✏️エリオット・カーターの生涯を巡るピアノ作品
この論文の筆者は朝川万里さん。エリオット・カーター作品を揃えたリサイタルをカーネギーホール(ワイルリサイタルホール)で開催されたこともあるピアニスト。下記はその時の写真(朝川万里さんの公式サイトからお借りした)。
エリオット・カーター&朝川万里@カーネギー・ワイルリサイタルホール |
まず、エリオット・カーターの音楽的スタンスについては、「どのカテゴリーにも属さない」「妥協を許さず常に前進を続けた」作曲家と書いてある。
ミニマル音楽や実験音楽に対しても批判的な態度をとっており、最初の師であったチャールズ・アイヴスについても「誇張表現」だと評した。また、アメリカの独自性を主張したアイヴス、ヘンリー・カウエル、アーロン・コープランドの考え方や、12 音技法、セリー技法に固執することにも抵抗を示した、とある。
一方、ミルト ン・バビット Milton Babbitt (1916-2011) のシリアル音楽への貢献を唱え、ロジャー・セッショ ンズ Roger Sessions (1896-1985) の高潔な音楽と人間性、シュテファン・ヴォルペ Stefan Wolpe (1902-1972) の信念と厳しさ、コンロン・ナンカロウ Conlon Nancarrow (1912-1997) のピアノロー ル作品などを讃えている。
また、カーターをヨーロッパに紹介したピエール・ブーレーズ Pierre Boulez (1925-2016) とは、お互いの音楽を認め合った交友関係にあったそうだ。
カーターが一貫して追求したのが「流れの音楽」というものだったらしい。
これを読んだとき、少し違和感を感じた。彼のピアノ作品を聴いたときの私の感想が、「音楽の『流れ』や『歌』みたいなものはあまり感じられず、強いて言えば、現代的な演劇にあるようなアクセントの強いセリフを聴いているような印象」だったからだ。
たぶん、私の感じる「流れ」とカーターが追求した「流れ」とは内容が異なるのだろう。
「複雑なリズム、ハーモニーなどの要素が、どのように関連し共鳴し合いながら『流れの音楽』を創りだすか」を求め、「音楽の中に、自分が望む多くの個性が関連し共鳴し合う世の中を表現しようとした作曲家であった」という説明がある。
…が、ここからは具体的にどんな音楽のイメージを持っていたのかは読み取れない。こういったことを念頭に置きながら、もう少しカーターの音楽を聴いてみようと思っている。
ちょっと意外で「そういう考えもあったんだ…」と思ったこと。
エリオット・カーターが、ネオ・クラシックスタイルから抜け出したいと考えた理由の一つが、当時の作曲家たちの次のような思いだったと書いてあるのだ。
「悲惨な戦争を生き抜いてきたその時代の作曲家達の多くは、19 世紀末から 20 世紀初頭の音楽の誇張感情表現が人間の心に暴力を引き起こしたと信じた…」
一般に、音楽で感情表現をすることは「良いこと」?だと考えられていると思うのだが、それが行き過ぎると「暴力」につながる…。まぁ、そういう面も否定はできないかも…。
私がわりと気に入った「ピアノソナタ」(→《エリオット・カーターのピアノソナタは好きかも ♪》)であるが、実は「弦楽のためのアダージョ」で有名なサミュエル・バーバーと示し合わせて?書いた作品らしいのだ。
「そろそろピアノソナタをお互いに書こうと話し合い、ピアノの持っている音域をフルに使った作品を書くべきではないかと意見が一致した。その後カーターは 1946 年 に、バーバーは 1950 年にそれぞれのソナタを発表した」
一度、カーターとバーバーのピアノソナタを聴き比べてみようと思っている。
朝川万里さんによると、二つのソナタはだいぶ違うようだ。
「同じネオ・クラシックスタイルで書かれたピアノの音域をフルに使いこなしている曲でありながら、カーターのピアノソナタの方が遥かに 複雑な要素を用いていることは言うまでもない。バーバーのソナタでは、ある程度のリズムの複雑 性、層の厚い不協和音が用いられているが、モチーフは聴きとることができる範囲に止められてい て、ソナタ形式に忠実であることがわかる」
おまけ1。朝川万里さんがカーター(とバビット)のピアノ作品を弾いたアルバムが出ている。タイトルは "The Flow of Music"(流れの音楽?)。
『ザ・フロー・オブ・ミュージック~カーター&バビット:ピアノ作品集』 朝川万里
おまけ2。関連記事など。
✏️MARI ASAKAWA(公式サイト)
✏️エリオット・カーターの魅力を伝えたい(ぶらあぼ)
【関連記事】
《エリオット・カーターのピアノソナタは好きかも ♪》
《リーズ課題曲の現代作曲家9人を聴いて思ったこと》
《「美しい現代ピアノ曲」を聴き始めた…のだが…》
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