2015年7月31日金曜日

こんなピアノ演奏が聴きたい!(「いい演奏」再考)

チャイコフスキー・コンクール(ピアノ部門)を聴いて、いろいろと勉強になった。演奏自体も素晴らしかったのだが、審査員の判断とか、周りの人のコメントも興味深かった。

そして、ルカ・ドゥバルグ(Lucas Dubarge)のインタビュー記事を読んで、ときおり考えている「いい演奏とは?」に対する答え(があるかどうかは分からないが…)の一部分が見えたような気がした。



なかなか言葉では表現できないし、とらえどころのない問題でもあるので、いま少し見えかけたと思ったイメージをできるだけ言葉にして残しておきたいと思う。


その前に、設問を「いい演奏とは?」から「(私が)聴きたいピアノ演奏とはどんなものか?」というふうに変えてみたいと思う。(考えやすそうなので…)それに対する、私の回答案を書いてみる。

  • ①「音楽」が聴こえてくる演奏
  • ②これまであまり演奏されていない作品
  • ③作品の魅力を再発見させてくれる演奏
  • ④ピアノの魅力・可能性を引き出す演奏
  • ⑤聴いていてワクワクする(心を動かされる)演奏


①の「音楽」が聴こえてくる、というの説明しづらいのだが、経験としては確かにあるのだ。音楽が聴こえる演奏と、そうでない演奏。

ルカ君のインタビューでの次の発言は、まったくその通りだと思った。

コンクールの何人かの競技者が、すべての音符を正しいテンポで、正しいニュアンスで、完璧に弾くのを聴きました。でもその音には生命がありませんでした。ピアノの音は聞こえても、音楽は聞こえてきません。


そこで聴こえてくる「音楽」を、ルカ君の言葉を参考にして表現してみると…。

何か活き活きとして動き続ける「生命感」みたいなもの。流れとかモーメンタム(ムーヴメントの感覚)といったようなもの。そして、その瞬間に新しく何かが生み出されている感覚。音楽でしか伝わらない何か。そういったものの総体であるような気がする。


②の「これまであまり演奏されていない作品」は単純に、これまでに作られた、そして今も作り出されている膨大なピアノ曲のなかには、まだまだ素晴らしい曲がたくさんあるはずだ、と思うから。もっといろんな曲を聴きたいと思うのだ。

逆に言えば、演奏・録音される曲があまりに偏っているのではないだろうか?「定番」の曲を「名手」の演奏で聴くのも悪くないのだが、ちょっと「飽きた感」「辟易感」が(私のなかに)あるのも確かである。

クラシック音楽を「古典芸能」にしてはいけないと思う。


③は、そうは言っても「定番」は「名曲」でもあるので、新しいアプローチ(アイデア、解釈、演奏法)で、作品の新しい魅力を引き出して聴かせてほしい、ということ。

ルカ君のインタビューでは、そのあたりを明快に言ってくれている。

現在ほど良いモーツァルトの演奏はかつてなかったと思います。…いまや、細心の心配りによってダイヤモンドのような輝きが一つ一つの音符に注がれています。他方で、ショパンとリストの音楽については、我々は飽和点に達していると思います。いまや井戸は空っぽ。何か新しいものを引き出すリニューアルが求められています。


④の「ピアノ(という楽器)の魅力・可能性を引き出す演奏」というのは、ピアノの音が大好きな私にとっては、「いい演奏」の最低ラインかもしれない。タッチとかアーティキュレーションとか技術的なことに還元されがちだが、たぶんそれ以上のもの。


⑤の「聴いていてワクワクする(心を動かされる)演奏」は、①〜④を踏まえて、全体としては音楽を聴くことの喜びを感じさせてくれるもの、という、たぶん音楽ファンとしての礎(いしずえ)みたいなものだろう。


…で、ルカ君の演奏に心動かされ、これからの活動・成長に期待したいと思うのは、上のような演奏を聴かせてくれるのでは、という「予感」があるからである。

これまでに聴いたことのないような「いい音楽」「いい演奏」を聴かせてくれそうな予感。ピアノ音楽に新しい価値・魅力を付け加えてくれそうな予感。現代のピアノ音楽界を豊かにして、その歴史に新しいページを開いてくれそうな予感。そういったものを感じるのだ。


【関連記事】
《ルカ・ドゥバルグへのインタビュー記事(メモ)》

《ルカ・ドゥバルグは根っからのアーティスト》

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