2023年8月26日土曜日

Gradus ad Parnassum「パルナッソス山への階梯」フックスからドビュッシーまで

「グラドゥス・アド・パルナッスム」というと、ピアノをやっている人にはドビュッシーの『子供の領分』の第1曲「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」が思い浮かぶと思う。

ところが、"Gradus ad Parnassum" という言葉には深い意味と歴史があって…ということをジャン・ロンドー(ハープシコード)の『Gradus ad Parnassum/ パルナッソス山への階梯』という CD を聴きながら勉強してしまった…(^^;)。

なので、自分自身の備忘のためにメモを書いておこうと思う。




まず、「グラドゥス・アド・パルナッスム(Gradus ad Parnassum)」は、パルナッソス山への階梯(階段)という意味のラテン語。

パルナッソス山は、ギリシア南部にある山(下の写真:Wikipedia からお借りした)で南の麓にデルフォイ神殿がある。ギリシア神話ではアポロン,ミューズの住処であり、芸術や学問の聖地とされている。

"Gradus ad Parnassum" というのはその聖地へ至る階段という意味で、芸術の教則本などのタイトルによく用いられた。




"Gradus ad Parnassum" という教本で有名なものの一つが、1725年にヨハン・ヨーゼフ・フックスによってラテン語で書かれた対位法教本。(冒頭の写真はその表紙)

対位法教本としては古典的存在であり、J.S.バッハの蔵書にもあり、ハイドン、クレメンティ、モーツァルト、ベートーヴェンなどもこれで勉強したと伝えられている。

フックス(Johann Joseph Fux、オーストリア、1660-1741)はバロック音楽の作曲家、オルガンおよびチェンバロ奏者。現在、その作品が演奏されることはほとんどないようだ。




IMSLP にその資料があるが、ラテン語なのでまったく分からない。先生と生徒の対話形式で説明されているのだが、とくに前半は図(楽譜)が少ないので、余計分からない…(^^;)。




そして、ソナチネで有名なムツィオ・クレメンティ(Muzio Clementi、イタリア、1752-1832)は、"Gradus ad Parnassum" というタイトルの練習曲集を書いている。

この「グラドゥス・アド・パルナッスム Op. 44」(1817年、1819年、1826年)は全 3巻 100曲からなっている。ピアノ特有の「練習曲」に加え、ソナタ楽章やスケルツォ、バッハ風のプレリュードとフーガ、題名付きの性格的小品など、彼自身の鍵盤音楽技法の集大成となっている。

「機械的な指の練習」の代表格として、ドビュッシーの「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」という曲で皮肉られたとされているが、元はそうでもない曲集だったようだ。


「指の練習曲」と言われるようになったのは、のちにピアニストのカール・タウジヒ(Carl Tausig、ポーランド、1841-1871)が、「技巧的(機械的?)な」29曲を選曲・校訂・再構成し、それが定番となってしまったことにある。

現在でもクレメンティの「グラドゥス・アド・パルナッスム」と言えばほとんどが「29曲版」である。全音(↓)の楽譜では「29曲」に加えて、「悲劇的場面」 変ロ短調(原曲番号 第39番)という曲が付録として載っているようだ。


ちなみに、カール・チェルニーも「新グラドゥス・アド・パルナッスム Op.822」という曲集を残しているようだが、少なくともネット上にはほとんど情報がない…。

全 4巻 46曲からなる曲集で、うち 26曲は「前奏曲とフーガ」になっている…らしい。


ところで、この記事(お勉強)のきっかけになった、ジャン・ロンドーの『Gradus ad Parnassum/ パルナッソス山への階梯』という CD であるが…。

フックスの先生であったパレストリーナから始まって、フックス、その教本を勉強したハイドン、クレメンティ、ベートーヴェンを経てドビュッシーの "Doctor Gradus ad Parnassum" に至り、そこから戻って(戻りにはモーツァルトも…)パレストリーナで終わる…という、ちょっと面白い構成になっている。

フックスの対位法教本を軸(通奏低音?)として、音楽の一つの流れを探索するようなプログラム…なのかな? ジャン・ロンドーのインタビューでの言葉が洒落ている ♪

"I liked the idea of them as musical angels hovering over later generations, giving them the confidence to explore a new musical language.


💿Gradus ad Parnassum




✏️Gradus ad Parnassum / パルナッソス山への階梯(ワーナーミュージック)


この CD から、ジャン・ロンドーがハープシコードで弾く、ドビュッシーの「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」をどうぞ。(個人的にちょっと気に入っている ♪)



おまけ。この CD をベースにしたプログラムと「ゴルトベルク」の 2つのプログラムを携えて、ジャン・ロンドーが 10月に来日することになっている。






【関連記事】


  にほんブログ村 クラシックブログ ピアノへ 

0 件のコメント: