2025年1月20日月曜日

🎹P.ヒンデミット 1895-1963 伝統を重んじた革新、ピアノソナタと Ludus Tonalis ♪

《鍵盤音楽史》の探索、今日はパウル・ヒンデミット (Paul Hindemith、独、1895 - 1963)。モンポウより 2歳若く、ガーシュウィンより 3歳年上。作曲家、演奏家(ヴィオラなど)、音楽理論家、指揮者として多彩な功績を残した。

交響曲などの管弦楽曲やオペラ、室内楽、器楽曲、吹奏楽、合唱曲など 600曲以上を作曲。オーケストラを構成するほぼすべての楽器のためのソナタも作曲している。また、映画音楽や付随音楽など幅広いジャンルの作品を残している。




ヒンデミットの作風は、第一次世界大戦前の「後期ロマン主義」や「表現主義」(G.マーラー、R.シュトラウス等)の影響から、戦後はロマン派からの脱却を目指し、「新即物主義」「新古典主義」へ移行したと言われている。

ただ、常にその時代の機運を自作品に反映させ、音楽家と聴衆の結びつきを重視した「実用音楽」を目指したという点では一貫した創作理念を保持している。それはまた、プロからアマチュアまで幅広く演奏される作品ということも含んでいる。

シェーンベルクらの無調音楽に対しては自然倍音の正当性を守る立場から否定的であった。音楽史の「伝統」に裏打ちされた作曲技法を駆使しながら、新しい音楽を作り出す「革新」を進める…というのが基本的な考え方だったと思われる。


聴いてみると、確かに「無調」ではなく、しかし伝統的な和声でもなく、「ロマン派」的な音楽ではないが、その音(響き・流れ…)からは何らかの感情とか内容を感じる不思議さがある。

20世紀の西洋音楽史では、「第2次ウィーン楽派による十二音技法の影響の陰に隠れてしまいがち」と言われているようだが、ヒンデミットの方法論による「革新」ももっと見直されるべきではないかと思った。

なお、グレン・グールドは「ヒンデミットは現代の数少ない真のフーガの名手である」と彼の対位法技術の高さを評価している。


ちなみに、ヒンデミットは 1956年に指揮者として初来日し(オケはこれも初来日のウィーンフィル:51人規模)、17回の公演をこなしたようだ。このときの芸大講堂での講演は、下記のようなことを含む内容だったとのこと。

  • 十二音技法やコンクレート音楽に対する鋭い批判(作曲技法の過大評価を戒めた。作品はむしろ作曲者の精神の反映であるべき)
  • ラモーに端を発した和声学やフックスの対位法は現代の作曲にはそのまま用いられないが、音楽理論の根本を究める為に必要である。

出典:✏️ヒンデミット来日、初来日のウィーン・フィルと共に(1956)(チュエボーなチューボーのクラシック中ブログ)


ヒンデミットの主なピアノ作品は下記。

ピアノ協奏曲(ピアノと管弦楽)

  1. 管弦楽付きピアノ音楽(左手のための協奏曲)1923
  2. 室内音楽第2番(ピアノと12の楽器奏者のための)1925
  3. ピアノ、金管楽器、ハープのための協奏音楽 1930
  4. 「4つの気質」1940
  5. ピアノ協奏曲 1945

ピアノ独奏曲

  1. ピアノソナタ第1番「マイン川」1936
  2. ピアノソナタ第2番 1936
  3. ピアノソナタ第3番 1936
  4. ある夜に(夢と体験)Op.15 1917-1919
  5. 舞曲集 Op.19 1922
  6. 組曲「1922年」Op.26 1922
  7. ピアノ音楽 第1部(3つの小品による練習)Op.37 1925
  8. ピアノ音楽 第2部(一連の小品)Op.37 1927
  9. 小さなピアノ音楽 Op.45-4 1929
  10. ルードゥス・トナリス(対位法、調性およびピアノ奏法の練習)1942
  11. 2台のピアノのためのソナタ 1942


一通り聴いた中で気に入ったのは 3曲のピアノソナタ(とくに第3番)。代表作品の一つ「ルードゥス・トナリス」は面白いのだが、まだその良さが分かっていない感じ…。

"Ludus Tonalis" は「音の遊び」という意味のラテン語。「平均律曲集」の20世紀版を意図した作品で、前奏曲+12曲のフーガと11曲の間奏曲+後奏曲という構成。

