2026年8月3日月曜日

🎹M.クレメンティ①:約100曲のピアノソナタからお気に入りを探す ♪

クレメンティ(Muzio Clementi、伊、1752 - 1832)が作曲したピアノソナタは、少なくとも 60〜70曲、別版・重複や編曲など含めると 100曲以上(110曲?)と言われている。

とくに、1780年代にウィーンとロンドンで書かれたソナタは古典派音楽の交響的ソナタとしての先例をなすものであり、ベートーヴェンも高く評価していた。

その中での名曲や代表曲を知りたいと思ったのだが、なかなかこれといった情報が見つからず、結局、何人かのピアニストが録音している CD を頼りに聴いてみた。




ネットを探索して、6人のピアニストの録音を見つけた。ホロヴィッツ以外は初めて聞く名前のピアニストである。(詳細は後述)

うち二人は全曲録音。史上初は「ナポリの女ホロヴィッツ」と異名をとるマリア・ティーポ(Maria Tipo、伊、1931 - 2025)の 1978〜1984年あたりの録音。もう一人は、ハワード・シェリー(Howard Shelley、英、1950 - )で 2008〜2010年のリリース。

比較的まとまった録音としては、中国のリュウ・シーボー(Liu Shibo)の 15曲とチェン・シュエユアン(Chen Xueyuan)の 9曲があり、ほぼ同じ時期に同じレーベル(Da Vinci Classics)からリリースされている。

結果的には、この二人の合計 24曲と、ホロヴィッツだけが録音している 3曲の合計 27曲を聴いた。他の 2人(ピョートル・ケピンスキ、ジュリア・トニオーロ)の収録曲はこの 27曲に含まれている。


選んだ 27曲をどのピアニストが録音しているかと、全音(底本は Breitkopf & Hartel社版)とヘンレ社が出版している「ソナタ・アルバム」的な楽譜に収載されているかどうかを一覧表にしてみた。

そして、「録音数+楽譜収載数」が多い曲に薄い「赤 / 黄 / 青」の網かけを付けてみた(多数決?)。「赤=4〜5 / 黄=3 / 青=2」。

あとで、こんな記事(↓)を見つけたので、そこで選ばれている 10曲には最後の「IL」欄に # 記号を付けた。



その一覧表が下記。「🤔」欄に私の印象「🌸:気に入った 🌼:やや気に入った」を付けてある。全音とヘンレの丸付き数字は収載巻数。

6人のピアニストは下記のように略記した。マリア・ティーポは全曲録音のあとで 4曲だけ選んで録音しているので、「多数決?」に参加してもらった。

 LS: Liu Shibo
 CX: Chen Xueyuan
 VH: Vladimir Horowitz
 MT: Maria Tipo(1992年録音)
 PK: Piotr Kepinski
 GT: Giulia Toniolo



注)Op.24-3 は通常「Op.23-3」と表記されている曲だが CD での表記に従った。クレメンティの作品番号にはやや混乱が見られるようだ。例えば、PTNAピアノ曲事典での Op.23 と Op.24 の説明には「Op.23-1 (Op.24-1)、Op.23-2 (Op.24-2)、Op.23-3 (Op.24-3)」「Op.24-1 (Op.21)、Op.24-2 (Op.47-2)」と書いてあるが、詳細不明…。

なお、ホロヴィッツの Op.24-2 も "Sonata, Op. 47: Rondo, No. 2" として、第3楽章だけが録音されたもの。


私の独断と偏見(好み)で選んだ(🌸印)のは次の 5曲となった。まぁ、1〜2度聴いただけの印象なので、自信があるわけではないが…(^^;)。

感想と解説記事などの引用を少し。( )内の Op.番号は PTNAピアノ曲事典による。


Op.13-6(Op.14-3)ヘ短調

Op.13 は「ヴァイオリンもしくはドイツ式フルートの伴奏付きのピアノフォルテのための6つのソナタ」というタイトルで、元は伴奏(オブリガート的な比較的簡単なもの)付きであったが、のちのいくつかの楽譜ではソロ曲として出版された。

YouTube で検索した範囲では、伴奏付きの演奏を見つけることは出来なかった。

後のベートーヴェンの熱情ソナタ(1807)の予兆とも見られる作品(PTNA)。個人的に好きな作品だ ♪


Op.24-2(Op.47-2)変ロ長調

1781年のクリスマス・イヴに神聖ローマ帝国皇帝ヨーゼフ2世の前で行われたモーツァルトとの対決に際して、クレメンティはこのソナタと「トッカータ 変ロ長調 Op. 11-2」を演奏したとされている。

モーツァルトは「魔笛 K. 620」(1791)序曲のフーガに、このソナタの冒頭のテーマを借用した…と言われている。→✏️クレメンティとモーツァルト(195)(影踏丸)


Op.24-3(Op.23-3)変ホ長調

個人的な印象として「クレメンティらしい?」と感じた。たぶん、これまでに知っていたクレメンティ、つまり「ソナチネ Op.36」の進化版みたいなものを感じた…のだと思う。でも、何となくそれが魅力的で聴き入ってしまう…という不思議な曲…?


