その中に面白いものを見つけた。「シューマンによる目的別練習曲一覧表」というものである。
当時、多くの練習曲が出版されており、現在でも使われているものもかなりあるようだ。クレメンティ、モシェレス、クラマー、ツェルニーなど。
ちなみにハノンは、同時代の人(シューマンより9歳若い)であるが、「60の練習曲によるヴィルトゥオーゾ・ピアニスト」(というのが正式名称らしい)を書いたのが1873年なので、シューマンはこの教本は見ていない。
この「一覧表」で、シューマンは、身につけるべきピアノ技術を30種類(↓)に分類し、それぞれにふさわしい練習曲をあげているのだ。不思議なことにツェルニーはほとんど入っていない。
1. 指の迅速さと軽快さ(指の弛緩した運動、優しいタッチ)
2. 指の迅速さと力強さ(急速なテンポにおける重いタッチ、個々の音符のより旋律的な演奏)
3. 指を保持したままの演奏(単声と多声)
4. スタッカート
5. 一方の手でレガート、もう一方の手でスタッカート
6. 一つの手で同時に旋律と伴奏
7. 他の指が打鍵している間、個々の指を保持しておく
8. 同じ鍵盤で指を静かに交代させる
9. 音をしっかりと掴むこと、急速な和音の交代
10. 指を広げること 右手
11. 指を広げること 左手
12. 指を広げること 両手
13. 跳躍
14. 指の絡み合いと両手の交差
15. 同じ指の急速な打鍵
16. オクターヴ進行
17. 同じ鍵盤上での指と手の交代
18. 前打音
19. 二重前打音
20. プラルトリラー
21. 後打音付きの短いトリル
22. 長いトリル 右手/左手
23. 一つの手で同時に他の声部の伴奏を伴うトリル
24. 6度のトリル、ケッテントリル
25. 3度連続 6度連続
26. 片手での3声および4声の練習
27. 付随音を伴う半音階
28. 難しいアクセント付けと拍の分割、リズム
29. 装飾音を伴うアダージョ
30. 左手だけの練習
ここで、全部はご紹介できないが、例えば上記リストの 7.〜9. 項目では次のようなものがあげられている。
この表を見た感想は「こんなにあるんだ〜!」、ピアノの練習ってホントに大変なんだ…ということ。
幸いにして?、私自身はこの手の練習曲は原則としてやらない(基本の練習も曲の中でやる…)ことにしているので、これでストレスを感じるようなことはないのだが…(^^;)。
それにしても、ロベルト君(シューマンのこと)も相当な練習曲オタクだったんだろうなぁ…。彼自身、練習しすぎて右手を痛めたというのもうなずける話だ。「練習しすぎて」の部分は、強化器具を発明して使いすぎたとか、諸説あるようだが…。
ちなみに、上記の本の著者、西原稔氏は次のようにほめている。
「シューマンはピアノ教育のメトードと体系的で合理的な教則本の必要性を実感していた」
「(この分類は)…合理的な指の訓練とともに、演奏技巧の分類としてもピアノ教育史上、重要な意味を持っている」
そして、音楽評論家でもあるシューマンは、それぞれの練習曲の作曲家に対する批評も書いているようだ。その中で、カルクブレンナー、ツェルニー(!)、エルツに対しては、
「楽器をよく知っている点は評価するが、素晴らしい作品は生まなかった」
と手厳しい。一方で、自分の作品を宣伝することも忘れていない。
「最も難しいものを望むならば、筆者(シューマンのこと)のパガニーニ練習曲がよいであろう」
と…(^^;)…。
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