カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ (Carl Philipp Emanuel Bach、1714-1788)は、鍵盤楽器向けのソナタを 150 曲以上残している。代表曲を探してみたがよく分からない。
なので、ヘンレ社の "C.Ph.E. Bach/ Piano Sonatas, Selection" 3巻に入っている 34曲と、それ以外でピアニストたちが録音しているものを含めて 50曲以上を聴いてみることにした。
この記事では、ざっと聴いた範囲ではあるが、個人的に気に入った曲を挙げてみた。演奏は現代ピアノによるものに限っている。
聴いたのは、最初にキース・ジャレット、マルカンドレ・アムラン、ミハイル・プレトニョフ、アンソニー・スピリの 4人のピアニストが演奏しているソナタ 26曲。
そして、ヘンレ社の楽譜に入っている曲でこの 26曲に含まれない 28曲を、アナ=マリヤ・マルコヴィナ(Ana-Marija Markovina、クロアチア、1970- )による『C.P.E.バッハ鍵盤独奏作品全集』の音源で聴いた。
ちなみに、マルコヴィナの全集はとても素晴らしく、ついでにその解説記事(↓)の収録曲一覧も非常に分かりやすく重宝している ♪
✏️ベーゼンドルファーによるC.P.E.バッハのピアノ曲全集(HMV&BOOKS)
最初に全体的な印象。どのソナタもある意味「新鮮」で溌剌とした曲が多く、聴いていて結構楽しめた。
父 J.S.バッハとも違うし、影響を与えたと言われるハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンなどとも違う。でも、どこかに似たようなフレーズや雰囲気が登場したりもする。
また、「多感様式」の特徴である「強弱や雰囲気の唐突な変化、鋭角的な旋律、突然の休止、大胆な転調」などもあちこちで感じ取れるが、それに加えて「先駆者・実験者」として色んな「試み」をしてそうだなぁ…という印象も受けた。
多彩な装飾音や装飾的フレーズ(走句)も魅力の一つだと思う。滑らかなアルペジオ、突然のアクセントなど、音でキャンバスに絵を描いているような…。一つのフレーズが終わり切らないうちに次のフレーズが始まるような感覚も面白い。
それらが「新鮮さ」や「面白さ」につながっていると思うが、一方で、音楽作品としてのまとまり(構築性)や完成度、そして伝わってくるものの内容や質に関しては、曲によるばらつきが大きいという感じもする。
以下、音源ごとに「💿 CD(Amazon)、✏️紹介記事、♪ YouTube音源、収録曲」を記載し、収録曲にはお気に入りマーク「🌸:気に入った 🌼:やや気に入った」を付けてみた。とくに気に入った楽章があった場合は「mv2」(第2楽章)等も表記した。
曲ごとの感想はなかなか難しいので割愛…(^^;)。
まずは、キース・ジャレット。聴いた中では一番好きだった演奏 ♪
この CD は、1994年に自宅スタジオで録音され約 30年間眠っていた音源が 2023年に CD としてリリースされたもの。「ヴュルテンベルク・ソナタ」Wq.49 の全 6曲。
✏️キース・ジャレットによる未発表クラシック録音が発売決定。(BLUE NOTE CLUB)
収録曲(ヴュルテンベルク・ソナタ)
- ソナタ イ短調 Wq.49-1 (H.30) 🌸
- ソナタ 変イ長調 Wq.49-2 (H.31) 🌼 mv2
- ソナタ ホ短調 Wq.49-3 (H.33)
- ソナタ 変ロ長調 Wq.49-4 (H.32) 🌼 mv2
- ソナタ 変ホ長調 Wq.49-5 (H.34)
- ソナタ ロ短調 Wq.49-6 (H.36)
マルカンドレ・アムランの CD は、ソナタ 6曲にロンド、ファンタジア、小品などを組み合わせたアルバムになっている。
一番気に入ったのは「ソナタ ホ短調 H66 Wq62/12」なのだが、実は「アルマンド、クーラント、サラバンド、メヌエット、ジーグ」という「組曲」の構成になっている。「組曲」と表記した資料もある。
収録曲
- ソナタ イ短調 H247 Wq57/2
- ロンド ホ長調 H265 Wq57/1
- ファンタジア ハ長調 H291 Wq61/6
- ソナタ ホ短調 H66 Wq62/12 🌸(組曲)
- わがジルバーマン・ピアノへの別れ H272 Wq66