管弦楽付きの作品では「4つの気質」「ピアノ協奏曲」と「左手のための協奏曲」がいい感じだと思ったが、これもまだ十分には聴きこなせていないと思う。

以下、オススメ音源(YouTube と CD)をいくつか挙げる。


1. グレン・グールド

グレン・グールドはヒンデミットがとても気に入っていたようで、3曲のピアノソナタだけでなく、金管楽器の協奏曲 5作品、"Das Marienleben" という歌曲集などを録音している。この演奏はかなり好みだ ♪ グールドらしい変化球が少ないところが好感が持てる…(^^;)♪

「ルードゥス・トナリス」も探してみたが、録音していないようだ。



2. オッリ・ムストネン

ムストネンもヒンデミットがお気に入りなのか、「ルードゥス・トナリス」と「4つの気質」を録音している。後者は弾き振り。

「ルードゥス・トナリス」は歯切れのいいやや鋭角な演奏で、素晴らしいと思う。フーガの旋律ラインの明快さが際立っていていい感じ ♪

♪ Prokofiev: Visions fugitives / Hindemith: Ludus Tonalis:アルバム
(トラックNo.21〜45)

💿Prokofiev: Visions fugitives / Hindemith: Ludus Tonalis



「4つの気質」は、管弦楽付きピアノ作品の代表作とも言われている。ここでも、ムストネンのピアノのアーティキュレーションの鮮やかさが際立っている ♪

♪ Sibelius, J.: Symphony No. 3 / Hindemith, P.: The 4 Temperaments/ Olli Mustonen:アルバム
(トラックNo.4〜8)

💿Sibelius, J.: Symphony No.3 / Hindemith, P.: The 4 Temperaments



3. エリック・ハイドシェック

ちょっと前にヘンデルの素晴らしい演奏で再認識したハイドシェックだが、なんと!ヒンデミットの 3曲のピアノソナタを録音していて、これも素晴らしい演奏だ ♪

1959年、ハイドシェック 23歳のときの録音なので、1936年に作曲されたソナタは「現代音楽」だったはずだが、完成度の高い演奏(解釈)には本当に驚かされる。

♪ Hindemith: Sonates pour piano Nos. 1, 2 & 3/ Éric Heidsieck:アルバム

💿Hindemith: Sonates pour piano Nos. 1, 2 & 3



4. ボリス・ベレゾフスキー

ムストネンとはアプローチが違うが、ベレゾフスキーのやや太めの音での豊かな響きも魅力的だと思う。この辺りは好みの問題、個人的にはムストネンかな?

♪ Hindemith : Ludus Tonalis & Suite '1922'/ Boris Berezovsky:アルバム

💿ヒンデミット:ルードゥス・トナリス/ ベレゾフスキー



5. レオン・フライシャー

「管弦楽付きピアノ音楽(左手のための協奏曲)」は、パウル・ヴィトゲンシュタインの委嘱により作られた作品であるが、ヴィトゲンシュタインはこの作品を演奏することなくこの世を去っている。

初演は、レオン・フライシャーとサイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団によって 2004年に行われた。フライシャーはその後もこの作品をよく演奏していたようだ。

ある夜に(夢と体験)

室内音楽第2番、ヴィオラ協奏曲、ピアノ協奏曲

2台のピアノのためのソナタ
♪ Paul Hindemith — Sonata for Two Pianos - 1942
(Pf:Filippo Farinelli & Simone Nocchi)

木彫り人形の踊り、組曲「1922年」、舞曲集、ピアノ音楽 第1部
♪ Hindemith: Piano Works:アルバム
(Pf:Georg Friedrich Schenck)

ピアノ音楽 第2部
♪ Hindemith: Klaviermusik, Op. 37: Part II, "Reihe kleiner Stücke":アルバム
(Pf:Maria Bergmann)


おまけ。ヒンデミット、イラストレーター ♪

ヒンデミットは多才な人だったようで、「ルードゥス・トナリス」には本人のイラストがふんだんに描き込まれたカラーの楽譜があるらしい。下記 CD はジャケットに使用。

これは、奥様の 50歳の誕生日記念に特別に制作されたものらしく、たぶん流通はしてないと思われる。奥様は「獅子座」♪

✏️ショット本社を訪問!(2)(川上 昌裕 オフィシャル)
✏️パウル・ヒンデミット(Wikipedia)

✏️ルードゥス・トナリス(Wikipedia)

✏️ヒンデミット 1895-1963(PTNAピアノ曲事典)

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