年!」というのが毎年繰り返されるようなことになる可能性も大きい。
理由は、ヘンレ社がいかにメジャーな楽譜屋さんとはいっても、やはり1社だけでは無理だろうということ。"GVIDO" にしても「専用機」であり、かつ高価なことが普及の妨げになる可能性は大きい。
なので、本当の意味で「デジタル楽譜元年」が来るためには、メジャーな出版社のほとんどがデジタル楽譜を同じフォーマットで販売し、それを(各出版社などの個別サイトではなく)例えば Amazon のようなところが販売し、使えるデバイスも制限しないこと、が必要になるだろう。
まぁ、"Henle Library" にしても "GVIDO" にしても、当面は限られた範囲での利用ということになりそうだが、大きな一歩であることは確かだ ♪
※追記@2023/07/06
この記事を新しいブログに移転するためにチェックしていたら、GVIDO は 2021年10月で販売終了になっていた…(^^;)。残念ながら心配したことが当たってしまったようだ。
それでも、プロのピアニストで電子楽譜を使っている人は確実に増えているようなので、今後には期待できるのではないだろうか。
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