カタルーニャのバルセロナに生まれ、リセオ音楽院でピアノを学ぶ。1911年にグラナドスの推薦を受けてパリへ行く。第1次世界大戦勃発による帰国をはさみ、1941年までパリ在住。フォーレ、ドビュッシー、サティなどに影響を受けたピアノ作品を多く残している。
彼が、当時のフランス音楽などの影響を受けたことは確かだが、すべての作品に「モンポウならではのパーソナリティが刻印」されており、独自の世界を作り上げている。
それは、カタルーニャの気候・風土や民謡、子供の頃から親しんだ「鐘」の音、そこから見出した「金属和音」、独特の和声や響きと余韻、そして彼のモットーであった「再び始めること」、つまり当時の現代音楽の潮流などに惑わされずゼロから音楽を作るという姿勢などから生まれたものだと思われる。
アルカディ・ヴォロドスが、モンポウ生誕 120周年(2013年)を記念してピアノ曲集をリリースしたときに語った言葉(↓)の「重要な意味合い」を少しでも理解したいと思う。
「それぞれが驚くべき作品であり、ピアノ曲に新たな局面を開いた重要な意味合いを持っています」
モンポウの作品を語るときによく使われる言葉としては、「内省的な性格」「特有の静謐な雰囲気」「少ない音数」「静寂の調べ」「内的孤独」などがある。
ただ、個人的にはそういう面が強調されすぎていて、「ピアノ曲に新たな局面を開いた重要な意味合い」を分かりにくくしているような気がしないでもない。
例えば、「歌と踊り」の素朴でたおやかな「歌」と楽しげな「踊り」とか、「ショパンの主題による変奏曲」の第12変奏のダイナミックな盛り上がりとか…、一通りしか聴いてない中でも「静寂」だけでは語れない側面をいくつか思いつく…。
モンポウの代表作品(ほとんどピアノ小品)は、「ひそやかな音楽」第1〜4巻(1959〜67)、「歌と踊り」第1〜15番(1918〜86)、「前奏曲」第1〜12番(1927〜60)、「子供の情景(5曲)」(1915〜18)、「ショパンの主題による変奏曲」(1938〜57)など。
モンポウ自身が 1974年に自作のピアノ曲全集を録音しており、演奏も素晴らしいが資料的にも貴重な音源となっている。これは現在 Brilliant Classics レーベルにより復刻されている。ただ、「歌と踊り」第14番は含まれていない。
この「全集」の曲目がピアノ曲の作品リストになっているので、「歌と踊り」第13〜15番を追加した一覧表を下記に示す。
- ひそやかな音楽 第1巻(9曲)1959
- ひそやかな音楽 第2巻(7曲)1962
- ひそやかな音楽 第3巻(5曲)1965
- ひそやかな音楽 第4巻(7曲)1967
- 歌と踊り 第1番 1921
- 歌と踊り 第2番 1918-24
- 歌と踊り 第3番 1926
- 歌と踊り 第4番 1928
- 歌と踊り 第5番 1942
- 歌と踊り 第6番 1942
- 歌と踊り 第7番 1944
- 歌と踊り 第8番 1946
- 歌と踊り 第9番 1948
- 歌と踊り 第10番 1953
- 歌と踊り 第11番 1961
- 歌と踊り 第12番 1962
- 歌と踊り 第13番(ギター/ピアノ編曲)1986
- 歌と踊り 第14番 1948-62
- 歌と踊り 第15番(オルガン)1921
- 子守歌
- 魔法の歌(5曲)
- 風景(3曲)
- 前奏曲 第1番 1927
- 前奏曲 第2番 1927
- 前奏曲 第3番 1927
- 前奏曲 第4番 1927
- 前奏曲 第5番 1930
- 前奏曲 第6番 1930
- 前奏曲 第7番 1931
- 前奏曲 第8番 1943
- 前奏曲 第9番 1943
- 前奏曲 第10番 1944
- 前奏曲 第11番
- 前奏曲 第12番 1960
- ショパンの主題による変奏曲 1938-57
- 3つの変奏曲 1921
- 対話 I-II 1923
- 博覧会の思い出 1937
- 内なる印象(9曲)1911-14
- 子供の情景(5曲)1915-18
- ペセブレ(3曲)1914-17
- 魔法(魅惑)(6曲)1920-21
- 郊外(5曲)1916-17
- 遠い日の祭り(6曲)1920
私が最初にモンポウの名前を知ったのは、ピアノを始めた 2013年のピアノ曲の勉強中。
ただ、この曲は生前未出版で上のリストにも含まれていない。のちの妻となるカルメン・ブラーボに捧げられた曲で、二人の「初めての散歩の思い出」をピアノ曲にしたもの。
当初「風景」の第2曲として作られたが「過度にメロディックでロマンティック」であるとしてお蔵入りし、「El Lago(湖)」に差し替えられた。
のち(1976年)に、パブロ・カザルスの生誕100年に際し、スペイン文部科学省の委嘱作品、チェロとピアノのための作品「El Pont」として復活している。
