バッハ最晩年の作品で、死の翌年 1751年に出版された。基本的には 14曲の様々な形式のフーガと 4曲のカノンからなる。楽器指定がなく、未完のフーガが 1曲含まれる。
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✏️バッハ :フーガの技法 BWV 1080(PTNAピアノ曲事典)
学術的には色んな「謎」があるようだ。作品の性格(音楽の理論書 or 演奏するための曲集?)、一声部一段の「オープンスコア」で書かれた理由、自筆譜と出版譜の違い、想定された楽器、フーガ 1曲が未完となった経緯、まとめて演奏すべきか(曲順は?)等々。
でも、このほとんどの「謎」に対しては実際の演奏・録音で、複数の多彩な「答え」が出されているような気がする。
ここでは、より良く「フーガの技法」を楽しむために、知っておいた方がいいかも…ということを自分なりにまとめたいと思う。
今回ネット記事をかなり沢山読んでみたが、まずはその感想(愚痴…(^^;)?)から。
賞賛の言葉とともに「難解」「抽象的、理念的」みたいな解説も散見される。また「演奏機会は多くない」などと書いている人もいる。これはやめた方がいいと思う。
バッハは、フーガの理論的体系化も念頭にあったとは思うが、作品としては実際に演奏されて鑑賞に耐えるだけのものを目指したはずだし、実際そうなっていると思う。
演奏機会については、現代ピアノによる演奏・録音だけとっても数え切れないほどの数があるし、名演奏と言っていいものもかなり多いのだ(後述)。
名演奏ということで言うと、「名盤」関連の記事で取り上げられるものが古いものに偏っていることも気になる。最近の演奏にも素晴らしいものがあるのにもったいない…。
作品の性格については「音楽の理論書 AND 演奏するための曲集」が正しいだろう。
音楽の理論書では、バッハは 1725年にフックスによって書かれた対位法教本「グラドゥス・アド・パルナッスム(パルナッソス山への階梯)」なども意識していたと思われる。
この「理論書」も 100曲ほどの練習曲を含んでいる。バッハの場合は、もっと本格的な曲として仕上げたかったのだと思われる。
「オープンスコア」で書かれた理由は、「鍵盤楽器でも弾けるが、合奏や合唱でもどうぞ」という受け取り方でいいと思う。フーガの作りを分かりやすく見せる…という意図もあったかも知れない。
ちなみに、現在ではピアノ用に 2段の「大譜表」で出版されているものも多い。
使用楽器についても自由に考えていいのだと思う。音楽の内容(音楽語法など)としては鍵盤楽器を想定して書かれたというのがほぼ定説になっているようだ。
多様な楽器・声を使ったものとしてオランダ・バッハ協会の演奏は面白い ♪ フーガのグループごとの切れ目にコラールを入れている。
個人的には、このカザルス弦楽四重奏団の演奏(↓)などは気に入っている。
まとめて演奏するかどうか、その場合の曲順は?…という問題も演奏者の考え方次第だと思う。その辺りの選択も含めて作品の「解釈」であり、それを具体的な音楽として「表現」した結果の「音(演奏)」がすべてだと思う。
「フーガの技法」名盤の定番の一つとなっているグレン・グールドは、オルガンでコントラプンクトゥス 1〜9、ピアノでコントラプンクトゥス 1, 2, 4, 9, 11, 13, 14 を弾いている。
♪ Bach Art of fugue gould:アルバム
何人かのピアニストの全曲演奏を聴いた範囲では、カノンの配列が少し違ったり、フーガのグループの間にカノンを入れたりしている例が見られた。リサイタルでは(時間の関係か?)カノンを省いた例(トリフォノフ)もあった。
演奏順を比較している人もいる(↓)。
✏️バッハ 「フーガの技法」 曲の配列について(1)(クラシック音楽徒然草)
「フーガの技法」で使われるテーマは、コントラプンクトゥス 1 の冒頭で聴こえてくるもの(↓)である。…が、実はそれぞれの曲で、あるいは曲の中でこのテーマ自体が様々に編曲されている。全部で 30種類以上になるようだ。
参考✏️「フーガの技法」の概要(フーガの技法 研究所)
フーガの種類としては下記のようなものがある。Cp.=コントラプンクトゥス。
- 単純フーガ:Cp.1〜5
- 反行ストレッタフーガ:Cp.6, 7
- 二重フーガ:Cp.9, 10
- 三重フーガ:Cp.8, 11
- 鏡像フーガ:Cp.12, 13
- カノン:BWV1080/14〜17
楽曲の構成(配列)の一例(📘ヘンレ社の楽譜)。
- Cp.1 :BWV1080/1:単純・基本
- Cp.2 :BWV1080/2:単純・基本
