前回《シューマンのピアノ作品:二つの時代》に続いて、シューマンのピアノ曲の勉強メモ。今回は「森の情景」(とくに第1・3・6曲)を中心に…。
今回も、基本的には『シューマン 全ピアノ作品の研究(下)』という本の内容を中心にしている。
「森の情景」初版譜の表紙画:上記の本より引用 |
「森の情景」の成り立ち
「森の情景」を理解するためには、1845年以降のシューマンの状況を知ることと同時に、当時のロマン主義やその中での「森の美学」(ドイツの深い森→ヘンゼルとグレーテル?)を知る必要がありそうだ。
上の図(初版譜の表紙)からも、その雰囲気を感じ取ることができるかもしれない。
『シューマン 全ピアノ作品の研究(下)』から、少し抜き出すと…。
「うっそうと繁る森林ほどロマン主義のイマジネーションをかきたてるものはなく…」
「…詩人のアイヒェンドルフの影響…。森のざわめきのなかに失われた故郷をうたったこの詩人の詩は、ドイツの音楽家たちに強い霊感を与え続け…」
「ロマン主義文学に深く共鳴していた」シューマンは、ほとんどの曲に詩文をつける構想も持っていたようだ。最終的には、第4曲にだけへーベルの詩からの引用が付された。
この作品は9曲の小品からなる。1848年末〜1849年初めの短い期間に作られたものだが、いくつかのまとまりに分けることができる。下記、曲番号の次に作曲日付を記した。
1:01/03 入り口:変ロ長調
2:12/24 待ち伏せるハンター:ニ短調
3:12/29 孤独な花:変ロ長調
4:12/30 呪われた場所:ニ短調
5:12/30 親しみやすい風景:変ロ長調
6:12/31 宿屋:変ホ長調
7:01/06 予言の鳥:ト短調
8:01/01 狩の歌:変ホ長調
9:01/01 別れ:変ロ長調
先行した第2曲を除くと、第3曲〜第6曲が一つのまとまりとして作られ、曲集の中での中心をなしている。これに付加する形で第8・9曲が作られ、そのあと全体の前奏曲的な第1曲が作られている。第7曲「予言の鳥」は少しあとの段階で追加されたものだ。
「森の情景」各曲の関連
シューマンはこの作品集をまとめるにあたって、全体的なまとまりを強く意識している。
まず「調性」を見ると(上の曲リスト)、変ロ長調を中心に関係調が配置されている。が、それ以上に、各曲の「動機」の関連性があちこちに見られる。
この曲集では、第3曲「孤独な花」が軸(実質的な第1曲)となっており、その1小節目にあるのが「基礎動機」(↓)となって、第1・4・5・6曲などに引用されている。
例えば、第1曲「入り口」の第3小節目にこの基礎動機が展開されている(↓)。曲の順序で言えば、第1曲のこの部分が第3曲の基礎動機を準備していると言えるかもしれない。
また、第2曲と第8曲はともにホルンの動機を用いて「狩」を表現し、第4曲と第7曲は不気味な印象だけでなく、付点リズムの動機やポリフォニックな書法でも共通性を持っている。
第1・3・6曲について
今回、練習曲として選んだ3曲は、たまたま選んだ(比較的難易度の低い)組み合わせであるが、結果的にはなかなかいい選曲になっている(と自分では思っている)。
「基本動機」を含む第3曲、それに関連性の強い第6曲(第7・9曲とも関連)、そして前奏曲的に全体を暗示しまとめる第1曲。それぞれについて簡単に見てみる。
第1曲「入り口」の冒頭8小節の主題は重要である。この主題動機のリズム形がこの曲の造形的な要素となって、作品の統一性を作り出している。
この曲には、第3・4・6曲の動機も登場しているだけでなく、リズム表現や分散和音的な表現など、「森の情景」の各曲で繰り返し登場する書法がちりばめられている。
第3曲「孤独な花」は、内容面でこの曲集の中心をなしている。冒頭の基礎動機とその逆反行形(上記譜例)が曲集全体の統一的な役割を担っている。
この10小節の主題は、1〜4小節の基礎動機による部分、5〜8小節の逆反行形を用いた部分、9〜10小節の二つを合わせた部分に分けられる。
とくに「ポリフォニックな声部の絡み合いの関係から生み出される非和声音が、心地よいデリケートで繊細な魅力」を作り上げている。
第6曲「宿屋」の冒頭の主題(↓)は、「シューマンのきわめて基本的な旋律定型」の一つである。この主題は第9曲にも変奏されて登場し、作品集のまとまりに貢献している。
なお、この曲の終わりの上行分散和音は、次の第7曲「予言の鳥」の冒頭につながる音形となっている。
「森の情景」を弾くにあたって
…と一通り勉強してみたが、この知識が、自分が弾くときにどのくらい役に立つのかはよく分からない。が、少なくとも頭では、よりシューマンの音楽に近いイメージを持てるのではないだろうか…。
個人的に、ロマン派の曲は苦手である。なかでも、シューマンはその中のベスト3に入る。なので、今回の選曲は自分にとってちょっとした「チャレンジ」である。(なので、本を読んだり、曲を聴いたり…)
今の段階(譜読み中)で、なんとなく思っていることは、リズム感が大事なこと、付点音符やスタカートなど「柔らかい弾力性」のようなものが必要なこと、歌うことが必須、声部間の関係も意識すること、などなど…。
スタカートと同時にちょっと苦労しそうなのがペダル。楽譜には細かく指定があるが、機械的な「楽譜通り」ではうまく行かない気がしている。
曲の造り・構成としても、小曲のわりには意外と?複雑な(凝った?)造りになっているので、指使いもけっこう悩んでいるところだ。
まぁ、まだ始めたばかりなのでこれからだ…。
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