2024年8月21日水曜日

Mozart 幻想曲とフーガ K.394:バッハのフーガ研究の成果として唯一のピアノ曲?

今回練習することにしたモーツァルトの「幻想曲とフーガ K.394」であるが…。

選曲に当たっていくつかの演奏を聴いたのだが、ピアニストによる違いが面白かったので、今順番に聴き比べをしているピアノ協奏曲の記事と同じようにまとめてみることにした。





この曲が作られた 1782年頃、モーツァルトはバッハやヘンデルのフーガを研究していたようだ。これ(↓)は、父親宛てのモーツァルトの手紙(4月10日)の一節。

ぼくは毎日曜日の12時に、スヴィーテン男爵のところへ行きますが、そこではヘンデルとバッハ以外のものは何も演奏されません。…ぼくは今、バッハのフーガの蒐集をしています。 ゼバスティアンのだけではなくエマーヌエルやフリーデマン・バッハのも。 それからヘンデルのも


そして、姉ナンネルへこの作品を送った(献呈した)ときの手紙(4月20日)には、婚約者コンスタンツェにせがまれて、このフーガを作ったと書いている。

このフーガが生まれた原因は、実はぼくの愛するコンスタンツェなのです。…(すっかりフーガの虜になってしまったコンスタンツェは)フーガを一つ作ってやるまで、せがんでやまないのです。 そんな風にして、これが出来ました

ただ、この手紙はコンスタンツェとの結婚に反対していた父や姉への(彼女は音楽に理解があるという)アピールだったのでは?…という説もある。


モーツァルトが作曲した鍵盤楽器用の(前奏曲と)フーガとしては、この作品がほぼ唯一のものである。そういう意味では貴重な作品であるかも知れない。

なお、この作品のタイトルは「幻想曲とフーガ」と呼ばれることが多いが、モーツァルト自身は「幻想曲」ではなく「前奏曲」と呼んでいたようだ。なので「前奏曲とフーガ」と表記されることもある。

「幻想曲」と呼ばれるのは、出版社が「幻想曲集」の中に入れたため…らしい。


ちなみに、上記ナンネルへの手紙の中で、モーツァルトは次のように言っている。

あまり速く弾いてもらいたくないので、わざとアンダンテ・マエストーソと書いておきました。 フーガはゆっくり弾かないと、入って来る主題がはっきりと聴きとれないし、したがって何の効果もありません

ゆっくり弾きたい(ゆっくりしか弾けない…)私にとって、このモーツァルトの言葉はとてもありがたい…(^^;)。


以下、聴き比べ、時系列で…。


最初に聴いたのはルドルフ・ゼルキン(Rudolf Serkin、チェコ、1903 - 1991)。

幻想曲もフーガも遅めのテンポで(お手本には)いい感じだと思ったのだが、フーガの方はちょっとゴチャゴチャしている印象で、あまり魅力的な曲だとは思えなかった。



次に聞いたのはグレン・グールド(Glenn Gould、カナダ、1932 - 1982)。

こちらは速すぎて、こんな感じには弾けないと思った…(^^;)。あまり面白さも感じられず、この時点ではこの曲を練習するのはやめようかと思い始めた。



…のだが、次に聴いたこの演奏(↓)で、やっぱりやってみようかと思い直した。


ゼルキン、グールドと違ってとても活き活きとした面白い曲に聴こえたのだ ♪ 演奏でこんなにも変わるものか!とちょっとビックリした…(^^;)。現代的なノリの良さ?

で、弾いているのは Apor Szüts という人。読み方は分からないが、「アポール・スッツ」かも? 1993年生まれのハンガリーのピアニスト&作曲家。合唱団やオーケストラの指揮もやっているようだ。


そして、一番気に入ったのはキット・アームストロング(Kit Armstrong、米、1992 - )の演奏。Apor Szüts より正統派的な演奏で、かつフーガの魅力も存分に味わえる ♪

♪ Kit Armstrong | W. A. Mozart - Fantasia and Fugue KV 394


それから、グリゴリー・ソコロフ(Grigory Sokolov、露、1950 - )の音源もあって、演奏はいいのだが、残念ながら客席からの素人撮影のようで、音質は今ひとつ…。

♪ Grigory Sokolov: Mozart - Prelude and Fugue in C major K.394-383a


最後に見つけたのはクン=ウー・パイク(白 建宇/ Kun Woo Paik、韓国、1946 - )の「💿MOZART: Piano Works 1」というアルバム(2024年 5月リリース)に入っている演奏。

ややおとなしい感じだが、フーガはテーマや各声部がクリアに聴こえるお手本のような演奏だと思う。

(トラックNo. 11〜12)



…ということで、お手本はキット・アームストロングかクン=ウー・パイク、音楽鑑賞として楽しむにはキット・アームストロングかアポール・スッツになるのかな…。

アポール・スッツは面白そうなピアニストなので、もう少し聴いてみようと思っている。作曲家でもあるので、ピアノ作品があるといいのだが…。




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