Op.33-3(Op.36-3)ハ長調 

ピアニストでクレメンティ研究家でもあったピエトロ・スパーダ(Pietro Spada、伊、1935 - 2022)は、この作品が本来は協奏曲であったとの仮説に基づき、ピアノ協奏曲譜の復元(アレンジ)を行っている。

ホロヴィッツの CD には "Sonata quasi Concerto" と表記されている。作品自体も華麗で協奏曲的であるが、ホロヴィッツの録音はスケールの大きい素晴らしい演奏だ ♪

スパーダ自身、協奏曲版を録音している(↓)。…が、演奏としては、ハワード・シェリーの方が好みかも知れない…(^^;)。


♪ F.X. Mozart & Clementi: Piano Concertos(アルバム:クレメンティは track 7-9)
(Pf: Howard Shelley)


Op.40-2 ロ短調

Op.13-6 もそうだが、クレメンティの短調のソナタには惹きつけられるものを感じる。どこか、私の好きなベートーヴェンのソナタに通じるような魅力があるような気がする。

私のお気に入りピアニストの一人、ラザール・ベルマンもいい演奏を残している(↓)♪



全体的には多少の玉石混交的なものを感じないでもないが、少なくとも🌸🌼マークを付けた曲に関しては、その完成度も作品としての魅力も十分だと思った。

ベートーヴェンは、ピアノ曲に関してはモーツァルトの作品よりもクレメンティの方がピアニスティックで素晴らしいと評価した…という説にも頷けるものがある。

考えてみると、我々が普通だと思っている「古典派」あたりのピアノ表現は、C.P.E.バッハハイドン、そしてクレメンティによって新しく開拓され磨かれていったものである。

ピアノという楽器が発展期にあった時代に、クレメンティはまさにリアルタイムで開拓し続け、ピアノの可能性を最大限発揮できるような作品作りを目指し、その結晶としてこれらの作品を残している訳だ。

多くのピアニストにもっと深掘りしてもらって、新しい解釈、素晴らしい演奏を聴かせて欲しいものだと思う ♪


以下、今回取り上げたピアニスト(CD)に関する情報を整理しておく。


リュウ・シーボー(Liu Shibo/ 劉 仕博)

CD の解説に「中国の学者でありピアニストでもあるチェン・シュエユアン(Chen Xueyuan)が、リュウ・シーボーを招聘して実現した録音プロジェクト」とある。

次のチェン・シュエユアンも 9曲のアルバムを2025年 7月26日に同じレーベル(Da Vinci Classics)から出しており、2人で前半/後半の作品を分担したのかも知れない。

💿Muzio Clementi: 15 Piano Sonatas(3CD)(Da Vinci Classics、2026/3/27)

✏️Muzio Clementi: 15 Piano Sonatas CD Booklet(PDF、Clic Musique ! )

✏️Muzio Clementi: 15 Piano Sonatas(Da Vinci Publishing):"Description" 詳しい

✏️Muzio Clementi 15 Piano Sonatas(HMV&BOOKS)

♪ Muzio Clementi: 15 Piano Sonatas(アルバム)


チェン・シュエユアン(Chen Xueyuan)

💿Muzio Clementi: 9 Piano Sonatas (2CD)(Da Vinci Classics、2025/7/18)

✏️Muzio Clementi: 9 Piano Sonatas(Da Vinci Publishing):"Description"詳しい




ウラディミール・ホロヴィッツ(Vladimir Horowitz、ウクライナ、1903 – 1989)


クレメンティのピアノソナタは、ホロヴィッツが取り上げたことで知られるようになったという一面もあるようだ。そういう意味でも貴重なアルバム。

"Sonata, Op. 47: Rondo, No. 2" として 1950年に録音された楽章は、Op.24-2 変ロ長調の第3楽章 "Rondo Allegro assai" である。


マリア・ティーポ(Maria Tipo、伊、1931 - 2025)

ティーポは、クレメンティのピアノソナタ全曲録音を史上初めて成し遂げた。スカルラッティのソナタや J.S.バッハの『ゴルトベルク変奏曲』の録音はディアパソン・ドール賞を受賞している。下記は 1992年に 4曲を録音したアルバム。



ピョートル・ケピンスキ(Piotr Kępiński、ポーランド、1974 - )



ジュリア・トニオーロ(Giulia Toniolo、伊、1996 - )



ハワード・シェリー(Howard Shelley、英、1950 - )

クレメンティのピアノソナタ全曲録音を果たした二人目?のピアニスト。



参考情報:


✏️クレメンティ 1752 - 1832 Clementi, Muzio(PTNAピアノ曲事典)


✏️クレメンティー:ソナタ・アルバム(1)(〜(3)、全音:Breitkopf & Hartel社版を底本)



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