一昨日の記事《▼ブラームス「間奏曲」Op.116-4 アナリーゼできない「葛藤」?》を書いているときに、「下降音型」と「下行音型」とどっちだっけ?…というのをネットで調べていたら「フィグーラ」なるものに遭遇した。
「音楽修辞学」というものがあるようで、とくにバロック時代には色んな意味や感情を表現するのに決まった「音型」を使うことが行われたようだ。
ちなみに、音楽修辞学では「下降音型」を "Catabasis"(カタバシス)よ呼び、「内向性、弱さ、下降、否定、死、絶望 etc. 」を表すことになっている。
グレゴリオ聖歌のネウマ譜(参考イメージ) |
遭遇したページは下記。
✏️修辞学(レトリック)と音楽(M.A.B. Soloists)
✏️音楽における代表的なフィグーラ(M.A.B. Soloists)
これによると、音楽におけるフィグーラ(figura:英語の figure)というのは、「音楽の表現する内容を聴き手に伝える ために用いる特別な音の使い方や音型のこと」とある。
代表的なものとして、次の 10個が挙げられている。(やや省略して引用)
- Anabasis(アナバシス):上昇音型:プラス
- Catabasis(カタバシス):下降音型:マイナス
- Cyclosis(キクロシス):同音持続:不動、平和、永遠
- Hypotyposis(ヒポティポシス):音型による絵画的表現
- Parrhesia(パルヘジア):不協和音
- Noema(ノエマ):対位法の中のホモフォニー部分:強調
- Passus duriusclulus(パッスス・デュリュースクルス)半音上行/下行:苦難、悲しみ
- Saltus duriusclulus(サルテュス・デュリュースクルス):不協和音程による3度以上の跳躍:苦難、悲しみ
- Suspiratio(ススピラツィオ):休止による旋律の分断:驚き、ため息、恐れ、とまどい等
- Suspensio(サスペンシオ):2度や7度でぶつかり合う音程:緊張に満ちた瞬間
具体的な例(楽譜)を見たくて探したのだが、見つからなかった…。
✏️音楽修辞フィグーラの概念による小学校歌唱共通教材の表現法(PDF、富山国際大学:堀江英一氏)
私にはちょっと難しすぎて、全部は読めないが…(^^;)…、音楽修辞学というのは、音型による表現方法だけではなく、もっと広い範囲を扱うものだということは分かった。
私にはちょっと難しすぎて、全部は読めないが…(^^;)…、音楽修辞学というのは、音型による表現方法だけではなく、もっと広い範囲を扱うものだということは分かった。
少し引用すると…。
「音楽修辞学は、聖書の言葉の内容を音楽で伝えるために、修辞学のさまざまな技法を音楽の表現に応用したものである」
「音楽修辞学は、バロック時代に特にドイツ・ルター派の作曲家たちによって発展した。その伝統は古典派、ロマン派の作曲家たちによって受け継がれていったが、フランス革命(1794)前後のコンセルヴァトワール conservatoire(音楽学校)の設立によって徐々にすたれていく」
言葉による修辞学は「弁論の準備から発表までの各段階」(5段階)を扱っており、そのうちの最初の 3段階(↓)における技法が音楽に取り入れられた。
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✏️■2005/05/29(日) 遠く遥かに~末広がりこそ目出度ーけ~れ~(Blog | Hiroaki Ooi)
ピアノ、フォルテピアノなどの奏者である大井浩明氏の文章だ。
「①inventio(発想)、②dispositio(配置)、③eloctio(修辞)」
例えば、ソナタ形式の「提示部、展開部、再現部」は上記①②③から来ているそうだ。
なので、音楽修辞学というのは、音楽全体の構成方法から、音型などの細かい表現方法まで、幅広い範囲をカバーしたものだったようだ。
ところで、「フィグーラ」を調べながら思い出したのは、バッハの音楽に使われている「ラメント・バス」や「十字架音型」のこと。これも「フィグーラ」の一種?
✏️カンタータ第78番に見る巨匠の高み(三澤洋史:ラメント・バスについて)
✏️バッハのフーガを埋め尽くす十字架(写真付き)(八百板正己)
…というか、ふと気づいたのだが、「音型」を英語で言うと "figure"、スペイン語(たぶん)でいうと "figura" なので、何も特別な専門用語と考える必要はないのかも…。
…ということは、「代表的なフィグーラ」10種類以外にもあるんだろうな…と思いながら、こんな記事(↓)も見つけた。
✏️■2005/05/29(日) 遠く遥かに~末広がりこそ目出度ーけ~れ~(Blog | Hiroaki Ooi)
ピアノ、フォルテピアノなどの奏者である大井浩明氏の文章だ。
フルート(フラウト・トラヴェルソ)奏者である有田正広氏のレクチャー・ビデオの内容を紹介したもので、その第1巻が「修辞学」に関するものとなっている。
その中から、「代表 10種」以外のものをご紹介すると…。
- キルクラーティオー circulatio(円弧・迂回):サイン・カーヴのように緩やかに上下する音型:思いめぐらし
- キアスムス chias(u)mus:声部間での反進行あるいは交差:心の襞や揺れ
- インテッロガーティオー interrogatio:フレーズの終わりで音がキュッと上がって終わる:問いかけ
- フォブルドン fauxbourdon:3度と6度の平行進行:疑念
その他、いくつかの面白い指摘・解説がある。
- Saltus duriusclulus(「10種」の No.8、不協和音程による3度以上の跳躍)は「苦難の跳躍」とも呼ばれ、ショパン葬送ソナタ冒頭やベートーヴェン作品111冒頭にも登場する
- Hypotyposis(「10種」の No.4:音型による絵画的表現)の一例:フローベルガー《ブランシュロシュ卿の墓》などにあらわれるG-D-Es等という音型は、GとDという2つの音がEsへ向かって解決する、『アマーレー amare』(広義の愛)を形象模写したもの
- Catabasis(「10種」の No.1:下降音型)の例として、シューマンが愛用した「クララの主題」がある
まぁ、とても面白いし「なるほど」と思う部分も多いのだが、やや理屈から出発しているような部分も感じないではない。それと、バロック時代と現代では聴き手の感じ方も変わっているのではないか?…とも思う。
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