- アリオーソと9つの変奏 ハ長調 H259 Wq118/10
- 行進曲 ト長調 BWV.Anh124
- ソルフェッジョ ハ短調 H220 Wq117/2
- ロンド ハ短調 H283 Wq59/4
- ソナタ ヘ短調 H173 Wq57/6
- アリ・ルーパリヒ H95 Wq117/27
- ソナタ ニ長調 H286 Wq61/2
- ソナタ 変イ長調 H31 Wq49/2
- ロンド 変ロ長調 H267 Wq58/5
- ソナタ ホ短調 H281 Wq59/1
- La complaisante H109 Wq117/28
- ロンド ホ長調 H274 Wq58/3
- クラヴィーアのための自由な幻想曲 嬰ヘ短調 H300 Wq67
- L’Herrmann H92 117/23
- La Prinzette H91 Wq117/21
ミハイル・プレトニョフの CD はソナタとロンドを組み合わせたもの。
C.P.E.バッハのソナタ集には「…ロンド付きピアノ・ソナタと…」というタイトルのものがあるが、プレトニョフの選曲はソナタ集の曲順にはこだわってないようだ。1998年の録音。
収録曲
- ソナタ ト短調Wq.65-17(H.47) 🌼
- ロンド イ長調Wq.58-1(H.276)*
- ソナタ ハ短調Wq.65-31(H.121)
- ソナタ ニ長調Wq.61-2(H.586)*
- ソナタ嬰ヘ短調Wq.52-4(H.37)
- ロンド ニ短調Wq.61-4(H.290)*
- ソナタ ト長調Wq.62-19(H.119)
- ロンド ハ短調Wq.59-4(H.283)*
- ソナタ ホ短調Wq.59-1(H.281)*
- アンダンテ・コン・テネレッツァ(ソナタ イ長調Wq.65-32 第2楽章)
*「専門家と愛好家のためのクラヴィーア曲集」から
アンソニー・スピリ(Anthony Spiri、米、1955-)というピアニストは初めて知ったのだが、チェンバロ奏者でもあり、ニコラウス・アーノンクールのアシスタントを務めたこともある人のようだ。
C.P.E.バッハの CD は 2枚録音しており、ソナタ 6曲、ファンタジア 5曲、ロンド 3曲などが含まれている。
収録曲
- 主題と変奏 ハ長調 H.259 Wq.118-10(1777年以降)
- 鍵盤楽器のための2つの作品 H.299 Wq.65-50(1786年)第2番 ハ長調/第3番 イ短調 *
- ファンタジア イ長調 H.278 Wq.58-7(1782年)
- ソナタ イ長調 H.186 Wq.55-4(1765年)🌸
- ファンタジア 変ロ長調 H.289 Wq.61-3(1786年)
- ソナタ 変ロ長調 H.282 Wq.59-3(1784年)🌼
- ロンド 変ロ長調 H.267 Wq.58-5(1779年)
- ロンド 変ホ長調 H.268 Wq.61-1(1786年)
- ロンド ホ短調 H.272 Wq.66(1781年)
*マルコヴィナの全集では、Wq.65-50 は「ソナタ ト長調」となっており、謎?
収録曲
- ファンタジア ト短調 H225 Wq.117-13
- ソナタ ハ長調 H248 Wq.65-47
- ソルフェッジョ ハ短調 H220 Wq.117-2
- ソナタ ハ短調 H298 Wq.65-49
- ソナタ ホ長調 H213 Wq.65-46
- ソナタ 変ホ長調 H78 Wq.65-28
- ファンタジア ハ長調 H291 Wq.61-6
- 自由な幻想曲 嬰ヘ短調 H300 Wq.67
ヘンレ社の楽譜に収載されている 34曲のうち、上の CD に入ってないソナタ 28曲を、アナ=マリヤ・マルコヴィナの『C.P.E.バッハ鍵盤独奏作品全集』で聴いた。
YouTube の音源(アルバム)は "Ana-Marija Markovina Pianist" の「リリース」ページに 26枚の CD 毎のアルバム音源が並んでいる。順番になってないのがちょっと不便…(^^;)。
以下、ヘンレ社の楽譜順に聴いた第一印象(🌸:気に入った 🌼:やや気に入った)をマークしてみた。?印のものはあまり好みでないか、よく分からなかったもの。" :P" 等は上の他のピアニストで既に聴いているというマーク。
- C.Ph.E. Bach/ Piano Sonatas, Selection, Volume I(1740〜1748)
- ソナタ ト長調 Wq65/12 H23?