- Cp.3 :BWV1080/3:単純・転回
- Cp.4 :BWV1080/4:単純・転回
- Cp.5 :BWV1080/5:単純・基本+転回
- Cp.6 :BWV1080/6:反行ストレッタ(縮小)
- Cp.7 :BWV1080/7:反行ストレッタ(縮小・拡大)
- Cp.8 :BWV1080/8:三重フーガ 3声 ※Cp.11と組
- Cp.9 :BWV1080/9:二重フーガ(12度転回)
- Cp.10 :BWV1080/10:二重フーガ(10度転回)
- Cp.11 :BWV1080/11:三重フーガ 4声 ※Cp.8と組
- Cp.12.1 :BWV1080/12.1:鏡像フーガ 4声(正立)
- Cp.12.2 :BWV1080/12.2:鏡像フーガ 4声(倒立)
- Cp.13.2 :BWV1080/13.2:鏡像フーガ 3声(正立)
- Cp.13.1 :BWV1080/13.1:鏡像フーガ 3声(倒立)
- Cp.14 :BWV1080/19:3声(未完)
- 8度のカノン :BWV1080/15
- 10度のカノン :BWV1080/16
- 12度のカノン :BWV1080/17
- 反行形による拡大カノン :BWV1080/14
- 付録:Cp.13.2 の 2台 Clav.版 :BWV1080/18.2
- 付録:Cp.13.1 の 2台 Clav.版 :BWV1080/18.1
初版楽譜の最後には「コラールファンタジア〈我ら苦難の極みにあるとき〉」BWV668 の 4声フーガが掲載されているが、これを含むかどうかは、楽譜でも演奏(録音)でも扱いが異なっている。例えば、ヒューイットさんは最後に弾いている。
現代ピアノによる録音(演奏)を Bach Cantatas、Spotify、YouTube などで最近のものを中心にざっと拾い出してみた。知らないピアニストも多いが 30ほど見つかった。(演奏機会が少ないとはとても思えない…(^^;)…)
太字は有名なピアニストと私が思っている人。● マークを付けたのは、褒めている記事があったり、私が個人的に気になっている人など。西暦年は録音(or リリース?)年。
- Andrzej Ślązak 2024
- ●Marta Czech 2022
- Daniil Trifonov 2021
- Geoffrey Douglas Madge 2021
- ●Filippo Gorini 2020
- Craig Sheppard 2018
- Duo Stephanie and Saar 2017
- Christian Kälberer 2017
- Konstantin Lifschitz 2015
- ●Schaghajegh Nosrati 2015
- Roberto Giordano 2015
- Zhu Xiao-Mei 2014
- Ann-Helena Schlüter 2014
- Angela Hewitt 2013
- Célimène Daudet 2012
- Andrew Rangell 2011
- ●Alice Ader 2008
- Pierre-Laurent Aimard 2007
- Ivo Janssen 2007
- Diana Boyle 2007
- ●Ramin Bahrami 2006
- Piotr Słopecki 2005
- Hans Petermandl 2004
- Pi-hsien Chen 2003
- Grigory Sokolov 2002
- ●Joanna MacGregor 1995(リリース2011)
- ●Andrei Vieru 1994live
- Evgeni Koroliov 1990
- Glenn Gould 1962〜1981 オルガン/ピアノ
- Tatiana Nikolayeva 1967
聴き比べと言っても、30人全員聴くわけにも行かないので、気の向く範囲で…ということになると思う。聴いた結果を記事にできるのはいつになるか分からない…(^^;)。
追記@2024/06/10
今回は最近リリースされたばかり(録音は 2022年 9月)の、チェンバロによる新しい定番(名盤)になるかも知れないアルバムをご紹介しておきたい。
鈴木雅明さんによる待望の「フーガの技法」である。「鏡のフーガ」(Cp.13 とその 2台クラヴィーア版)は鈴木優人さんとの共演。BWV668a も含まれる。
✏️「フーガの技法」の概要(フーガの技法 研究所)
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