2017年4月27日木曜日

スタインウェイを買うなら1900年〜1967年もの?

「ニュースタインウェイ」という単語が気になって、つまりスタインウェイのピアノに新モデルがあるのか?と思って、図書館にあった『スタインウェイとニュースタインウェイ』という本を借りてみた。





まぁ、私にはまず縁のない(せめて試弾くらいはしてみたい…)スタインウェイのピアノであるが、製作年代によってかなり品質が違う、ということが書かれている。

この本には、スタインウェイの品質が低下していることに対して一石を投じたい思いが滲み出ている。私などが聴いて分かるほどの品質の違いかどうかは分からないが…。

以下、メモ的感想文と最近のスタインウェイの状況メモ。


楽器としての復元力
 
スタインウェイ・ピアノの特徴はその音質・音量や弾き心地の良さにあると思われる(想像するしかない…)が、この本の著者(磻田耕治 氏)によると、楽器としての「復元力」の大きさが他の楽器と違うらしい。

復元力とは、オーバーホール(すべての弦を張り替え)したときにどの程度元の状態に戻るかということ。通常のピアノでは元の能力の70〜80%程度だが、スタインウェイは100%あるいはそれ以上に復元できるようだ。

その理由として一番大きいのが「設計」で、他のピアノとは一線を画しているらしい。そして使われている部品(木材、鉄骨、フェルト、等)の品質。


例えば、ピアノの音を決める重要な要素の一つである「響板」。強く張り詰めた弦の圧力が「駒」を通じてかかり続けるため、経年劣化して響板が沈下していくのが普通である。

が、スタインウェイでは、響板にかかる弦圧力を鋳物のフレーム、支柱、胴体とのあいだで調整し、響板が沈下しないように作られているようだ。

実際、スタインウェイの響鳴板は弦を取り除くと浮き上がってくる、つまり板が元に戻ろうとする力を貯えているらしいのだ。これが長寿命の秘密の一つだろうと、著者は推測している。


いい音の元は「弱さ」?
 
ところが、その強大な音量からは想像できないが、スタインウェイのピアノは外部からの衝撃などにはまったく弱いそうだ。逆に、日本のピアノなどは鉄骨、胴体、そして響鳴板の部分がやたらと強靭に作られており、それらの部分に「あそび」がなさすぎる、とのこと。

いい音を出すことにこだわると、「極端に言えば、ピアノは弦の張力で胴体、フレーム、響鳴板が少々縮むぐらいのきわどい設計で作られるべき」と著者は言う。

軽量で適度の弾力性のある鉄骨と響板と弦とが、ちょうどよいバランス(テンションバランス)をとって、もっとも力強く豊かな音を響かせるようになっているのだろう。


もう一つ、意外だったのは弦の張力の弱さ。著者が実際に計測したデータが載っている。一部を引用すると…。

S=スタインウェイO型(ドイツ製)
B=ベヒシュタインM型(ドイツ製)
Y=ヤマハC3(日本製)

上の3つのピアノで「F音(69鍵)」の弦の「張力(kg) / 長さ(cm) / 太さ(mm)」を測った結果が下記。

S:68.828kg / 13.30cm / 0.875mm
B:89.357kg / 14.40cm / 0.925mm
Y:78.002kg / 13.80cm / 0.900mm

つまり、スタインウェイは他社に比べて、弦が細く短く、張り方が弱い。大きな音のイメージとは逆だが、張力は弱い方が豊かな音になるような気がしないでもない。


一番いい時代のスタインウェイ

この本の中で何度か「この年代のスタインウェイが一番いい」といった記述が出てくるが、それぞれが微妙にずれている…(^^;)。

一級建築士みずからが自然木を選定し仕上げた建造物にも匹敵するような「昔の良き時代(1900年頃から1967年頃)」のピアノ、とった記述があるかと思えば、「大正の初期頃から昭和15年頃まで(1912-1940 )」「第二次大戦後の昭和25年頃より昭和45年頃まで(1950-1970)」のスタインウェイは「素晴らしい」とも書いてある。

「1890年〜1930年」が 最高、その次が「1940年〜1970年」と書いてある場所もある。まぁ、大きく違っているわけではないが…。


で、気になっていた「ニュースタインウェイ」であるが、これは著者の造語で、「現在製作されている残念な(素晴らしいとは言いがたい)スタインウェイ」を指しているようである。とくに、1970年頃以降のハンブルグ製はよくないらしい。(この本の著者の意見である…念のため)

まぁ、それでも他社のピアノよりは格段にいい、というか比較にならないとも書いてある。一番いい頃の「素晴らしいスタインウェイ」を知る、スタインウェイ・ピアノを愛する人ならではの嘆きだろう。


品質劣化の原因
 
残念な品質になってきた原因であるが、基本的には「ハイテク技術がスタインウェイをダメにしている」ということらしい。

つまり、高周波などで短期間で木材を乾燥させること、コンプレッサー等で木材を瞬時に整形すること、フェルトを加熱貼などで硬化させること、等々。


ちょっと面白かったのが「フェルト」の劣化の話。原因は「酸性雨」だそうだ。

羊の毛が酸性雨に当たって劣化するだけでなく、間接的には羊の食べる草からの影響もあるらしい。その結果、生産されるフェルトの品質が悪くなってしまったとのこと。

ちなみに、過去最高品質のフェルトは1930年〜1980年頃のもので、毛足も長く適当な脂肪分を残していた。それ以降のものは硬くなっているようだ。

また、最近はビートの効いた音が好まれるようになった結果、フェルトの調整も硬めになっているという話もあるらしい。

全体的には、儲け第一主義の世の中の傾向も影響しているだろう。老舗のピアノメーカーも今や「ファンド」の売買対象になっているのだから…。


最近のスタインウェイ社の歴史(買収履歴?)
 
ということで、現在のオーナーを調べていたら、歴史をまとめた資料(↓)を見つけた。


参考までに、下記に1900年以降を抜粋した。

1907 ドイツ、ハンブルグ工場、独自部品の使用開始
1909 ベルリン支社開設
1925 マンハッタン WEST57thStreet に新スタインウェイ・ホールを設立
1926 従業員 2,300 人、年間生産台数 6,294 台と生産のピークを迎える
1972 CBS がスタインウェイを買収
1985 ボストンの投資家グループがスタインウェイ&サンズを含め CBS の全音楽部門を買取
1994 スタインウェイ・アカデミーを設立
1995 バーミンガム兄弟がスタインウェイをセルマー社に売却
1996 セルマー社がスタインウェイ・ミュージカル・インスツルメンツ社と社名変更
2000 ドイツのカール・ラング社を買収
2013 ポールソン&カンパニーがスタインウェイ・ミュージカル・インスツルメンツを買取


最後(2013年)の買収は途中で「コールバーグ・アンド・カンパニー」が「ポールソン&カンパニー」に変わった(↓)ようなので修正してある。


✏️スタインウェイ社の新オーナー(調律師ブログ)

ポールソン&カンパニーは現時点では株を非公開にしているようなので、じっくり育てようということなのか?状況はよく分からない。


おまけ:最近のスタインウェイ
 
現在の状況をスタインウェイ&サンズ社の公式ページで見ると、iPadで制御する自動ピアノ "SPIRIO" が目立つくらいだろうか。

"SPIRIO" は、2014年に買収した Live Performance 社の技術を使って開発されたもので、2015年に発売されている。日本では今年(2017年)の後半に発売予定らしい。


メモ:普及価格帯のBOSTON は河合楽器製作所でのOEM生産。さらに安いESSEXの製造は、韓国のYoung Chang社、中国のPearl River社。



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