- ソナタ ロ短調 Wq65/13 H32.5 🌼
- ソナタ ロ短調 Wq49/6 H36 :J
- ソナタ ハ長調 Wq62/7 H41?
- ソナタ ヘ短調 Wq62/6 H40?
- ソナタ 嬰へ短調 Wq52/4 H37 :P
- ソナタ ト短調 Wq65/17 H47 :P 🌸
- ソナタ 二短調 Wq69 H53?
- ソナタ 変ホ長調 Wq52/1 H50 🌼
- ソナタ ト長調 Wq65/22 H56?
- ソナタ 二短調 Wq65/23 H57?
- C.Ph.E. Bach/ Piano Sonatas, Selection, Volume II(1749〜1758)
- ソナタ ハ長調 Wq 62/10 H59?
- ソナタ 変ホ長調 Wq 65/28 H78 :S
- ソナタ ホ長調 Wq 65/29 H83 🌼mv2
- ソナタ ホ短調 Wq 65/30 H106 🌸
- ソナタ 変ロ長調 Wq 62/16 H116?
- ソナタ ハ短調 Wq 65/31 H121 :P
- ソナタ ト短調 Wq 62/18 H118?
- ソナタ ト長調 Wq 62/19 H119 :P
- ソナタ ロ短調 Wq 62/22 H132?
- ソナタ イ長調 Wq 65/32(70/1) H133(135) 🌼mv1
- ソナタ イ短調 Wq 62/21 H131?
- ソナタ ホ短調 Wq 52/6 H129 🌸
- C.Ph.E. Bach/ Piano Sonatas, Selection, Volume III(1760〜1783)
- ソナタ ハ長調 Wq51/1 H150 🌼
- ソナタ ハ長調 Wq65/35 H156?
- ソナタ ハ長調 Wq65/36 H157?
- ソナタ イ長調 Wq65/37 H174 🌼
- ソナタ ニ長調 Wq65/40 H177 🌸
- ソナタ ハ長調 Wq65/41 H178?
- ソナタ 変ホ長調 Wq65/42 H189?
- ソナタ 変ホ長調 Wq65/44 H211 🌸
- ソナタ へ長調 Wq62/24 H240?
- ソナタ ハ長調 Wq65/47 H248 :S
- ソナタ ト長調 Wq65/48 H280?
まとめ。とりあえず、🌸(気に入った)マークを付けたものを並べるとこんな感じ(↓)。他に🌼(やや気に入った)マークを付けたものが 10曲ほど。
- イ短調 Wq.49-1 H.30
- ホ短調 Wq.52-6 H.129
- イ長調 Wq.55-4 H.186
- ホ短調 Wq.62-12 H.66
- ト短調 Wq.65-17 H.47
- ホ短調 Wq.65-30 H.106
- ニ長調 Wq.65-40 H.177
- 変ホ長調 Wq.65-44 H.211
今回はざっと聴いた範囲(ほとんどの曲は 1回だけ、気に入った曲やピアニストの聴き比べなどした場合は 3〜4回)での直感的な感想(ほぼ第一印象)なので、お気に入りマーク(🌸🌼)にもあまり自信があるわけではない…(^^;)。
それと、当然かも知れないが、今回はとくにピアニストによる違いが大きいように感じた。キース・ジャレット以外は、惹き込まれるような演奏は少なかった。
素人クラシック愛好家の勝手な想像だが、C.P.E.バッハの(ソナタ)作品群はまだ十分にはその「真価」が現れていない(現実の音・演奏になっていない)のではないか…?
音楽作品は優れた演奏によってその真価が現れる…のだと思う。
それも、一人の演奏家による探究や解釈の深化によってだけではなく、複数の演奏家による多様な解釈や演奏とそれを聴く聴衆によって、ある意味「社会的に」醸成されていく…。
以前、リュカ・ドゥバルグがインタビューで「作品は時を超えて、演奏家の手によって新たな命を吹き込まれる」という趣旨の発言をしていたが、その通りだと思う。
そういう意味では、C.P.E.バッハの作品はまだ十分には「新たな命」を吹き込まれていないのでは?…もっと演奏されていい作品が沢山あるのでは?…という気もする。


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