少し前から、ピリオド楽器による録音などを精力的に行っているようだが、この記事(↓)で初めて知った。最新録音のブラームスのコンチェルトにつてのインタビューもある。
✏️A Pianist Comes Around on Period Instruments(The New York Times)
シフは数年前に、ウィーンで1820年に作られたフランツ・ブロードマン製のフォルテ・ピアノを入手し、ベートーヴェンやシューベルトを録音している。例えばこの(↓)音源。
シューベルトのピアノソナタなどを収録した CD は 2枚出ている。
シューベルト:ピアノ・ソナタ集Vol.2
で、2019年12月にアビー・ロード・スタジオで録音された、ブラームスのピアノ協奏曲第1番・第2番には、ブリュートナー社により1859年に制作されたオリジナル楽器(Julius Blüthner in Leipzig, Germany, in 1859)が使われている。
1859年というのは、ブラームスのピアノ協奏曲第1番が初演された年である。
シフは、50人ほどからなるイギリスの古楽器オーケストラ the Orchestra of the Age of Enlightenment を弾き振りしている。
ブラームス: ピアノ協奏曲 第1番&第2番(2SHM-CD)
そのライナーノーツでシフが語っているのは…。
「近年、私たちは重量級のブラームスの演奏に慣れてしまっている。ピアノはいっそう強大にパワフルになり、オーケストラは大規模に、個々の楽器も強くたくましくなっている。演奏会場は巨大化した」
「ブラームスの音楽は、重たくも、鈍くも、分厚くも、騒々しくもない。そのまったく反対 ― 清明で、繊細で、特徴的で、ダイナミクスの陰影に満ちている」
この CD を Spotify で聴いてみた。シフの狙いは成功していると思われる。
現代ピアノに慣れた耳からすると、やや物足りなさを感じる部分があることは確かだが、それ以上に音楽(の構造)がよく聴こえてくるような気がする。
ピリオド楽器が醸し出す特有の雰囲気もいいし、音色もなかなかいい。
個人的には、もともと騒がしい音楽や大規模オーケストラはあまり好きではないし、それよりもニュアンスに富んだ音楽性豊かな演奏が好きだ…(^^)♪
なので、シフのこれからの演奏には少し期待してみようと思う。現代ピアノで弾くシフのバッハも好きだけど…(^^;)。
インタビューのところ、概要を意訳してみる。
ピリオド楽器に対する考え方を変えたのは何?
ザルツブルクでモーツァルトのピアノを弾いたこと。その後たくさんのピリオド楽器との出会いがあって、今では、現代ピアノでの演奏は難しいと思うこともある。
最近まで、シューベルトをフォルテピアノで弾くことは考えられないと言っていた?
それは間違いだった。人は柔軟でなくては…。
シューベルトの次がなぜブラームスだったのか?
シューベルトからの自然な流れだった。ブラームスの協奏曲を現代ピアノと現代オーケストラでは演奏することにはバランスの問題がある。物理的にも心理的にも弾くのが難しい。
この Blüthner ピアノでは、物理的な問題はなくなる。鍵盤幅も少し狭いので指を広げて疲れることもない。アクションもとても軽い。
弾き振りの難しさは?
弾きながら指揮するのは大変で、ピアノを弾くのに忙しくて指揮できないときもある。なので、本当のパートナーが必要。伴奏ではなく "give and take" だから…。
オーケストラも注意深く耳を傾けて予測する必要があるし、お互いによく知り合っている必要がある。室内楽的なアプローチといえる。
この演奏は細部までとてもよく聴き取れる演奏だと思うが…。
それが我々の意図だ。透明性と明確さ、1930年代以降の音楽について回っている贅肉(the fat) をなくすこと。オーケストラではガット弦を使うことで大きな違いが出る。
どんな音楽でもそうだが、この重たさは付点二分音符や長い音符から来る。こういう長い音符に、作曲家はディミヌエンドを書いてないが、例えばブラームスは音楽家が自動的にそうすることを期待していたはずだ。
演奏家にとって当然なのでディミヌエンドを書いてないということ?
そう。これはモーツァルトやベートーヴェンの音楽でも同じ。オーケストラを指揮するときは "attack the note, and then get softer"(そのディミヌエンドの指示)を言い続けなくてはならない。そうしないと、他のディテールが覆い隠されてしまう。
具体例は?
協奏曲第2番の第1楽章、この展開部は現代的な演奏ではとても 濁って(muddy)しまって、クリアでなくなる。ここは沢山の対位旋律が存在するので、すべてのディテールを聴きたい。
第3楽章の冒頭、チェロのソロのところでは、それに寄り添う他のチェロやヴィオラ、続くオーボエやバスーン…これらの音のレイヤーが聴こえるようにしたい。
ライナーノーツにある「ブラームスのピアノ曲は決して子供向けではない」の意味は?
若い人たちが何を弾くべきか、何を弾くべきでないかについては、確固とした意見を持っている。
初期のブラームスは物理的に大変な困難を伴うので、若い人は弾くべきではない。後期のブラームスも弾くべきではない。技術的には弾けるだろうが、それらの作品は人生の総決算(the summary of a lifetime)のようなものだから。
と言っても、若い彼らは結局弾くだろう。ゴルトベルクやベートーヴェンの後期ソナタを持ってくる若者(kid)がいる。ダメとは言わないが、もっと年取ってからとアドバイスしたい。
私の年齢になってくるとレパートリーは減ってくる。でも後期ブラームスやベートーヴェンの後期ソナタを弾くのはとても幸せだ。バッハやモーツァルトは、若い時から死ぬまでともにある音楽だ。
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