以下、モンポウのピアノ作品のオススメ音源(YouTube と CD)をいくつか挙げる。
1. フェデリコ・モンポウ
前述したモンポウ自身による 1974年の録音。ほぼ全ピアノ作品を網羅している。
ハフは二つのアルバムをリリースしている。
一つ目は 1997年 8月にリリースされ、ペンギン・ガイドのロゼット賞やグラモフォン賞、ディアパソン・ドールなどの受賞をした名盤。
プログラム構成としては、「歌と踊り」からの 6曲と「前奏曲」からの 6曲が交互に配置され、ところどころに「魔法の歌」「呪文(魔法)」「風景」などの小曲集が挟まれる。
♪ Mompou: Piano Music - Canciones y Danzas, Preludes etc./ スティーヴン・ハフ:アルバム
💿Piano Music Federico Mompou
二つ目は、モンポウの代表作の一つ「ひそやかな音楽(Musica callada)」。2020年録音、2023年リリース。
♪ Mompou: Música callada/ スティーヴン・ハフ:アルバム
♪ Mompou: Piano Music - Canciones y Danzas, Preludes etc./ スティーヴン・ハフ:アルバム
💿Piano Music Federico Mompou
♪ Mompou: Música callada/ スティーヴン・ハフ:アルバム
3. アルカディ・ヴォロドス
モンポウ生誕 120周年を記念して 2013年にリリースされた「完全生産限定盤」と、モンポウ没後 30年の 2017年に再リリースされた版がある。個人的には好みの演奏 ♪
ヴォロドスが歌曲からピアノ編曲した 2曲を含む。「君の上には、ただ花ばかり」は「夢の戦い」からの 1曲で有名・人気曲。
♪ Volodos plays Mompou:アルバム
収録曲:
- 前奏曲第7番(Palmier d'etoiles)
- 「君の上には、ただ花ばかり」(ヴォロドス編)
- 子供の情景
- 「今日、大地と太陽が私に微笑む」(ヴォロドス編)
- 「風景」より「湖」
- 「魔法」より「喜びを見いだすために」
- 前奏曲第12番
- ダイアローグ I-II
- 「ひそやかな音楽」より第1, 2, 27,24, 25, 11, 15, 22, 16, 6, 21番
4. ダニール・トリフォノフ
トリフォノフは 2017年リリースの『Chopin Evocations』で、ショパンの作品群とともにモンポウの「ショパンの主題による変奏曲」を弾いている。好きな演奏だ ♪
これは、ショパンの「24の前奏曲」の第7番 イ長調をテーマとした 12の変奏曲からなる作品。次のガルシア・ガルシアも弾いており、それなりに取り上げられているのかも…。
♪ Daniil Trifonov – Mompou: Variations On A Theme by Chopin | Yellow Lounge
💿Daniil Trifonov: Chopin Evocations
5. マルティン・ガルシア・ガルシア
ガルシア・ガルシアはスペイン出身(カタルーニャとは離れた北側のアストゥリアス州)なので、モンポウもよく弾いているようだ。これ(↓)はショパンを数曲弾いたあとに「ショパンの主題による変奏曲」を弾いている音源。
♪ Martin García García - IKIF 2024(19:50〜)
♪ Federico Mompou - Suite Compostelana (Alberto Mesirca, Guitar)
参考資料:
📗フェデリコ・モンポウ: 静寂の調べを求めて(椎名亮輔 著)
2024年 9月に出たばかりの本。モンポウの「生涯と作品解説を豊富な図版とともにまとめた本格評伝」。図書館で借りて、今読んでいるところ。
この本の著者によるネット記事が下記。
✏️はじめてのモンポウ~極限の音数で珠玉のピアノ小品を生んだカタルーニャの作曲家(ONTOMO/ 椎名亮輔)
その他の参考記事。
✏️フェデリコ・モンポウ : 原点回帰・プリミティズム・鐘の音他(諏訪和慶|クラシック・ギターリスト)
✏️トリフォノフ、フレデリコ・モンポウを弾く|CD2 of "Chopin Evocations"(クラシック音楽とアート)→「ショパンの主題による変奏曲」各変奏の解説あり
✏️私の名曲喫茶(1)モンポウ:橋(内藤 晃)
✏️フェデリコ・モンポウ(Wikipedia)
✏️モンポウ(PTNAピアノ曲事典)
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